第十四夜 ①ー2
「では、簡単に説明するとしよう。このお茶は我が領内で採れる茶葉を使ったものだ。名をルイボンスと言う。リチアは何度か飲んだことがあると思う」
「ええ。とても優しい舌触りで後味もすっきりしてるのよ。茶色よりも赤みがかった色も素敵なの」
ルイボンス…原作でもキースルートで軽く触れられた飲み物だ。紗夜の感覚から言えば紅茶に近い。
…まさか実際に味見出来る日が来るなんて思わなかったわよね…。
そんなことを考えながらエラはルイボンスを飲んでみる。ほんのり甘く滑らかな舌触りで後味はすっきりしている。ケーキにも手を出してみたがほんのり甘いクリームがルイボンスとの相性が良かった。そんなお茶とケーキに舌鼓をうっているとリチアが本題を切り出した。
「それでね、エラ。今日は聞きたいことがあって呼んだのよ」
パン!と両手を鳴らす。嬉々とした笑顔にエラは戸惑ったが、話を聞いてみないことには判らないのでとりあえずそのまま聞いてみる姿勢をとる。
「えっと、何でしょう?」
「単刀直入に聞くわね!あれからイオ様とはどうなったの!?」
目を爛々と輝かせて訊ねてくるリチアに面を食らった。思わず目をぱちくりとさせる。あとそのグイグイくる勢いにも若干引いた。
…ちょっと待って一体何の話よ!?イオニコフとどうなったか!?
「…あら?待って?何もなかったの?」
エラが答えあぐねていると悟ったリチアがしょぼんと犬が耳を垂らすような仕草に見える。さすがヒロイン。可愛すぎる。
「えっとあの、一体何を期待してるのかわからないのですけど…」
「だから、イオ様とお付き合いすることにはなっていないの?私、それが聞きたかったのよ!…でも…その様子じゃ…まだみたいね…」
期待する回答が得られなかったのですっかりしょげてしまったリチア。お菓子を頬張り始める。
…えーっと、つまり?リチアは私とイオニコフが付き合うことを望んでるってこと?
乙女ゲームの主人公に攻略対象との恋愛を望まれるなんてあっていいのか。これも彼女による死亡フラグを叩き折れたことによる結果と視るべきなんだろう。
「イオニコフ様はエーデルワイスの事が好きなのか?」
黙って聞いていたキースが口を開く。きょとんとした顔で首を傾げているキースを見てリチアがぷくーっと頬を膨らませた。
「キース!もしかして全然気づいていなかったのですか!?」
「ああ、悪い。どうにも俺は鈍感で…」
頭の後ろを掻くキースとまだぷんぷん怒っているリチアのやり取りは微笑ましいものだが当の本人の居ないところでペラペラと喋るのはどうなんだろうか。これは恋愛漫画でよくあるいわゆる「うっかり聞いてしまった」パターンに相当するのだろうか。
エラは心を無にして二人のやり取りを聞き流す。
…私、一体何を聞かされてるのかしら…。
目の前であれこれと自分と誰かの恋愛話を聞かされるのは実に心臓に悪いものである。確かにこれまでの経験上、イオニコフはエラ・エーデルワイスの事が…と思うことがあるが、ここまで筒抜けなのか。いや、そもそも隠す気がない?
「あの…私、帰って良いですか?」
居たたまれなくなってエラがそう切り出すと、イチャコラしていた二人が慌てて引き留める。
「あ、待って!エラ!」
腕を掴まれて引き留められる。
「えっとね、まだ帰らないで!もう一人来るのよ!」
リチアがそう言ったのと同時に部屋の扉をノックする音が聞こえ、それにキースが返事すると爺やが扉を開けて入ってくる。その後ろに居たのは…。
「え…アイザック!?」
「よっ!呼ばれてきてやったぜ」
片方の手をズボンのポケットに突っ込み、もう片方の手で挨拶をした。
「良く来たな」
「いらっしゃいアイザック。待っていました!」
キースとリチアがアイザックを招き入れる。この状況に置いてきぼりのエラはきょとんとした。