回復魔法
* * *
ファウの誘拐に、リゾだけでなくもう一人の最高位が絡んでいたということに、みんな驚いていた。
報告を受けた長老たちは再び最高位が住むという中央の泉へと向かった。
本当は、クスナも同行するはずだったが、以前のように具合が悪くなると足手まといだということで置いていかれた。
家に戻ったファウは意外な報告を聞いた。
ファウが率いる二番隊の兵士たちは、リゾの残した言葉をなぜか他言しないように言われていたのだ。
一番隊の兵士も同様だった。
一番隊隊長に確認しようとしたが、彼は長老とともに泉へと出かけた後だった。
真相はよくわからないが、ファウとしてはそっちの方がありがたくもあった。
リゾに眠らされてはいたが、あともう少しで自力でその魔法を解けそうだったのだ。
あの時は自力で脱出することを考えていた。
あの時はリゾのターゲットがキョウだと知っていたし、ひたすらキョウが来ないことを願っていたのだ。
事実は皮肉なもので、キョウはファウを助けるために駆け付けた――その時は絶望し、その後にもっと強い絶望を味わったのだ――
* * *
キョウはかろうじて、息をしていた。
ベッドに横たわるキョウをファウは見つめていた。
ファウは意識のないキョウをレファイ家に運ばせ、使用人たちにできる限りの看護をさせた。
その甲斐なく、キョウは目を覚まさない。
「回復魔法の時間です」
と部屋に入って来たのはクスナだった。
クスナは攻撃系の魔法より、回復系の魔法の方が得意だった。
クスナは横たわるキョウの手を握る。
ふと、ファウの視線に気づき、
「直接触ったほうが効果も高いんです。――あなたも手伝ってくれますか?」
「手伝う?」
ファウは回復系の魔法は得意ではない。
「私と一緒にキョウの手を握ってもらえますか?」
クスナはキョウの両手首を持ち、ファウがキョウの手を包むように握った。その上からクスナが回復魔法を唱える。
「私も?」
「おまけです。ファウ、あなた、最近ろくに寝てないでしょう。疲れた顔をしていたので」
クスナは、キョウとファウ二人同時に回復魔法を施していた。
「それに私が触るより、あなたが触ったほうがキョウにとっては効果が高いでしょう」
「ありがとう」
ファウは礼を言った。
以前なら真っ先に否定したであろうファウが素直に礼を言った。こんな状況ながらクスナはそれが少し嬉しかった。
「後は頼む」
それからファウは出かけたのだった。




