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月色の砂漠  作者: チク


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19/30

長老の見栄


――本当なら、キョウのそばにいたかったでしょうに……

 ファウを見送り、クスナはそんなこと思った。

「さて、と……」

 クスナはまたキョウの手を握り、そこに自身の額をつける。


 キョウの魂の波動を探ってみる。

 キョウに魔法を注入してもらったのは、もう三日も前の出来事。

 あの時のキョウの言い方を真似すれば、キョウの魔法の波動のようなものを整えたいわけだが、今はキョウの波動を感じ取ることが出来ない。

 不甲斐ないが、ここはキョウ自身の回復力にかけるしかない。


――それにしても。

 クスナはキョウの髪を見る。

 そんなに価値のあるモノなのだろうか?

 リゾという最高位の男は、大人数の兵士をたった一人で倒しファウをさらったのだという。

 すべてはキョウの髪を手に入れるため。


 金色のきれいな色の髪ではあるが‥‥?

 たまに髪に自身の魔力を封じめている術者もいるが、無論キョウはそういうタイプではない。


 なんとも不可解な誘拐事件だった。




     * * *


 泉から戻ってきた長老たちの報告によれば、レンという人物も最高位で間違いないという。

 ただ、リゾと同じく行方知れずということだった。


 戻ってきた長老と一番隊隊長に、ファウは疑問をぶつけてみた。


 リゾがファウをさらった際に残した言葉――

『かつて、キョウが水脈を開いた地に一人で来いと。猶予はない』

 あの言葉が他言しないようにされていたのは何故か?


「すまない。言葉の意味がわからなかったんだ」

 と一番隊隊長が苦々しくつぶやいた。

「意味がわからない?」

 ファウには、その言葉の意味がわからなかった。


 二番隊の兵士たちは、リゾの言葉を正確に覚えていた。

 意味がわからなくても、その言葉を伝えることはできるはずだし、何より口止めさせた意味がわからなかった。


「ファウ殿、何を言ってるんです。あの水脈を開いたのは私ですよ」

 と長老が言う。

「その後、すぐ砂漠の中に消えてしまいましたがね。キョウが水脈を開けるほどの力などあるわけないじゃないですか」


 その長老の態度に、ファウは理解した。

 長老の見栄のため、リゾの言葉は伏せられたのだ。


 実に下らない。

 ファウにとってはもうどうでもいいとさえ思った。

 そんなことよりも、キョウの一刻も早い回復に努めよう。ファウは強くそう思った。

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