その後(美女だって、恋をする)
美女だって恋をする。を読まないと全然わからない内容になっています。
香水をつけているわけじゃない。それなのに、長い黒髪からはいい匂いがする。体型はすらっとしていて、顔は小さい。目は大きくて、唇はピンク色。街を歩けば、皆が振り返る。だから、こんな私、高野梨音のことを好きになる気持ちはわかる。わかるけど、えっと…態度違いすぎない?
「梨音」
小さいのにしっかりと耳に入る声に私は恐る恐る振り向いた。案の上、笑顔の齋藤一誠君がそこにいた。
「お、おはよう、齋藤くん」
「おはよう。ところで、なんで先に行くわけ?」
ぶすっとした顔もイケメンなんてさすが、齋藤君!、なんて思っている場合じゃないみたい。さっき齋藤君を見つけたのに、見なかったふりをして学校に向かった私の行動にお怒りのよう。でも、しょうがない。だって、最近の齋藤君、前と全然違うんだもん!
「…いや、先に行くっていうか、気づかなかっただけで…」
「ふ~ん」
いやいや、絶対納得してないよね?疑う視線に気まずくなって、視線を逸らす。そんな私の顔を両手で挟み強制的に目を合わせられる。私と同じくらい端正な顔。いくら私が美人でかわいいからって、綺麗な顔のドアップは心臓に悪いんですけど!
「目、逸らすなよ」
「いや、逸らすよ!近すぎるもん!」
「いいじゃん、俺たち付き合ってるんだから」
確かにそうだ。この前のちょっとした出来事から私達は付き合い始めた。もともと私のアプローチが全校生徒に知られていたため、付き合っていることはもう周知の事実。そして、齋藤君の態度があからさまに変わったため、先生からも温かく見守られている変な状況になっている。
「こ、ここ、みんないるし!」
学校に向かうまでの公道だ。学年もバラバラな生徒たちが多くいる。
「いるな」
「だから、ちょっと離れようよ!」
「今まで、ところ構わず抱き着いてきてたの誰だっけ?」
痛いところついてくる齋藤君を睨みつけたいが、きっと何倍にも大きくなってくるので、掴まれている手から逃げるだけにとどめておく。そんなことお見通しの齋藤君は不敵に笑い自然に私の手を掴んだ。そのまま学校に向けて歩き出す。ちなみに、少し前までこちらに向いていた他の生徒たちの視線はもうすでに興味を失くしたようで注がれてはいない。この状況結構だと思うんだけど、みんな環境適応能力、すご過ぎない?
「明日から、家まで迎えに行く」
「……え?」
「だから、迎えに行くって」
「でも、齋藤君、大変になっちゃうよ?」
「でもそうすれば、今より長く一緒にいられるだろ?梨音ともっと一緒にいたし」
そういって笑う齋藤君はイケメン+αの格好よさで、頷く以外の選択肢なかった。私だって、長く入れるなら嬉しいに決まってる。
「そうやって素直にしてろよ。素直な梨音は可愛いんだから」
「齋藤君、私が可愛いなんて当たり前だよ」
「うん、うるさいのは変わらないな」
「だって事実だし」
「…それより、いつまで齋藤君、って呼ぶつもりだよ」
また痛いところを。私だって「一誠」って呼びたい。「かずまさ」「かずまさ」何度も口に出して、呼ぶ練習だってした。付き合ったなら、彼氏と彼女になったら下の名前で呼び合いたいって思っていたから。でも、目の前にいると緊張して呼べないの。
「えっと…その、今、れ、練習中で」
「なんだよ練習って」
「だって…緊張するんだもん」
「じゃあ、慣れれば?」
「そんな簡単にできないの!私がどんなに美人で頭もよくて完璧だからって、できないこともあるんだよ?」
そう訴える私の主張を無視して、なぜか近づいてくる端正な顔。その表情は見覚えがあった。付き合い始めたあの日から何度も見てきた。条件反射のように目を瞑る。
小さなリップ音が耳に入った。って、ここ、校門前ですが!
「さ、齋藤君!」
「できるじゃん」
「え?」
「慣れればできるだろ。キスだってできるんだから」
「…」
「ほら、言って」
「…」
「名前、読んで」
ああ。そんな母性本能をくすぐる表情も出せるなんて、最強すぎるよ。
「…か、ず、…まさ」
「もう一回」
「かずまさ」
「何、梨音」
「好き」
「俺も」
そういって見つめ合う。周りの音も聞こえなくなった。目の前の一誠しか視界に入らない。
「ストップ!!!」
急に耳に入ってきた声に現実に引き戻される。そこにいたのは親友の寧々だった。
「盛り上がってるところ悪いけど、ここ校門前だから!あんたらが名物カップルでも公認でも、限度あるから、離れる!!」
寧々が私と一誠の間に身体をすべり込ませる。周りの人たちが「よく言った」って感じの顔してるの、きっと気のせいだよね?
「おはよう、寧々」
「山崎、邪魔すんなよ」
「おはよう、梨音。…齋藤は梨音に変なこと吹き込むのやめて」
「別に吹き込んでないけど」
「今更、牽制しなくても、梨音が齋藤のこと好きなのはわかりきってることだから」
「でも、しといて損はないだろ?」
「…あんた、いい性格してるわ」
「お褒めの言葉、痛み入ります」
「…とりあえずイチャイチャすんなとは言わないから、人のいないところでやって。合意の上なら何したっていいから」
えっと。何の話をしているのかいまいちわかんないんだけど、一誠を助けなきゃ、なのかな?
「寧々、私、一誠にされて嫌な事なんかないから大丈夫だよ!」
自信満々にそう言う。あれ?一誠の顔、ちょっと赤くなってる?寧々は…呆れてる?
「梨音、今日、一緒に帰ろうぜ」
「うん、もちろん」
「それで、俺の家、今日、誰もいないからおいで」
「ありがとう!」
嬉しくなって笑顔で頷いた。それなら長く一緒に入れる。それが嬉しかった。嬉しかったんだけど、寧々から聞こえるため息に、大きくなる周りの雑音。そしてにやりと笑う一誠の顔。…えっと。何か間違えた? でも一つ言えるのは、黒い笑みを浮かべても、格好いい一誠と戸惑っても可愛い私。私達はやっぱり美男美女カップルだね!
そして放課後、どんなことがあったかは、えっと……、想像にお任せします。
求められていないことはわかっている、が、楽しかったので、よしとします!!
性格違うと思いますが、多目に見てやってください。