第十三夜 ①
ここまで読んでくださっている方、ブクマを外さずにいてくれる方、本当にありがとうございます。
書きたい話を書いていたら一番書きたい話が後回しになってしまいました…。
ここからはイオニコフの溺愛っぷりが増えていきますので少しでも楽しんでもらえたら幸いです。
怒涛の海イベントが終わり、帰って来たエラは寮のベッドに突っ伏していた。
まだ夏休みが終わるまで二週間はある。買い出しにも行かなければならない。
…もう、頭の中はぐちゃぐちゃだわ…。
吉報と言えばもう魔女に乗っ取られる心配はないということ。それとリチアとイオニコフによる死亡フラグは折れたこと。だけどまだ課題は山積みだ。
「とりあえず、買い出しに行こうかしら」
帰って来たばかりで疲れてはいたがエラは簡単に荷物を持って部屋を出ると、その道中でばったりとイオニコフと出くわした。
「やあ、エラ。さっき別れたばかりなのに…こんなところで会うなんて奇遇だね」
学内にあるコンビニに向かう途中での事だった。あの二日間が嘘のような優しい笑顔のイオニコフにエラの胸はとくんと跳ねる。いつもの数倍キラキラして見えて直視出来ない。
…ああああもう!!!アイザックが変なこと言うからあああ!!ただでさえ顔面偏差値高いのに…!!
イオニコフを見ていると胸の動悸が早くなってくる。なんとか気を紛らわせようと努めて明るい声で返事をした。
「え、ええ!そうですわね!奇遇ですね」
それでもやっぱり直視出来ない。声も上擦った。
「…?えっと、エラは今から何処に行くんだい?」
首を傾げつつイオニコフは訊ねてくる。
「あ、買い出しに行こうとしてました。学内のコンビニに」
「ホントかい?ボクも買い出しに行こうとしてたところなんだ。良かったら一緒に行かないかい?」
彼はそう訊ねながらエラの手に指をするりと絡ませて握る。エラはビクッと体を跳ねさせて驚いた。これでは断れない。
…違うわ…。断れないんじゃない…。
握られた手を振りほどきたくないのだ。指先からじんわりと伝わる熱に離れがたくなる。
「…はい。一緒に行きましょう」
エラが手を握り返してそう言うとイオニコフは一瞬だけ目を見開いて驚いたが、すぐに嬉しそうに口元に笑みを作った。その笑顔を見てエラは心から安堵した。
二人は歩き始めて学内のコンビニに向かう。未だ夏休みということもあって生徒達が戻ってきていないので人目を気にしなくて済んだのは幸いだ。
「イオ様は自炊とかなさるんです?」
何も会話をしないと言うのもなんなので雑談をしてみようとする。
「うん。自炊はするさ。外食ばかりじゃ体に悪いし、料理って結構面白いしね」
「へぇ…なんだか意外ですね。イオ様って料理人くらい抱えてそうなイメージあるので…料理してるイオ様ってなんだか新鮮です」
「ええ?ボクってそんなイメージなのかい?おっかしいなぁ…何でだろ」
「ふふ。ちょっとだけですよ。なんだかそんなイメージあるんですもの」
エラがクスクスと笑う。隣で笑う彼女を見てイオニコフは心から喜んだ。ずっと見たかった笑顔だ。こんな雑談だって望んでいたことだ。アイザックとしていたように、自分とも雑談をして欲しかった。もっと気楽で、もっと側にいたかった。やっと、そんな自分の感情にも気づけてその願いが叶ったのだ。
「エラは?料理は得意なのかい?」
「私ですか?そうですわね…一通りは出来ると思いますけど…」
紗夜自身は簡単なものしか作れなかったが、エラは何でも出来たらしい。記憶にあって体も覚えているので自炊に困ったことはなかった。
そういった意味では非常に助かっている。
「エラも自炊するんだね。学食だってあるからしなくてもいいくらいなのに、偉いね。…あ、話変わるけど、今日の夕飯はこれから買うんだよね?」
「いや…偉いと言うほどではないと思いますけど…ええ、まぁ、そうですね。これから買います」
「そっか…。じゃあ、一緒に食べないかい?ボクの手料理で良ければだけどさ」
それは願ってもないお誘いだった。お誘いがあるということはそれだけ好感度が貯まっているということでもあるし、何より彼の手料理には興味がある。
…アイザックも難しく考えるなって言ってたし…。たまには純粋に楽しんでもバチは当たらないわよね?
「あの、じゃあ、お言葉に甘えてもいいです?」
エラがそう答えるとイオニコフは笑顔で「もちろんさ」と頷いた。
学内のコンビニでそれぞれが必要なものを買い揃えた後、一旦各々荷物を置きに帰宅した。