第十一夜 ③ー1
ギーウィの背中に乗っているのはイオニコフとリチアだった。エミーユは片翼だが空を飛べるので空中から後を追う。
地上からはキース達が走って空を飛ぶギーウィの後を追っている。
向かうのは寂れた灯台だ。
「あの…イオ様?」
「なんだい?リチア」
「…本当にエラを助けられるんでしょうか?」
不安そうにリチアは呟く。この世界線の彼女は聖女だけれど今までのイベントでこなしているはずの多くのイベントをこなしてきていない。何度か聖女としての力を使うイベントがあったはずなのにエラが関わっていたからかその手のほとんどのイベントをスルーしてきてしまった。それ故に、今のリチアは「聖女」としての自分に自信がない。
イオニコフは不安そうなリチアを勇気づけるように彼女の目を見て言った。
「大丈夫さ。キミが本当にエラを助けたいと願えばそれが力になる。魔法は術者の心ひとつで毒にも薬にもなるんだ」
リチアはイオニコフの言葉に不安が軽くなったのを感じる。
「心ひとつで毒にも薬にもなる…そうですね。確かにそう習いました」
「…大丈夫そうかい?」
「ええ。大丈夫です。…私、エラともっと仲良くなりたいんです」
「…きっとなれるさ」
イオニコフが笑顔で肯定する。リチアはその言葉に勇気付けられた。コクンと頷いてリチアは灯台を指し示す。
「魔女は…あそこです…!!」
☆
寂れた灯台の一番上。そこに漆黒のドレスを纏う魔女がいる。
魔女は近付いてくる気配にゆっくり振り向く。その表情は迎え撃つ気満々だとでも言いたげなものだった。視界の先には闇夜に紛れて近付いてくる影が見えている。
魔女は大鎌をゆっくりと振り上げ、闇夜に浮かぶ的に向かって大きく振りかぶった。その軌道から真っ黒な闇の刃が飛び出し闇夜のターゲットを襲う。
先制攻撃だった。
闇夜に浮かぶ影はその攻撃をひらりとかわす。そしてお返しにと雷を魔女の目の前へ落としてやる。
魔女は攻撃が当たる前に避ける。と、その先からは光の魔法「降り注ぐ光の雨」が発動した。
『…ッ!!』
魔女は大鎌でその攻撃を弾く。だが畳み掛ける様に水魔法の攻撃や氷魔法の攻撃などが襲って来る。
魔女はその事に苛立ち、空中を駆け回るかのようにひらりひらりと攻撃をかわしながら魔法が放たれた方角に闇の雷を落としまくる。だが、手応えがなかった。
『…ああああああ!!小賢しい!!!』
口調が荒くなった魔女は一旦灯台から離れようとした。だが、その瞬間を見逃すまいと雷が落ちて追撃する。魔女は足元に落ちた雷をひらりとかわし体勢を立て直す。すぐに雷の出所を探る。そして自身の前面一体に大鎌を振りかぶって黒い刃を無数に飛ばし辺り一体を切り刻む。
黒い刃は灯台の周りにあった木々を薙ぎ倒していく。お陰で視界を遮る物がなくなり見渡せるようになった。
月明かりに照らし出された灯台の周りに潜んでいた者達の姿も露になる。
『…わざわざ死にに来るなんて…手間が省けるわねぇ』
魔女の攻撃によって拓かれた森だった場所にキース達が立っている。
ニヤニヤと笑う魔女を睨むようにして立つ。