邪眼
うっとりした目に妖しい光が混ざる。
これが邪眼とかいうやつか、とキョウは思った。邪眼は人を惑わすとも、魂を吸い取るとも聞いたことがあった。
赤のようなピンクのようなオレンジのような不思議な光。
角度によって輝きをかえる宝石のようだ。
レンは髪の束を受け取る。
「本当、嬉しい。ずっとこの時を待ってた……」
レンは髪の毛を両手で抱きかかえるように愛おしそうに持った。
「嬉しいな……」
キョウは、レンの笑い声を聞いていた。赤い瞳だけはっきりと輝いている。
キョウは赤い瞳から視線をそらすことはしなかった。
薄れゆく意識のなか、ファウの声を聞いたような気がした。
* * *
「キョウ!」
ファウは魔法で拘束されていたが、意識はあった。
キョウが髪を切りその体が地面に倒れる前に、ファウの拘束は解けた。
ファウは真っ先にキョウのそばへ駆け寄る。
地面に倒れそうな体を抱きかかえる。その体はぴくりとも動かない。
「あなた達、キョウに何をしたの?」
ファウは、動かないキョウの体を抱きしめ、レンとリゾを睨みつけた。
「何もしていない。すべてはその男が自らの意思でしたことだ」
リゾはレンを守るかのように抱き上げた。
レンはもう手の中の髪の毛に夢中で、抱き上げられたことも意に介してないようだった。
ファウは憎しみの目で睨みつける。
ふと、その目がキョウの置いた剣に止まる。
「やめておけ」
リゾが制する。
「その男は、お前を助けるために自ら魂を差し出したのだ。その意思をムダにするな」
ファウは悔しかった。
リゾと自分とでは到底レベルが違う。確かに返り討ちにあうだけだろう。
「覚えてろ」
完全に負け犬のセリフだった。
レンは嬉しそうにキョウの髪の毛を掴んでいる。
ファウは無性に悔しかった。
レンは、ふとファウを一瞥する。
――わたしがキョウの髪と魂をもらってもいいじゃない。キョウの心と体はあなたのものなんだから……
レンの瞳が赤く光った。
ファウの視界が揺れた。
気づけばレンとリゾは消え、オアシスもなくなっていた。
キョウの家に、ファウとキョウはいたのだった。




