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見失う、彼女

作者:陽乃優一
すみません、推理やミステリーと呼べるほどの内容ではないのですが、他に適切なジャンルが見つからなかったので…。
 自宅最寄駅上り07:15。僕は毎日この電車を通学に使っている。20分ほど揺られると、通っている高校近くの駅に到着する。
 今年4月から2か月ほどこの電車を使っているが、奇妙なことが一点あった。
 ‎
 ‎僕と同じ学校の制服を来た、女の子。

 前の駅から乗車しているのだろう、僕が乗車すると、同じ車両の、ほぼ決まった場所に立っている。僕もこの2か月で駅構内を歩くルートが固定化してしまったから、ホームでは概ね同じ場所で電車を待ち、同じ車両に乗っている。
 ‎僕の方は混雑具合で立ったり座ったりしているが、彼女は必ず立っている。扉の近くに、しかし、決して他の乗客の出入りの邪魔にならないように。

 黒髪ロング。特にアクセサリーの類は付けていない。腰のあたりからイヤホンのケーブルが伸び、いつも何かを聴きながら宙を見ているといった趣だ。車両内の、少し離れた場所から見た限りでは。

 これだけでは、奇妙とは言えないだろう。問題は、電車を降りた後だ。



「必ず見失う?」
「そうなんだ。同じ車両から降りて改札を出て、同じ学校に向かうなら、そんなことはないはずだろう?たまにならともかく」
「しかも、校内でも見かけたことがないのか。まあ、クラスもそれなりに多いし、それはしかたがないんだろうけど」

 昼休み。クラスメートの友人と、彼女のことを話題にした。ちなみに、これまで話さなかったのは、

「で、告るのか?」
「しない。別にそんなつもりはないから」
「そんなつもりがないのに、電車でずっと目で追っていたのか?」
「単に気になっただけだよ。それだけ」

 などと言われるのは目に見えていたからだ。ここに至ってようやく話題にしたのは、さすがに2か月も続くと異常性に気づいてくれると思ったからだ。

「まあ、確かに気になるか」
「だろ?どんな可能性が考えられると思う?」
「うーん…」

 友人は、少し考えるそぶりをする。

「俺が考える前に、お前はどう思ったんだ?」
「ほとんど何も思いつかなかったよ。別の道を通っているのかとも思ったけど、駅からここまでは大通りを歩くルートしかないしね。何倍も時間をかけて遠回りしているのなら話は別だけど」
「だな。俺も思いつかん」

 ダメか。まあ、暇つぶしの話題にはなったか。

「で?どこから見失うんだ?」

 と、思ったら、友人が掘り下げてきた。

「どこからって?」
「車両から出ていくところは見ているんだろ?それから?」
「改札を通過するまでは見ているよ。だから、駅から出たら忽然と、という感じかな」
「そうすると、やっぱり学校には向かっていないことになるな」

 ウチの生徒なのに学校に向かわない?なぜ?

「そんなに気になるんならさ、電車で直接聞いてみれば?」
「なんて聞くんだよ。『君はどうして駅から姿が見えなくなるんだ』とかか?不審がられて何も答えてくれそうにないぞ」
「そこに何か秘密があるならなおさら、か…」

 そういうことだ。

「じゃあさ、電車を降りる前にその娘の近くに移動して、そこからずっとすぐ後ろを歩いてみるとか」
「露骨すぎないか?」
「朝は結構混んでいるんだろ?多少近くにいても怪しまれはしないさ」

 ふむ。

「ていうか、なんか俺、興味が湧いてきた!今日、お前んち泊めてくれ。明日一緒に登校しようぜ!」
「えええ…。学校まで歩いて数分の奴が大丈夫か?」
「任せろ!」

 という感じで、明日の朝、この友人と彼女を追いかけてみることにした。



「お前んち、遠すぎ…」
「もっと時間がかかってる生徒はたくさんいるぞ?」
「俺んち、学校の近くで良かった…」

 っていうか、家の近くだからウチの高校を選んだとか言ってなかったか?

「昨日、往復で切符買っておいて良かったぜ。時間ギリギリだし混雑してるしで」
「だから言ったろ?僕は定期だし」

 友人とふたりで改札を抜け、いつもの電車をいつものホームの場所で待つ。

「ラッシュを避けていても結構人がいるんだな」
「まあな」
「とはいえ、見かけた生徒をすぐに見失うほどじゃないな」
「まあな」

 友人と若干不毛な会話をしていると、時間通りに電車がやってくる。そして乗車。

「えっと…ああ、ほら」
「へえ、美人じゃん。…ん?」
「どうした?」
「いや、どこかで見たことがあるような…」

 いつもの装いの彼女を見つけた僕達は、しかし、友人がそんなことを言い出す。

「そうなのか?僕にはわからないけど」
「お前は毎日見ているからな。いやでも、別の場所で見てないか?学校のどこかで」
「うーん…。あ、もしかして、髪型を変えているとか?」
「かもしれん。それだけで結構印象変わるからな。男も女も」

 電車に乗っている時はロングの髪をそのまま、降りて駅から出たら、トイレかどこかに行って髪型を変える。そしてあらためて登校。理屈は合っている。合っているが…。

「だとしたら、なぜなんだろうな。毎日、必ず」
「そうだと決まったわけじゃないけどな。…しかし、着くまで長いな」
「スマホいじってたらすぐだけどな」
「あの娘はずっと、何かを聴いているだけだな…」

 ガタンゴトン、ガタンゴトン、…

「そろそろ着くか。よし、可能な限り近づこう」
「おい、とにかく露骨なのはやめろよ?」
「わかってるって」

 僕達は、彼女との間にふたりほど他の乗客を挟むようなところまで移動できた。ここから友人とは目で合図しながら進んでいくことにする。

 電車が目的地に着き、僕たちを含む乗客がぞろぞろと降りていく。階段を歩き、改札に向かい、通過する。

 ‎そしていよいよ…というところで、

「トイレか…。学校側出口からかなり離れているから、突然いなくなったように見えたのか」
「少し足早だったしな、あの娘。ここで髪型とか変えているのかな?」
「なんか、予想が当たりそうだな」

 トイレから少し離れたところの駅の壁に寄りかかり、彼女が出てくるのを待つ。

「紛うことなきストーカーだな。よし、俺がおまわりさんを連れてこよう。動くなよ」
「お前も一緒に連行されて、めでたしめでたしか」

 アホな会話を友人としていると、トイレからひとりの…

「あれ、先生?」
「え!?あ、あ、あなた達、ここで何を!?」
「何って、俺達は…ん?ああ、そういうオチ?」
「オチ?なんの話だ?」
「…!あうう…」

 ?



 僕らと同時期に赴任してきた数学の先生。その先生が『彼女』だった。
 ‎小柄でまだまだ制服が似合う容姿。とはいえ、学校では服が違う上に、ポニーテールにメガネだから、僕は全く気づかなかった。友人はそうでもなかったようだけど。

 ‎で、なんでまた制服で通勤(・・)を?

「えっと…私、この辺の地域の出身でね。制服が可愛かったからここに通いたかったんだけど、別の高校に進学することになって」

 たまたま中学の時のクラスメートに会って、ウチの高校に進学した彼女から制服を借りてちょっと試したら、誰も違和感を覚えている様子もなく、つい、買い取って続けてみたと。学校指定のバッグに着替えの服も入れて。

「まあ、俺も意識してなきゃわからなかったな。ちょっとぼーっとしていたのは、メガネを外していたから?」
「そうなの。メガネがないとスマホいじるのも辛くて、だから音楽を聴いてた」

 なるほど。

「で、これからどうしますか?」
「俺、誰にも言わないからさ、続けてもいいんだよ?…ぷぷぷ」
「…もう、やめる」
「ああいや、こいつは電車通学ってわけじゃないですから。僕も、誰にも言いませんよ」
「そう?じゃあ…」

 明日は、電車の中で声をかけてみようかな。普通の高校生同士っぽく。

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