第十二夜 ⑦
次から次へと繰り出される言葉にエラはぐるぐると思考がパンクし始める。
「英雄は真っ青だったし天使くんもお前にすがってめちゃくちゃ名前連呼してたしなぁ」
その場を想像すればするほどエラの心臓はバクバクと早鐘を打つ。顔も暑くなってきて恥ずかしさに火を噴きそうになる。
「ああ、ハンニバルも無表情そうに見えてすっげー心配してたな、ありゃ。このまま目覚めなきゃどうしよう、みたいな感じだったなぁ」
だんだんと楽しくなってきたのかるんるんと話すアイザック。
「聖女も騎士も浮かない顔してたしなぁ」
「も、もういいわよ!!!!」
バッ!!とエラに口を塞がれたアイザックは驚いた後ニヤリと笑う。そんなやり取りをしているとイオニコフがパタパタとやって来た。
「エラ!?何かあったのかい?」
その声にエラの心臓はドキンと跳ねた。そろそろとイオニコフの顔を見上げると彼の背景にぶわっと薔薇が咲き乱れた。なんだかいつもよりキラキラしている。眩しい。なんだか直視出来なくなって思わず視線を反らす。
「だ、大丈夫ですわ。何でもないです…」
「そうかい?」
きょとんとしているイオニコフが首を傾げる。
イオニコフが来たことでアイザックが入れ替わるようにその場を立ち上がる。
「じゃ、英雄さん、後は任せたぞ」
それだけいうとアイザックはそそくさと波打ち際で手持ち花火で遊ぶリチア達の元に去っていた。
引き留める時間もなく行ってしまったアイザックの代わりにイオニコフが隣に腰掛ける。隣に彼が座ったのでエラの心臓は再度ドキンと跳ねた。いつも以上に緊張してしまう。
…も、もう!アイザックが変なこと言うから…!!!
妙に意識してしまう。カチコチに固まっているエラを見たイオニコフは思わず目を丸くした。
頬を赤く染めたエラが恥ずかしそうに手をもじもじさせながら下を向いている。それに時々ちらっとイオニコフを見ては視線がぶつかると慌てて反らす。そんな初心な反応が可愛くて嬉しくてイオニコフは微笑みながら見つめた。でもすっかり黙ってしまっているのは楽しくない。
「ねぇ、エラ」
「は、はい?何でしょう」
イオニコフはスッと線香花火を差し出す。
「これは…」
「一緒にやらないかい?こういうのならキミもやるかなって思ったんだけど」
「線香花火…ですか」
…この世界には手持ち花火と魔法での花火、二種類もあるのね。懐かしい…。
エラは線香花火を受け取ってその場でしゃがんで線香花火を手に持つ。イオニコフが火の魔法を使って線香花火に着火する。
二人が手に持った線香花火がパチパチと弾ける。小さな火花が咲いては散っていく様は心を落ち着けてくれる。
「綺麗ですね」
「そうだね」
イオニコフはそう答えたが彼の視線は線香花火ではなく、線香花火を見つめるエラ自身に注がれていた。
二人が線香花火をしている様を波打ち際の方からエミーユ達が見守るように眺めていた。
「良かったですね。エラとイオ様。二人とも嬉しそうです」
「ああ。仲直り出来たようだな」
そう言ってリチアとキースが微笑み合う。
エミーユもイドラも同じようになんだか口元が綻ぶ。
ドーン!…パラパラ…。
魔法の花火が高く打ち上がる。それぞれが空を見上げ夏の夜は華やかに過ぎていった。