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世界で唯一のフィロソファー  作者: 新月 望


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第九十一話『強さの形』

 朝食を済ませた私達は、再び訓練場へと戻ってきた。四人それぞれが軽いウォームアップを始めている。私とリザは手足の柔軟程度だが、マハトとゲヴァルト族長は、金砕棒と呼ばれる、オグル族が扱う武器を振り回している。

 もはや、ウォームアップの範囲を逸脱しているように感じるのだけれど……。


 私のそんな考えをよそに、ゲヴァルト族長が口を開く。


「強さとは制御することにある」


「制御?」


 その言葉を武闘派のゲヴァルト族長が口にしたのは、何だか、私にとっては意外に思えた。

 

「そうだ。それを今から教えてやる。とりあえず、お前からかかってこい」


 ゲヴァルト族長はそう言って、手に持っていた金砕棒を置き、素手のまま、私を誘ってくる。私も模造刀を床に置こうとした瞬間、再び、ゲヴァルト族長が口を開く。


「おいおい、舐めてるのか? お前は武器を使え」


 なるほど、私相手には、素手で十分だと言いたいのね。


 私は瞬時に足に力を集める。

 そしてすぐさま、その力を解放する。

 爆発的な力で床を蹴り出し、一足飛びで距離を詰める。私はその勢いのままに、敵の喉元へ鋭い突きを放つ。


 次の瞬間、私の眼前には、信じられない光景が……。


 模造刀の刀身が綺麗さっぱり、真っ二つに折られていたのだ。


「本気で来い! 寸止めなんて考えてたら、お前の刀が俺に届くことは一生ない!!」


 手に持つ折れた刀身の半分を床に投げ捨て、ゲヴァルト族長が叫ぶ。


 言われっぱなしは気に入らない。


 壁にかかっている新しい模造刀を手に、私は、全身全霊の攻撃を繰り出す。スピードの乗った連撃を間髪入れずに打ち込む。


 しかし、そのどれもが、ギリギリの所で避けられる。


 そんな、やりとりが数十分続き、私の体力は限界を迎えていた。身体魔法の連続使用がみるみる内に、私の体力を奪っていった。


「次、好きな方から来い」


 へばった私の様子を見て、次の相手の訓練を始めようとするゲヴァルト族長。


「つ、つぎはオラがいきます!」


 マハトはそう言って、一礼すると、すぐさま戦闘態勢をとる。


 意外にも俊敏な動きで、攻撃を繰り出すマハトだが、私から見ても、動きにムラがあり、大振りが目立つ。一撃そのものには威力が込められているのだけれど、それを生かすための足運びが悪いようだ。


 当然、それらの攻撃を見切ったゲヴァルト族長は、最低限の身のこなしで攻撃をいなす。


 そして、先程の私と同様に、息を切らしたマハトが床に手をつく。


「最後はリザだな、こい!」


 マハトが使っていた模造刀を手に、構え直すゲヴァルト族長。


「なんだよ、俺には素手でこないのか?」


 そう言って、にやりと笑うリザ。


 そして、次の瞬間には、武器と武器とがぶつかり合う激しい音が、訓練場内に響き渡る。


 模造刀とはいえ、当たればお互い、打撲では済まないだろう。


 リザの斬撃は重く、着々とゲヴァルト族長の体力を削っているように見える。


「ゲヴァルトの旦那ー。なんなら角の力を使っても良いんだぜ?」


 リザにはまだ、相手を挑発する余裕があるようだ。


「ぬかせ!」


 ゲヴァルト族長は、短くそう言い放ち、自らの武器をリザの持つ模造刀の腹にぶつけ、その刀身を叩き折る。


「かぁー、大人げねーな。旦那を相手にするには、こんな棒っきれじゃ、駄目だな。もう一戦しよーぜ!」


 そう言って、豪快に笑うリザ。


「まぁ、落ち着け、ひとまずは、反省会だな」


 ゲヴァルト族長が少し疲れた様子で言った。


「オ、オラはどうでしたか?」


 マハトが少し緊張した面持ちで言った。


「アンスとマハトは、力を垂れ流し過ぎだ。だからすぐにへばる」


「垂れ流し?」


 思い当たる節はないのだけれど。


「あぁ、戦闘が始まると常に身体魔法を発動した状態でいるだろ?」


 ゲヴァルト族長が問いかけてくる。


「はい、それは戦闘中なので」


 気を抜ける暇などない。


「それは間違いだ。身体魔法は必要な時に必要なだけ使うことがベストだ。余計な体力の消耗を減らせる」


 ゲヴァルト族長の言葉に、リザも大きく頷いている。


「そうそう、切り替えだよ。零から百、百から零みたいな? 必要な時だけ力を使って、それ以外は節約すんだよ」


 当たり前のように語るリザ。とてもリザらしい感覚的な物言いだ。


「まぁ、右手で剣を振る時に、左手に力をいれる必要はないからな」


 ゲヴァルト族長が補足説明を入れる。


「身体魔法の部分的強化なら私もやっているわよ?」


 両足に神経を集中させる高速移動に関しては自信があるのだけれど。


「確かに、お前さんは、足運びの切り替えは上手いんだが、上半身の使い方がな。逆にマハトは上半身の切り替えは出来ているが、足運びが悪い」


 ゲヴァルト族長が冷静に話す。


 なるほど、最初に言った、制御とはこのことね。



「なぁ、俺は? 俺は?」


 今か今かと自分の番を待つリザ。


「力の制御に関しては、リザに言うことはない、だからお前は別メニューだ。アンスとマハトは、さっき言った注意点を意識して、互いに相手の動きを見ながら、必要な時にだけ力を使う判断力と目を養え」


 そう言い残して、ゲヴァルト族長は、リザを連れて、外へと出ていった。


 訓練場には、私とマハトだけが残った。


「あなたの族長って意外に、色々と考えて戦っているのね?」


「意外じゃねーべ、族長はいつも、何かを考えていらっしゃる」


 マハトの言い分も頷ける。ゲヴァルト族長からは多くの事が学べそうだ。


 リザ達の修行内容も気にはなるが、今はまず、目の前の課題が先だ。


「じゃあ、始めましょうか」


「おう!!」


 威勢の良い大きな声が訓練場内に響き渡る。



 * * *


 あれから、マハトとの実戦形式の訓練を何時間も続けて、今日の訓練は終了した。その後は夕食を済ませ、現在はリザと二人で就寝する所だ。ベッドではなく、床に直接寝具を敷くタイプのあまり慣れない寝床の中にいる。


「ねぇ、リザ、起きてる?」


 私は隣で寝ているリザへと小さな声で問いかける。


「おぅ、どした?」


 顔をこちらに向け、リザが返事をする。


「リザは強さって何だと思う?」


 寝る前に少女二人がする会話ではないのだろうが、リザの意見を聞いてみたくなったのだ。


「自分で何かを決めることだろ」


 リザの瞳には迷いがない。すぐさま、返事が来た。


「決めることかぁ……」


 確かにリザには、並々ならぬ決断力がある。


「いつだって俺らは、何かを決めながら生きている。朝の訓練だってそうだ。横合いから切りつけるか、正面から打ち込むか、その判断を自分で決めながら戦っている。それらを高速で判断し、決められるやつが、強い。それは、戦い以外の場でもそうだろ?」


 確かに、戦いに限らず、国の政治などでも、発言力のある大臣は何かを決める事がはやいように思える。それに、精神面の強い人間は、基本的に決断力が高い気もする。


 強さか……。フィロスならどんな答えを口にするのだろう。


「アンスにとっての強さは何だ?」


 今度は逆にリザが私に問いかけてくる。


「うーん、想うことかしら?」


 私はなんとなく思い浮かんだ言葉を口にした。


「かぁー、なるほどな! フィロスも幸せ者だな」


「ど、どうして、そうなるのよ!」


 あぁ、顔が沸騰寸前だ。


「顔に書いてあるからな〜」


 今日一番のニヤニヤ顔で私をおちょくるリザ。


「う、うるさい、おやすみ!」


 あぁ、もう! リザにはからかわれてばかりだ。やっぱり、彼女には敵わない。


 いつか絶対、訓練でも、話し合いでも、勝ってみせるんだから!


 私は密かな決意を胸に、ゆっくりと目蓋を閉じる。


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