第二夜 ①
春の接触イベント後。二週間程が経っていた。
そして今週末、魔法の模擬試験が行われる。目下最大の回避すべきイベントだ。
あれからは大人しい、ように見えてゲーム同様にリチアとキースが居ないところではエラは灰かぶりだと罵られ、虐めは続いている。だが、だからといって主人公組と行動すると彼女の良い駒人生が待っているだけなのは目に見えているので出来るだけ共に行動しないようにしている。共に行動するだけで彼女の好感度を獲得してしまう危険があるのだ。
ただ、少し驚いたのは未だに虐めが続く中、ゲームと違っているのは周りの反応だった。
…それもそうか…。違うもんな…。
記憶が正しければエラは虐められる度に怯えて逃げていた。だがしかし、ここにいるエラ・エーデルワイスは逃げるでもなく怯えるでもない。無反応。さっさとその場を去り、汚れた制服を叩いたりして終わらせていた。それもこれもリチア達に騒がれたくない為だ。騒がれると過度に接触することになる。
「はぁ…。エラも面倒な立ち位置だこと」
廊下を歩きながらぽそりと呟いた。向かう先は旧校舎。授業が始まっても旧校舎の方は人が近寄らないので魔法の練習にはもってこいだった。
模擬試験までになんとか魔法を扱えるようにしなければ…。
☆
模擬試験当日。
「ついにこの日がやってきてしまった…」
晴れ渡る空は眩しいくらい燦々と太陽が輝いている。エラはクラっとしそうな春の陽気にちょっとした絶望を味わっていた。
というのも、ついに魔法が使えるようにはならなかったからだ。イオニコフの話では魔力が封じられているとのことだったのでそりゃ使えるようになるわけないだろ、と突っ込まれそうだが、何もしないのも心臓に悪かったのでただの悪足掻きだ。
「エラ!ここにいたのね!」
学園内にある闘技場とも呼べる大きなグラウンドで模擬試験は行われる。生徒は一斉にクラスごとに定められた客席に移動し、トーナメント方式で行われる模擬試験にて順番が来るのを待つことになっている。
ざわざわ、和気藹々としている中で客席ではなく通路の端の壁側にひっそりと目立たぬように立っていたエラに笑顔で声を掛けてきたのはリチアだ。隣には彼女を護るようにキースが控えている。
…そういえば、ゲームでもキースって主人公にベッタリだったなぁ。他の個人ルートに入っても度々出てきてたもんねー…。
リチアの隣に立つキースをエラはしげしげと見つめた。爽やかな青年といった見た目の彼は王子様という称号がぴったりだと思う。
「もうすぐ第一試合が始まるが…リチアはルールを知っているか?」
そんなエラの視線を知ってか知らずか目の前で話し始める。ゲームでの会話イベント部分だ。
「ええ、制限時間内に相手の風船を三つ割るか、終了時に風船が多く残っていた方が勝ち。試合の中でいかに上手く魔法を使えるか、がこの後の魔法学のクラス分けにも影響するのでしょう?」
「ああ、そうだ。良く理解しているな。さすがはリチアだ」
「でも…私、試合とは言え戦うのは気が進みません…」
「リチア…君は優しいな。そういう所は変わっていない」
…あっまーーーーーーい!!!相変わらずキースはリチアに甘ちゃんだな!!!!
リチアとしてプレイしていたときは感じなかったが、この会話、目の前でされると甘過ぎて胸焼けしそうだ。確かこの後の会話も甘々だったはずだ。早速会話に嫌気が差したエラは二人の視線を外れて反対側に移動した。
その時、イベントが進行し、模擬試験が開始した。