少女の最期
「なぜ、名前を知っている?」
だが赤い髪の男は、クスナの疑問には答えなかった。
「リゾ?」
二番隊の兵士に聞いていた通りの外見の男だから、リゾで間違いないだろうと思った。
だが、それにも男は答えなかった。
「お前に頼みがある。この場所を誰にも明かさないでほしい。この場所で、レン様の最期を静かに看取りたい」
「最期?」
「もう長くない。頼む」
少女の名前はレンというらしい。
男は頭を下げた。
二番隊の兵士から聞いたのは、多くの兵士を剣でなぎ払い、魔法で吹き飛ばした荒くれ者だった。
そんな人物が頭を下げるとは……
それにどこか悲痛な表情だった。
長い沈黙の後――
「わかりました」
クスナは頷いた。
本当は軽々しく、わかったなんて言いたくはなかった。
だが、髪を取り戻したとしてもキョウの意識は戻らない。
それに、今回、ファウは大きな怪我はしていなかった。その他の兵士たちも誰一人ほとんど怪我をしていないのだ。
この赤い髪の男を駆り立てるものは何だったのか、それはわからないが、どうにもこの男が苦悩したのはわかった。
「蛇足かもしれないですが、ファウを誘拐なんかしなくても、あの少女が長くないと知ればキョウは自ら髪を差し出したかもしれませんよ」
クスナの言葉に、男はますます悲痛な顔になった。
* * *
それから二日経った。
ファウはキョウの寝顔を見ていた。
「キョウ?」
ファウは問いかける。
キョウの顔がわずかに動いたような気がした。
気のせいかとも思ったが……?
「……キョウ・テセティア?」
ファウは、思わずキョウをフルネームで呼んでいた。
「髪が?」
ファウは息を呑む。キョウの髪の色がみるみる変わる。
夕暮れのせい?
キョウの金色のはずの髪が灰色へと変貌した。
そうして、キョウの瞳がゆっくりと開いた。




