取引
「ファウ」
キョウは真っ先に駆け寄るが、赤い髪の大きな男に阻まれる。
「おまえがリゾか?」
「そうだ」
「手紙の通り、一人で来た。ファウを返してもらう」
そこで、リゾは顎をしゃくり、後ろを見るように促した。
そこに、可憐な少女が佇んでいた。
少女はキョウを見ると笑顔になった。
「やっと来てくれたね。キョウ・テセティア」
「誰だ?」
――それにこの場所、どこか懐かしく感じるのは気のせいか?
「わたしはルウ族最高位レン」
レンという少女はうっとり笑う。
「最高位? なんで最高位が?」
最高位はその強大な力でこの地とその民を守るとされていた。
――その最高位がなぜ誘拐なんか。
だが、レンはキョウの疑問には答える気はないらしい。
「きれい……」
うっとりした目で、ゆっくりキョウの髪に手を伸ばす。
「交換条件だ」
とリゾは言う。
振り返ると、剣が倒れているファウの胸元に当てられている。
「レン様との取引に応じろ」
「取引?」
レンは後ろから、キョウの髪を触っていた。
キョウはぞっとした。
なぜかこの可憐な少女の方を振り返るのが怖かった。かといって、目の前にはリゾという大男。まさに身動きが取れなかった。
レンはゆっくりキョウの髪を触り、嬉しそうに愛おしそうに何度も撫で、指で梳き、弄んだ。
「この髪、欲しい……」
うっとりした声でレンは言う。
「え!?」
「ねえ? この髪、ちょうだい」
レンはあいかわらずキョウの髪を撫でていた。
リゾは言う。
「髪を自らの意思で差し出せ。それは魂を明け渡すということ。この意味を理解しろ」
――取引って髪の毛の事か。




