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前編

主人公視点です。

セーブ


それは今までの旅や冒険の軌跡を記録する機能。

その時の状態を記録し、再びその状態からやり直すことができる。


時の記録を刻むという意味で、特殊技能で例えるなら時魔法の一種と考えられなくもない。

・・・もっとも、MPが必要な場合は少ないが。

勇者など、そのゲーム・・・もとい、物語の主人公にのみ与えられた特権だ。


この機能により、主人公は多くの恩恵を受ける。

まず、途中で事故を起こして死亡してもセーブ地点で生き返ることが出来る。

強敵に殺された場合でも、再び体制を整えて再戦を挑める。

都合の良いことに記憶は引き継がれるので、戦闘を繰り返すほどに、より戦術は効果的なものになって行くだろう。

他の登場人物(特に敵側の者)から見たら、勇者は全ての戦闘に、最善の方法で勝利を収めているように見えることだろう。

記憶を引き継ぐのは主人公やその仲間のみであるからだ。

また、何らかの原因で取り返しのつかない事態になった場合、いわゆる詰んだ状態に陥ったとしても、リセットするなり自決するなりすれば、最後のセーブポイントからやり直せる。

勇者が冒険をする上で無くてはならない機能だ。


セーブ機能によって助けられることはあっても、これが仇となる場合と言うのは、まず考えられない。


"(はま)って"しまった場合。

ただこれを除けば・・・




――――――――――――




俺がこの部屋に閉じ込められて何日も経った。

いや、この表現は適切ではない。

なぜなら、何日というのは体感時間であり、

現実には6時間も経っていないからだ。


「畜生。あのとき焦ってセーブをしなければ・・・」


後悔しても、どうにもならない。

今の状況は完全に詰んでいた。



――――――――――――



「はあ・・・はあ・・・・・・」


「くそ。雑魚敵のくせに、なんてしぶとさだ。」


ここは、ダンジョン深部で見つけた小部屋。

今までまでに戦ったモンスターが思いのほか手強く、身体、精神ともにかなり疲弊していた。


「いつまた敵が襲ってくるか分からん。今のうちに・・・」



*セーブしました*



「よし、完了っと。」


「はあ、残りHP15・・・本当にギリギリじゃねえか。」


あの時、襲い来る敵の群れと戦いながら、何とかこの部屋まで逃げてきた。

一区切りついたらセーブ。

いつも本格的なダンジョン探索では心掛けていることだ。


だが・・・


「体の節々が痛え。」


怪我だらけだし、たぶん打撲とかもやってるだろう。


「さっさと治癒魔法を掛けないとな。」


【ヒール】


・・・・・・・・・・・・・・・・。


「あれ、不発か?」


【ヒール】


・・・・・・・・・・・・。


「ま、まさか・・・」


慌ててステータスを確認。


「MP0・・・何てこった。」


全体魔法を連発しているうちに、MPを使い切ってしまったようだ。

普段は魔力残量を見落とすような真似は絶対しないのだが。


「怪我が治せないか・・・参ったな。」


もうこれ以上は進めない。

一旦テレポートで家に引き返そう。


・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・!!


そこで大変なことに気が付いた。

MP0なら、当然テレポートも使用できない。


何日も掛けてここまでやってきた。

魔法が使えない状態で、1人で引き返すのは現実的ではない。


「でも他に方法は無い、か。」


このまま進んでも、さらに強敵が待ち受けているのは間違いない。

今まで進んで来た道を、敵中を突っ切りながら戻る方が生存率は高いだろう。


来た道を引き返そうと踵を返すも・・・


「・・・嘘、だろ・・・?」


通って来た道が石の壁で塞がれている。

叩いてみても、びくともしない。

壁は相当に厚いようだ。


片道のダンジョン、か・・・

何てことだ。

予め退路を調べておくべきだった。

もっと前に、引き返せない事が分かっていれば、魔力を節約して進んでいたものを。

雑魚相手に、いい気になって必要以上に大規模な魔法を連発し続けた結果の魔力枯渇だ。

自身の迂闊さを、悔やんでも悔やみきれない。




「やるしかない・・・」


俺に残された方法は、このまま進んでダンジョンボスを倒すこと。

ダンジョン最奥には必ず入口に繋がる魔法陣がある。

それしか、助かる道は無かった。


「行くぞ。」


意を決して次の階層へ向かう。


「!!」


暗闇から超高速の斬撃が飛ぶ。

何とか紙一重で躱した。


「いきなりダンジョンボスかよ!」


叫んでいる間にも、次々と攻撃が飛ぶ。


「くっ・・・何て力だ。」


現れたボスは、力、スピード、魔力のいずれも、今までの敵とは次元が違った。


「うわあああああああああ!!」


戦っていた時間は、恐らく数秒。

成す術も無く、俺の体は肉塊に変えられた。




――――――――――――


「はっ!?」


気が付けば、直前に居た部屋に立っていた。

直前にセーブしたから、当然だ。


「無理だ、あんな奴・・・」


あの化け物に勝つビジョンが浮かばない。


折れそうな心を叱咤して、何度か挑んだが、結果は変わらなかった。

成す術も無く殺され、気が付けばセーブ地点に立っている。

何回やっても同じ結果・・・



――――――――――――



あれから、何度か死に戻りを繰り返した。


駄目だ。

自力でここから脱出する方法が思いつかない。

俺はここから二度と出れないのか?


あんなやつ、俺には倒せない。

だが、引き返す方法も無い。


どうすればいい?

助かる方法は?


「ここで待つしか無い、か。」


俺が何日も行方不明なら、仲間や家族が探しに来るかも知れない。

国も捜索隊を出してくれるだろう。



――――――――――――




・・・長い時間が経った。

誰かが助けにくる気配は無い。

霧が掛かったように朦朧とした思考の中で、恐ろしいことに気が付いた。


何日、何十日待っても、救助は来ない。

長い時間で、飢えで衰弱していくのを感じる。

恐らく、あと2、3日もしないうちに俺は衰弱死するだろう。

鈍くなる思考の中で、外からの助けを見込めないことを悟った。

人が飲まず食わずで、餓死するまで約2週間。

それまでに助からないのなら、何度やり直しても同じことだ。

飢えるか、敵に殺されるかしても、必ずここに戻ってきてしまうのだ。


死んで、復活して・・・

それを永遠に繰り返すことになる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・。」


・・・絶望だ。

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