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転生先は灰かぶり  作者: 紗吽猫
サブイベント~夏休み終盤・英雄とヒロインと~
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第十三夜 ⑤

膝の上に座るエラの腰に手を回して彼女の体を支える。イオニコフとエラの体は密着しお互いの顔が目の前にくる。この状況を飲み込んだエラは顔から火が出そうなほど心臓が跳び跳ねてばくばくと脈を打った。耳まで真っ赤だ。


「い、いいいイオニコフ様!?これは一体なんですの!?何故、膝の上に…」


思考がぐるぐるになってテンパっているエラの反応が愛しすぎてイオニコフは膝の上に座る彼女を抱き締める。エラはそれにもビックリしてぼふんと思考回路がショートする音を出した。


「やっぱり、エラは可愛いね。キミを見てるとついこうして愛でたくなるよ」


腕の中にいるエラの頭を撫でる。イオニコフは満足気だがエラは複雑な心境にいた。


…な、なんなのこれ!?どうしていきなり抱き締められてるの!?付き合ってる訳でもないのよ!?大体、この世界の主人公はリチアで…。エラは灰かぶりで…。

そんな風に考えた時、ちょうどイオニコフの手がエラの頭を撫でた。つられて見上げると目の前に彼の顔がある。その彼は愛しい者を見つめる優しい表情をしてこちらを見つめてきた。これが恋愛漫画ならこのままキスをしていそうな甘い空気。


…そうだわ…アイザックが言ってたんだ。彼らもこの世界で生きているんだって。誰が主人公だとかシナリオだとかそんなものだけで運命は決まらない。もしそれで決まるんだとしたら、今こうしてイオニコフの腕の中にいるのがエラな訳がないわ。…甘えてもいいの?

このまま、彼の腕の中に抱かれていてもいいのだろうか。


「…?エラ?急に黙ってどうしたんだい?」


俯くエラの顔色を心配そうな顔で確かめてくれる。その視線にもエラの胸の奥が暖かくなるのを感じた。

…今の彼は味方だ。大切にしようとしてくれている。それがこんなにも嬉しいものなのね…。


この状況に甘んじていようかと考えた瞬間、それを否とする声が脳内を駆け巡った。

…いや、何してんの私。そうじゃないでしょう…ッ!?

バッ!っとイオニコフの膝の上から降りて立ち上がる。イオニコフはしゅんと寂しそうな顔をしたが構ってはいられない。エラは立ち上がるとくるりと向き直してイオニコフを見る。

甘えていてはいけない。彼らの手を借りることがあったとしても立場は対等でなければなるまい。


「イオ様、甘やかさないでくださいな」


「えー?キミはもっと甘えてもいいと思うんだけどな」


「だめですから!それに、授業が始まったら注目の的になってしまいます!再三言ってますけど、私、灰かぶりですからイオ様と居ると悪目立ちしてしまいますの」


「…それはボクと一緒にいるのが嫌ってことかい?」


イオニコフが不服そうな声をあげる。エラは慌ててフォローを入れる。


「あ、いえ!そういう意味では無くてですね…私もイオ様と一緒に居られるのは嬉しいですのよ!?それは本当ですのよ?ただ…闇属性の魔力を持っているからか忌み嫌われやすいのです。だからか、私がイオ様やリチア様と親しくしていると後ろ指さされるんですよ。それが私だけなら良いんですけど、もし矛先がイオ様達に行ってしまったらと…」


彼らがいじめの標的されることはないかもしれない。それでも、


「私のせいで後ろ指さされるなんてそんなの見たくないんです。ですから…」


エラは俯く。そんな彼女を見たイオニコフは少しだけ微笑む。


「わかったよ。じゃあ、人前では止めておく。でも、話し掛けるな、なんて言わないだろ?」


「そ、それは言いませんわ。…話せないのは、私も嫌、ですし」


プイッとそっぽを向いたエラは少しだけ気恥ずかしそうに口を尖らせている。それが可愛くて仕方ないイオニコフはエラの手を取る。


「ふふ。そう言ってくれると嬉しいな。大丈夫、上手くやるさ」


彼女の手を握って微笑むイオニコフにエラは笑顔で返す。それでもイオニコフが一瞬だけ寂しそうな笑みだったのを見逃さなかった。瞬間、彼を手離してはいけないと思った。咄嗟にエラはイオニコフの手を握り返す。


「あの…!!」


今の彼は味方だ。これから先に起こるだろうイベントに巻き込みたくない。だけどそれは今更だ。元々彼による死亡フラグを折るために近づいて好感度を上げてきたのだし、彼の実力は並大抵の人間では追い付かないレベル。そんな彼の力を借りられたらどれだけ心強いだろう。それにきっと彼は頼れば力を貸してくれる。


「お願いがあります」


そう真っ直ぐにイオニコフの目を見て話すエラの様子に、イオニコフも真剣な面持ちになる。真面目に聞こうとしてくれているのが判る。


「なんだい?ボクに出来ることならなんなりと」


エラはその言葉に安堵した。そして意を決して頼んだ。きっと彼は頼れば喜んでくれる。


「これから先、いざという時、貴方の力を借りることがあるかもしれません。その時はわたくしを信じて力を貸してほしいのです」



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