プロローグ
その人はあたたかい波動だった。
魔力を注がれ、少女は幸せな気分になった。
その人は腰まであるきれいな金色の髪をしていた。
月に向かって祈るその姿は神々しいくらいまで輝いていた。
――きれいな髪……きれいな魂。
少女はうっとりとその姿を眺めていた。
* * *
ここは、ルウの地。
砂漠に囲まれたオアシスの街。
月の女神ルウがかつて治めていた地だとされている。
人々は女神ルウを崇拝し、オアシスの恵みは女神の加護だと信じている。
金色の長髪の青年――キョウ・テセティアは眠る前のお祈りをしていた。
窓から見える月に向かって手を組み額をつけ目を閉じる。
月の女神ルウを崇拝するこの一族の風習だ。
ふと、キョウは悲鳴のような声を聞いた。
悲鳴のような声、それは外からだ。
果たしてそれは声と形容していいものだろうか?
キョウは外に出てみた。
あっさり、それは見つかった。
ルウの地にて、時々遭遇する環境維持ロボだった。
砂地のこの地で道路を整備したり、水を浄化したりする全自動で動くロボットだった。
足の部分のキャタピラが絡まったかのように、空回りしている。その空回りの音がどうも悲鳴のように聞こえたらしい。
かつて、魔法と科学の技術を融合させて誕生したらしいロボット。
不思議なことに、ルウの地の外に出してしまうと止まってしまう。
女神ルウの加護は無ければ動かないらしい。
キョウの家は、ルウの地の外れのほうにある。
ルウの地中央の神殿にでも行けば、また動くか? キョウは環境維持ロボを持ち上げてみる。
ロボットの大きさは人間の膝丈くらい。重さは7~8キロといったところか。
キャタピラの砂を払ってやる。キャタピラはスムーズに動き出した。
地面に置くと、ロボットはその場で止まったまま、動かなかった。
「燃料切れかな」
前面の水晶が水色に点滅していた。
キョウはそこに手をかざし、己の魔力を注いでみる。
水晶は点滅から、ぼうっとした水色の光になった。
燃料切れの問題は解決したようだ。
すると、ロボットはルウの地の外へ向かい出す。
「そっちじゃない」
ロボットはそのまままっすぐ進む。
キョウは慌てて追いかけた。
「燃料切れってわけじゃないのか。――修理は明日頼もうか」
今日はもう遅い。
キョウはロボットを家に入れ、そのまま就寝したのだった。