第十一夜 ③ー4
「リチア!まだいけるかい!?」
「え?ええ、もちろんいけます!!」
イオニコフの問い掛けにリチアは頷く。サッと聖なる弓矢を構える。
「五秒、動きを止めてください!タイミングを合わせます!!」
リチアが構えた事でイドラ達も構えを取る。
「五秒だそうだ!みんな、いけるね!?」
イオニコフがそう叫びながら魔女を睨む。魔女は灯台の屋根の上に移動している。
「はい!行けます!」
エミーユが翼を広げて空へ飛び立つ。
「リチアは俺が守る!」
キースがリチアを守るようにして氷の剣を構える。
「メイクス君、君も構えてくださいよ?どのみち、魔女を滅ぼせるのは聖女である彼女しかいないのでしょう?」
これまでほとんど黙って経過を見ていたローレンも身構えた。
ギザイアは尻餅をついたままだったが立ち上がる。未だに納得はしていないようだが魔法の構えを取った。
「…それはそうでしょうねぇ…。いいですよ。やってやるさぁ!」
ギザイアは魔女へターゲットを定め、魔法陣から水の竜を放つ。
魔女は灯台の屋根の上でその攻撃を大鎌を回転させることで防ぐ。
「はあッ!!!!」
その直後、今度は魔女の背中側の空からエミーユが光の槍で灯台の屋根を突き破って足場を奪う。
『チッ!!小癪な…!』
バラバラ…と崩れる足場から魔女ブラッディクイーンが飛び立つ。その瞬間を狙っていたかのように火球が頭上から降り注ぐ。それらを器用に避けて回りながら魔女はこの魔法を使ったローレン目掛けて闇の雷を落とす。が、キースが先回りし氷の盾を張って攻撃を防いだ。
「エドワルド君…!助かりましたよ!」
「いえ、間に合って良かったです」
軽い会話を済ませると二人は空中戦を繰り広げる魔女とイオニコフやエミーユ達を見る。イドラやギザイアも地上から魔法で攻撃を続けていた。リチアもキースの側にやって来て同じように空中戦を見上げる。
「末恐ろしいですね、魔女というのは」
ローレンがそう口にした。
「それは、どういう意味ですか?」
キースが訊ねるとローレンは「あれは厄介な存在です」と返した。
「あのイオニコフという少年はかの英雄イオニコフと相違ないんでしたよね?あの彼こそ手加減をしているものの、あれだけの多岐にわたる属性の攻撃を避けながら術者を的確に狙って反撃してくるんですからね」
最後に「流石は原初の魔女、と言うべきですかね」とも付け足した。
「…あれだけの実力を身に付けるのにどれだけ戦ってきたんでしょう…」
リチアがポツリと呟く。
「たった一人で、多勢に無勢なはずなのにその戦いを切り抜けるなんて…ずっと独りだったのでしょうか」
「…流石は聖女様。魔女にも同情しますか」
やれやれといった口調でローレンが言うとリチアは黙ってしまう。
「…言い方に気を付けてください」
キースがリチアを背に隠すようにしてローレンを睨む。
「俺は王国に忠誠を誓う騎士の家系の一人として魔女に関する真実を知っています。これは他言無用な為ここで詳しく話すことはできませんが、これだけは言っておきます。魔女は、元人間です。そして今もエラという女性です。聖女が人間の中から生まれてくるようにです。それを踏まえた上で発言してください」
キースはローレンから視線を反らし魔女へと向ける。
「…あれは孤独故の強さだと俺は思います」
「キース…」
リチアが改めて魔女を見やる。今もなお彼女と彼らは戦っている。一人でイオニコフ達を相手にしている。途方もない強さだろう。
「…だから、あなた達は魔女を滅ぼすべきではないと?そう言うんですか?」
「…いえ、俺はそうは思っていません。光の世界を脅かす存在なのは確かです。だから滅ぼさなければならない。ですが、それは最終手段だと思います」
キースがまっすぐにローレンの目を捉えてそう話す。まっすぐで澄んだ瞳だ。ローレンは肩をすかして小さなため息をついた。
「…そうですね…。助けられる命、それを優先するのは騎士として当然と言うわけですか」
キースはその言葉に答えることはしなかった。静かにただ氷の剣を構え直す。その姿を見てリチアも弓を構え直した。
「そろそろだな」
キースはそう一言だけ言った。その言葉を発した直後、イドラの土の魔法が魔女を捕らえる。そしてその両肩を掴んだのはドラゴンのギーウィ。
リチアはその瞬間を見逃さなかった。
目一杯に弓を引いて聖なる魔法で矢を精製し、魔女の心臓目掛けて放った。
それはまっすぐに光の一閃を描いて闇夜を明るく照らす。
『いやああああああああ!!!!』
ギーウィとイドラの魔法に手足も体も捕らえられた魔女は逃げることが出来なかった。
リチアの放った聖なる矢は魔女の心臓を射ぬく。
パキン…!!!
何かが弾ける音。
カッ…!!!
次に魔女の心臓に刺さった聖なる矢が辺り一体の闇夜を立ち眩むほどの眩い光で包んだのだった。