第十二夜 番外編 ①
リチアの聖なる矢で射ぬかれた魔女は悲鳴を上げて闇夜を真っ白に染めた光と共に消滅した。黒く染まっていたエラの姿は元に戻り、力抜けたように眠りについた。
簡単だが体調の確認をしエミーユが魔力の状態を調べて命に別状はないことが判り、ベッドに寝かせたけれど彼女は目覚める様子がなかった。
「エラはまだ眠っている。この間に話をつけておこうか」
こう切り出したのはイオニコフ。別荘の一階にある吹き抜けスペースの居間に全員が集まっていた。イドラの話では後々アイザックも来るそうだ。
各々ソファーに座り、イオニコフは階段に足を掛け段の途中で立ち止まり居間を見渡しながら話す。
「キミ達も見た通り、エラは魔女だ」
ごくりと唾を飲み込む音が微かに響く。
「だが、聖女の力によって魔女の力そのものは浄化出来た。本来、魔女を発見した場合に国や学園に報告する決まりだけど、ボクはこれを適応する必要性はないと考えている。キミ達はどうだろうか」
口調やトーンがいつもと違いその雰囲気も美男子イオニコフと言うよりも「英雄イオニコフ」と例える方がしっくりきそうな威厳のある声だ。思わずかしずいてしまうそうになる。有無を言わせない空気を作り出す。
イオニコフはそれぞれの顔色を窺う。意見を求めてはいるが安易に下手なこと言えない重い空気に皆の口は重くなってしまう。
そんな中でおずおずと声を絞り出したのはキースだった。
「俺は王国に忠誠を誓う騎士の家系の一人として魔女に関する真実を知っています。機密事項故に詳しくは言えませんが、核たる魔女を浄化することが出来たので媒介だったエラ・エーデルワイスが今後、危険人物になるかは明確ではありません。それに、我々が知る彼女は好んで誰かに危害を加えるような人物ではない。よって、今現在は報告を保留、彼女を側で観察し、危険と判断すれば報告、といった形でも良いかと思われます」
「わ、私もそう思います。エラは魔族であっても無闇に殺すようなことを好みません。とても優しい子です。私とキースを助けてくれました。魔族の親子も助けた子です。そんな彼女を魔女だったからと無下にするのは…」
キースに続いてリチアがそう付け加えた。イオニコフは納得したように頷いたがギザイアは不服そうに眉を吊り上げる。
「僕も、先輩を学園に突き出すのは反対です。先輩、別に悪いことだってしてません。いじめっこにだって仕返しもしてないみたいですし…。それに、僕のお菓子を食べてみたいって嬉しそうに言ってました。あんな風に笑える人が原初の魔女みたいに人を憎んで攻撃するわけないです」
キースが切り出したことによってそれぞれが口を開く。
「元凶は取り除いた。取り急ぐことはないだろう」
イドラもそう意見を述べた。ここまで誰一人として魔女を学園に報告しないことを推奨するのでギザイアの機嫌は悪くなるばかりだ。
バンッ!と机を叩く。
音に驚いて全員が振り向いた。そこには両手を机に突き、イオニコフを睨むギザイアがいた。彼も攻略対象故に相当な美男子なのだがその顔は鬼のような形相だった。