でも、内定をくれる御社ちゃんはいる
6月末の某日。
すっかり就活生を見なくなった。当然か、内定率は7割超えだっけ。
そんなアンケートに答える余裕のある無内定者がどれだけいるか知らないけど、内定持ちが多数なのは事実。
かくいう僕は志望していた御社ちゃんたちからお祈りを貰い、持ち駒がない。ああ、これで振り出しに戻ってしまった。また説明会からやり直しなのか。
「……はぁ」
心が暗いまま、就活ナビサイトで見つけた御社ちゃんの説明会に参加する。
ここは小さな出版の御社ちゃん。本が好きだから来たけど……期待してない。
「私たちはこんなことをしています! 私たちはこんなことを目指してます!」
と、思ったけど――その心境は180度変わった。
その御社ちゃんは小さかった。優しそうとは見えなかった。
だけど、彼女の仕事。彼女が目指す場所。社員さんは活き活きしている。僕には上手く分からないけど……彼女がとても魅力に感じた。
「これでよし、と」
帰ったその日の家にESを書き、提出した。
結果は合格。その後は適性検査に何回かの面接が行われた。
一次、二次で落とされる僕が、何故かこの選考はトントン拍子で進んだ。
自己肯定感が底辺まで落ち込んだ僕は全員通過させてるのかと思ったけど。誰も彼も採用してなかった。どうやら、御社ちゃんと波長が合うらしい。
「私は小さいし、大手の子と比べると色々できないわ。私で良いの?」
「はい、あなたが第一志望です」
「力もないし、もしかしたら十年後には死んじゃってるかも。それでも?」
「そんなことはさせません。」
「……そう、ありがとう。なら私から言うことはないわ。内定よ!」
「あ、ありがとうございます!! これからよろしくお願いします!!」
……良かった。本当に良かった。
僕も内定を貰えたんだ、それも納得の御社ちゃんに。
安心と喜びに浸っていた時だった。急に電話が来る。別の御社ちゃんかなと思ったけど、違った。8社の御社ちゃんに内定を貰った奴だった。
『た、助けてくれっ!! 内定辞退したら御社ちゃんに殺されそうに――』
携帯を切る。多くの御社ちゃんをコケにした罰だね。
相手は会社だから被害はないだろうけど……まあ、幸運をお祈りしよう。
就活は面倒だし、大変だし、頑張っても最後は運や縁。度重なるお祈りメールで自身の人格が否定されたように感じるかもしれない。
――でも、内定を出してくれる御社ちゃんは必ずいる。
どんな人でも必ず1人は好きでいてくれる人がいるように、何処かにいるはず。
この作品みたいに、いろいろなタイプの御社ちゃん、いろいろな性格の御社ちゃんを想像して。誰を好きになって、誰と一緒になるか、それを探し出す活動が就活だと考えたら……この苦行も少しはマシに思えるかもしれない。