第一夜 ②
「そろそろ式も終わった頃ね…」
チュンチュンと聞こえる鳥の囀りを聞きながら、沙夜は旧校舎の扉の前で座り込んでいた。
接触イベントを回避するために選んだ選択肢は「そもそも出席しない」であった。 虐めのイベントさえ回避すれば主人公と接点を持つことはなくなる。とは言えどクラスは同じだ。このまま欠席し続けるわけにもいかないし、だが出席すると虐めは再燃する気もする。そんなわけで、回避出来ないんじゃないかと考えつつ、今はただぼーっと学内に広がる自然を眺めていた。
そんな風にして進級式の日を過ごしたが、このまま通わないわけにもいかない。三日ほどしてエラは観念して出席することにした。
が、ほどなくしてそれを後悔することになる。
「やだぁ、灰かぶり、あんたまだ生きてたの?」
「はーい、じゃあこのゴミもよろしくねー!」
ガラッ!と教室の戸を開けた瞬間だった。クラスメイトから手痛い歓迎がなされたのだ。教室に踏み込むと頭の上でゴミ箱がひっくり返され、中のゴミ全てが降ってきた。頭からゴミを被り、中に飲み物が捨てられていたのか甘ったるい汁がエラの制服を汚す。
しかも、最悪なことにクラスメイトの誰もがそれを笑ってみていることだった。
「きったなーい!!さすがは灰かぶり!」
クラスの誰かがそう言ってパチンと指を鳴らす。するとエラの頭上から真っ白い粉が降ってくる。ぶわっと広がりエラを真っ白に染める。…チョークの粉だ。
どうしてこういう目に遭わなければならないのだろう。教室の入り口で立ち尽くすエラは下を向いている。
…か、回避出来なかったああああああ!!!!
下を向いたエラは心の中でそう叫んでいた。
…やはり…これは強制イベントってことか…。クラスメイトのセリフはゲームのままだわ。と、いうことは…次に出てくるのは…。
ゆっくりと顔をあげて教室内を観察する。すると、教室の奥から近づいてくる人物がいた。
…来た…。このゲームの主人公、リチア・マーガレット!!!
「ねぇ貴女、大丈夫?」
心配した様子でそう話し掛けてきたのは可憐な少女、リチア・マーガレット。ふわふわのウェーブの掛かった髪が微かな風にも揺れる繊細な髪質。乱すことなく制服を着ていて、ローブもきちんとアイロン掛けをして管理しているのが見てとれた。正統派の主人公だなと改めて思う。
…画面を取っ払ってみると改めてズルいくらい可愛いわね…。私もこんな外見だったら人生変わっただろうなー。
若干遠い目をしながらエラは元の世界での自分の姿を思い出していた。別に別段顔面偏差値が低かったわけではないし友達だってそれなりにいたけども少女漫画のような青春はしてこなかったしイケメンとの出会いもなかった。ついでに年齢イコールの彼氏いない歴。それも特に嘆いたことはないけども友達に恋人が出来る度にちょっと興味が出ないわけでもない。ただ、自分に恋人が出来ても上手くやっていける自信ないわーっといった感じで今まで生きてきた感じだ。そんな感じだったので彼氏と言えばそう、我らが乙女ゲームの中だった。