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世界で唯一のフィロソファー  作者: 新月 望


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第五十五話『それぞれの出会い』

 フィロスとウェスタ王女が宿を出て行ってから数分。残された、私達三人は手持ち無沙汰になっていた。


「じゃあ、部屋に戻って、紅茶でも飲みながら、普段出来ない話でもしましょうか」


 私の提案に、アイはうんうんと力強く頷き。ラルムも控えめに小さく頷いた。


 部屋に戻った私達は丸テーブルを囲むようにして集まる。私が教えた通りの作法でアイが綺麗に紅茶を淹れてくれている。


「そう言えば、あまりお互いに聞いたことがなかったけれど、二人はどういう経緯でフィロスと知り合ったの?」


 おおまかな成り行きはフィロスから聞いたけれど、本人達から直接聞いたことは無かった。


「えっと、私は、国家魔法師の合宿で……」


 紅茶を淹れているアイに気を使ったのか、ラルムが先に口を開いた。


「それで、それで?」


 私が続きを催促すると、瞳を桃色に染めながら、あたふたし始めるラルム。

 こういう、女の子らしさがフィロスの保護欲をくすぐるのかしら? むむぅ、流石ラルムね。


「えっと、合宿では、フィロス君と一緒に訓練を受けることが多くて、師匠やエルヴィラさんの指導を受けました」


 普段は口数の少ないラルムだけれど、大切そうに記憶を振り返りながら、幸せそうに語っている。


「そう言えば、バールが講師として、合宿に参加していたわね」


 バールが楽しそうに、弟子であるラルムの話をしていたのが、印象的だった。


「うん、その時に、フィロス君が私のこの目を褒めてくれたの。そんなこと、はじめてだったから……」


 その言葉の続きを聞かなくとも、ラルムが抱いている気持ちが手に取るようにわかる。その桃色の瞳が口よりも余程、真実を雄弁に物語っている。

 目は口ほどにものをいうとは、このことね。


「マスターとラルムさんの連携はいつもスムーズですよね」


 紅茶を淹れ終わったアイが椅子に座り、会話に入ってきた。


「最初の頃は、フィロス君が私の精神と同調しながら、バランスを取ってくれていたから、互いのことは少しはわかっているつもり……」


 瞳の色を目まぐるしく変化させながらも、少し恥ずかしそうに語るラルム。

 ラルム程の精神魔法師の心中が、こんなに分かりやすくていいのだろうか?


「それなら、アイも負けてませんよ」


 自信満々に言い放つアイ。


「確かに、アイちゃんはいつも、フィロス君と精神を共有しているから、その点は羨ましいな……」


 悔しさと羨望が入り混じった表情でラルムが言った。

 精神魔法が使えない、私からすれば、二人とも羨ましい。


「アイの出会いはどんなだったの?」


 気を取り直して、問いかける私。


「私はずっと眠っていました。そして、その眠りから解放してくれたのが、マスターです」


「それは、フィロスからなんとなく聞いているわ。その話を詳しくしてくれない?」


 話の続きを催促する私。


「私にとっての全ては、マスターです。私の世界はマスターで出来ているし、それ以上でもそれ以下でもないです」


 それ以上に語る言葉を持たないと、アイはそう言っているのだ。それが彼女の誇りでもあるのだろう。


「ずっと気になっていたのだけれど、なんでアイはフィロスとペアルックなのよ」


 これは由々しき問題である。


「この青のワンピースはマスターが買ってくれたものです。そしてマスターのローブは、私とリザさんからのプレゼントです」


 得意げな表情で勝ち誇ったように語るアイ。


「わ、わたしだって、この緑の髪飾りを貰ったし!」


 ムキになっている自分が少し恥ずかしいものの、言葉が勝手に漏れ出していた。


「いいな、二人とも、私はプレゼント、貰ったことない……。でもいいんだ。フィロス君からは、自分を好きになる為の自信を貰ったから」


 透き通るような水色の瞳で、ゆっくりと囁くラルム。


 私とアイは、張り合っていたことが恥ずかしくなり、二人とも床を見つめる。


 やっぱりフィロスも、こういう控え目で奥ゆかしい子が好きなのかしら。

 そんなことを考えていたら、アイが急に口を開いた。


「あっ、マスターが帰ってきました!」


 フィロスが近づいてきた証拠にアイとの同期が再開されたのだろう。


 すでにラルムも気づいていたようで、静かに席を立っていた。


 これから、私とフィロスの劇的な出会いのシーンを語ろうと思っていたのに、まったく、タイミングが悪いわね。


 なんだか、このままだと、二人にやられっぱなしな気がするわ。

 ここは一つ、私の唯一のアドバンテージを使おうかしら。


 私は意識を足に集中し、全速力で駆け抜けた。誰より先に、おかえりなさいを言う為に。


「フィロス、おかえりなさい!」


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