第十四夜 ①ー5
「エラリア・シンディエルク…これが貴女の名前なの?でもエラ・エーデルワイスって言うのは?どういうことなの?」
リチアがハテナを頭の上に浮かべたのを見て、彼女は魔女の成り立ちを知らないことを知った。
「そうか、リチアは魔女が何かを知らないのか」
「どういうこと?キースは知ってるのよね」
「ああ。魔女の媒介となる人間は行方不明になっているんだ」
「つーかほとんどが捨てられた赤子らしいぞ」
アイザックがしれっとそう言うとそれを聞いたリチアが青ざめる。多分、ほとんどの人がこういった反応を示すだろう。何せこの世界の人々は魔女が元々同じ人間の赤子だと言うことを知らないでいるのだから。
「赤ちゃん…それじゃ、その子達は誘拐されたという事?それとも…捨てられたの…?」
真っ青な顔で口元を両手で押さえながらそう呟くリチア。どこまでも純粋な彼女には酷な真実なのかもしれない。
「…捨てられた、が正しいですわ。イオ様も仰っていましたけど、元々原初の魔女も捨てられた赤子だったそうですわ。その子を拾ったのは人間ではなく魔王だったと言っていましたわ」
エラは淡々と答えた。その姿にキースもアイザックもリチアも複雑な顔をした。
「気になさらないでください。私には小さな頃の記憶はありません。ですので、捨てられたのでしょうけど寂しいとかそういう感情は無いんですの。それより、私の名前があったと言うことは出身についてもわかると言うことですの?」
答えを求めるようにキースを見る。視線に気付いたキースは軽く頷いた。
「ああ。この娘の名前がエーデルワイス自身のものだと言うのであれば、お前の過去ということにはなる」
そう言ってキースがある本棚から本を取り出してくる。それを机の上にある頁を開いて置く。
その頁の内容を見てみる。
“ エラリア・シンディエルク(当時一歳) の三女。シンディエルク公爵家が没落した際、森に捨てられた。夜逃げ同然にもぬけの殻になった邸宅より追跡調査を開始。潜伏先を特定。その時点で三女の姿無し。逮捕後の調査により森に捨てたと供述が取れた ”
「…公爵家…没落してたのね…そんな…」
「今のエーデルワイスは十七歳で合っているな?」
「ええ、そうですわ。…記憶が正しいなら、ですけど」
「いや、多分それで合ってるぜ」
アイザックが言い切るのでエラは他の二人に聞こえないように小声で耳打ちする。
「ちょっと!どうして言い切れるのよ?」
「だってサイトの人物紹介のページに年齢も書いてたじゃねーか。ちゃんと十七歳って書いてたぞ」
呆れた物言いのアイザックにエラは面食らいつつ彼の言葉ではたと気付いた。そうか。人物紹介に載っていた。そういう外部情報をしっかり思い出しておかなければ…。
二人でこそこそしているのを疑問に思いながらもキースは話を続けた。
「この娘が捨てられたのは今から十六年ほど前の事だ。時期的には可能性が高い。確か、この家族を取り調べた際にいくつか持ち物を撮影し保管したはずだ。その中に家族写真もあったはずだ」
再びキースは本棚へ向かう。かなりの数の本棚に蔵書の数だがどうやら彼はすべて把握しているようだ。
キースが本を探している間に今度は魔王についての蔵書を開く。
「闇の世界を束ねし魔族の王…。長きに渡り光の世界と闇の世界は争いあっている…か。どれも同じようなことばかりね」
何冊かピックアップしてキースに集めてもらったがどれも収穫はなかった。魔族に関してはあまり情報が無いのかもしれない。と、諦め半分に手に取った本のページを捲ったとき、本を探していたキースから声が掛かった。
「待たせたな。見つけたぞ、シンディエルク公爵家の資料だ」