長老の見栄
――本当なら、キョウのそばにいたかったでしょうに……
ファウを見送り、クスナはそんなこと思った。
「さて、と……」
クスナはまたキョウの手を握り、そこに自身の額をつける。
キョウの魂の波動を探ってみる。
キョウに魔法を注入してもらったのは、もう三日も前の出来事。
あの時のキョウの言い方を真似すれば、キョウの魔法の波動のようなものを整えたいわけだが、今はキョウの波動を感じ取ることが出来ない。
不甲斐ないが、ここはキョウ自身の回復力にかけるしかない。
――それにしても。
クスナはキョウの髪を見る。
そんなに価値のあるモノなのだろうか?
リゾという最高位の男は、大人数の兵士をたった一人で倒しファウをさらったのだという。
すべてはキョウの髪を手に入れるため。
金色のきれいな色の髪ではあるが‥‥?
たまに髪に自身の魔力を封じめている術者もいるが、無論キョウはそういうタイプではない。
なんとも不可解な誘拐事件だった。
* * *
泉から戻ってきた長老たちの報告によれば、レンという人物も最高位で間違いないという。
ただ、リゾと同じく行方知れずということだった。
戻ってきた長老と一番隊隊長に、ファウは疑問をぶつけてみた。
リゾがファウをさらった際に残した言葉――
『かつて、キョウが水脈を開いた地に一人で来いと。猶予はない』
あの言葉が他言しないようにされていたのは何故か?
「すまない。言葉の意味がわからなかったんだ」
と一番隊隊長が苦々しくつぶやいた。
「意味がわからない?」
ファウには、その言葉の意味がわからなかった。
二番隊の兵士たちは、リゾの言葉を正確に覚えていた。
意味がわからなくても、その言葉を伝えることはできるはずだし、何より口止めさせた意味がわからなかった。
「ファウ殿、何を言ってるんです。あの水脈を開いたのは私ですよ」
と長老が言う。
「その後、すぐ砂漠の中に消えてしまいましたがね。キョウが水脈を開けるほどの力などあるわけないじゃないですか」
その長老の態度に、ファウは理解した。
長老の見栄のため、リゾの言葉は伏せられたのだ。
実に下らない。
ファウにとってはもうどうでもいいとさえ思った。
そんなことよりも、キョウの一刻も早い回復に努めよう。ファウは強くそう思った。




