髪
一瞬、脱力しそうになるが、キョウは考える。
本当に髪が目的なのか?
キョウの髪が欲しいのなら、リゾの剣でばっさり切ればそれでいいはず。
どうして、この二人はファウを誘拐なんてしたのか?
ファウは剣の腕は相当なもの。
ファウを捕らえるのに比べれば、キョウの髪を切り落とすなんてたやすいはずなのに。
自らの意思で差し出す?
そうすれば、何が起こる?
「髪を差し出さなければ、ファウを殺すのか?」
「……」
リゾの剣はファウに押し当てられている。
「髪を差し出せば、ファウは助かるのか?」
「お前次第だ」
キョウはなんとなく理解した。
自らの意思で喜んで髪の毛を差し出すということの意味を……
キョウは大きく息を吸った。
――ファウ。ごめん。せっかくきれいって言ってくれたのに。
キョウは意を決して、後ろの少女レンに振り返った。
「そんなにこの髪が欲しい?」
レンは頷く。
その水色の目はうっとりしたようなぼんやりしたような目だ。なんだか現実を見ていないよう。
「いいよ」
恐怖はあった。
この後、この少女がどんな変貌を遂げるのか。恐ろしい化け物にでもなって喰われるんだろうか……。
だが、覚悟は決めた。
キョウは手にしていたファウの剣を地面に置く。
自分の髪の毛を一掴みにし、魔法で素早く切った。
剣で切らなかったのはファウが気に入ってた髪をファウの剣で切りたくなかったから。
キョウは、両手で髪の束を差し出す。
「……嬉しい」
両手を伸ばしたレンは至福の笑みを浮かべる。
その時、水色だったはずのレンの瞳は赤く光った。




