第十一夜 ②ー7
イオニコフがギーウィと別荘へと辿り着いたとき、その無惨な別荘の姿に驚いた。
「こ、これは…!?一体何が…!」
別荘の屋根の一部に大穴が空いている。そこから黒い魔力が漂っていた。
イオニコフがギーウィから地面に着地した時に別荘から飛び出してくる人影が見えた。
「イドラ…!!?」
「…!?」
手負いのイドラが別荘から飛び出してきたのだ。腕を怪我している。向こうもイオニコフに気付き、二人は合流した。
「イドラ!一体何があったんだい!?エラは何処に…」
イドラの怪我を治癒魔法で治療しながらエラの姿を捜す。
「あいつなら…」
答えるようにイドラが別荘の方を向く。イオニコフもつられて視線を追う。その先に新たな人影があった。その人物をよくよく確認してイオニコフは驚いた。
「だ、だれなんだい…?」
黒く腰ぐらいまである長さの髪に真っ黒なフリルワンピース。白い肌に浮き出るような真っ赤な瞳。細い手に握られているのは真っ黒で巨大な大鎌。
それはまさしく『魔女』のイメージそのものだった。
「ま、さか…エラ…?」
絞り出すような声でイオニコフは呟いた。髪の色も黒くなってしまっているが服のシルエットはエラが着ていたものと同じ。それに、顔立ちはエラのままだった。
驚愕のあまり目を反らせないイオニコフにその女性はニィ…と微笑みかけた。でもそれはまるで呪われそうなくらい不気味な笑顔。
ちょうどその時にエミーユ達が別荘に到着して合流した。
『ふふ…残念ね』
ニィ…と口角を上げて不気味に笑う女性が口を開く。
イドラを始め、集まった全員が身構える。そんな彼等を嘲笑うように女性は絶望させる言葉を発した。
『…この体の持ち主…エラ・エーデルワイスはもういない』
大鎌をブオンと振りかぶり一周回って見せる。
『私の名はブラッディクイーン。…原初の魔女よ』
その名乗りに誰もが驚愕した。その衝撃は電撃のように駆け走る。
ー エラ・エーデルワイスはもういない ー
その言葉に地面が崩れるような感覚に襲われるほどのショックを受けたのはイオニコフだった。瞳が揺れる。目の前が真っ暗になった。
「エラが…もういない…?」
ショックで顔面蒼白になるイオニコフに魔女ブラッディクイーンは微笑み掛けた。だが、イオニコフは既に虚ろな目をしておりその微笑みには気が付かなかった。
エミーユやイドラ、リチアにキースとイオニコフ以外も放心状態になる中でギザイアだけが魔女ブラッディクイーンに攻撃を仕掛けた。
「魔女には…ご退場願おうかぁ…ッ!!!!」
ギザイアは水を弾丸のように操り魔女を攻撃する。ブラッディクイーンは手にしていた大鎌でその攻撃を弾き返して応戦した。
ギザイアが攻撃を始めたことで放心状態だった面々もハッとして改めて身構えたのだが、ブラッディクイーンは大鎌で大地を抉り取る攻撃をしてギザイア達の視界を奪い、視界が開ける頃には姿を消していた。
「あーあ。逃しちゃったぁ。今からでも追いかけないと」
尚も追跡しようとするギザイアをエミーユが割り込んで止める。
「ダメですよ!メイクス先輩、絶対にエラ先輩ごと殺す気ですよね!?」
バッ!と両手を広げて行く道を阻む。その行動にギザイアは「チッ」と舌打ちをする。
「あのねぇ、君も馬鹿じゃないんだから魔女を野放しにするわけにいかないって知ってるだろぉ?なんで邪魔するんだい?」
「確かにそうだ。魔女は滅ぼさなければ俺達が暮らす光の世界に危機が訪れてしまう。エラが魔女だったことには驚いたが…」
ギザイアに乗る形でキースが意見する。だがその後ろで青ざめていたリチアが彼の服の裾を握った。彼女は体をガクガクと震わせているようだ。その様子に心配してキースが話し掛けた。
「リチア?どうした?何かあるのか?」
目線を合わせてリチアに訊ねると彼女はキースを見つめ返して、話した。
「…あの、魔女がエラだったって…その魔女を浄化するのって…私、なんですよね?」
「そうですねぇ。古くから魔女と聖女は存在しますし聖女には闇を浄化する力があります。魔女を根元から消すためには浄化するのが一番でしょう」
ローレンが淡々と提案する。エミーユはギザイアとローレンの態度に恐怖を覚えた。この二人はエラを魔女ごと殺すことに躊躇いがない。
「エラを…消してしまうってことですか?」
震える声でリチアが訊ねる。それにギザイアが悪魔のような笑みでリチアを後押しした。
「構わないじゃないかぁ。魔女を討ち滅ぼすのは聖女たる君の役目だ」
リチアはその笑顔に恐怖を覚える。咄嗟にリチアはキースを後ろに隠れた。