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世界で唯一のフィロソファー  作者: 新月 望


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第九十四話『成長と欠落』

 ヘクセレイ族の里にて、精神魔法の修行を始めて三ヶ月が過ぎ去った。いよいよ今日、アンス王女達と合流し、ヴェルメリオ行きの船へと乗り、魔大陸を後にする。彼女達との合流は船着き場で行う予定だ。



「完璧だよ、フィロス君。まったく君の気配を感じない」


 ヘクセレイ族族長のソピアさんが透き通るような聞き惚れる声で言った。


「はい、先生が良いと教え子も成長するみたいですね」


 僕は少しおどけた調子で、認識阻害の魔法を解きながら答えた。


「ふふ、二人は私の自慢の弟子達だよ。まぁ、ラルムちゃんの場合、本人の資質が大き過ぎて、ある意味教えがいがなかったけれどね。まさか、ヘクセレイ族の専用魔法まで身につけるとは」


 優しい眼差しで、ゆっくりと語るソピアさん。


「あ、ありがとうございます……」


 瞳の色をコロコロと変えながら、照れた調子でラルムが呟く。


「出航は夜だったね。正直、寂しいけれど、お別れの時間だ。家の外に馬車を用意してある」


 名残惜しそうに言葉を紡ぐソピアさん。


「はい、何から何までありがとうございました。また、いつか戻ってきます」


 この美しい里とも暫くはお別れだ。


「いやいや、私こそ、楽しい時間をありがとう。護衛は……、いらないか」


 アイ、ソラ、イーリスの三人の少女に視線を向けたソピアさんが言った。


『マスター達の護衛は任せて下さい』


 三人の少女が同時に言った。


 どうやら、僕達が精神魔法の修行をしていた間、彼女達三人も戦闘における連携を特訓していたようだ。彼女達の戦闘における経験値は共有されるようで、とてつもない早さで成長していた。


「行ってきます」


 決意を固め、僕達五人は馬車へと乗り込む。


 一面ガラスの美しい世界とこちらに手を振り続けるソピアさんの姿がみるみる内に小さくなっていった。


 ヴェルメリオとノイラートの戦争を阻止する。そんな大き過ぎる目的を果たす為、僕達は旅路を行く。



 * * *


 馬車の車輪が急停止した。慣性の法則に従い、僕とラルムの小さな身体が宙に浮く。ソラとイーリスが、僕達二人の身体を素早く抱きとめる。


 何事だ? 僕はこの急停止の理由を求め、馬車の外に顔を出す。


「ゴ、ゴブリンデーモンの群れです……」


 馬車の御者が、怯えきった表情で言った。


「いけるかい?」


 僕は三人の少女に問いかける。


『いけます!!』


 僕の言葉に即座に答えたアイ達は馬車の外へと躍り出る。


 相手はゴブリンデーモン五体。以前の僕達なら、失神してもおかしくない状況だ。


「まずは、右端の一体からやります」


 どうやら、戦闘の指示を出すのは、水色の髪留めをつけているソラのようだ。


「アイは左側から、敵の右足を狙って下さい。イーリスは右側から左足を、私は背後から一撃を入れます。マスターとラルムさんはその間、他の敵が邪魔を入れないよう、動きを制限して下さい」


 今までは、僕の指示で動いていたアイも、素直にソラの指示を受け入れている。彼女達の連携だけならば、肉声に出す必要はないのだろうが、これはきっと僕とラルムへの配慮である。


「ソラちゃん、何だか、フィロス君に似てきたね……」


 ラルムは、敵の動きを拘束しながらも、顔色一つ変えずに言った。変化があるのは瞳の色だけだ。


「イーリスはラルムに似て、黙々と自分の役割をしっかりとこなすね」


 不思議なことに、ソラもイーリスもそれぞれの名付け親に少しずつ似てきていた。


 そんな事を考える程には、余裕のある状況だった。


 銀髪の三人の少女が縦横無尽に動き回る。苛烈な中にも美しい調和を感じる連携が、驚く程のスピードで命を刈り取る。


 ふと、心の隅で思う。彼女達の成長を素直に喜ぶ自分は、いま、正常なのだろうか。何かが欠落し、何かを見落としている気がするのは、気のせいか?


「完了しました」


 いつの間にか戦闘が終わり、淡々とソラが僕に報告する。


「うん、よく出来たね」


 僕はそう言って、返り血のついた銀色の髪を優しく撫でる。


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