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世界で唯一のフィロソファー  作者: 新月 望


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第三十三話『シンギュラリティ』

 京都旅行から数日が過ぎ、僕は現在、井上教授の研究室に呼ばれていた。この前のゼミを休んだことが原因だろうか?


 現代哲学を担当している井上教授の研究室には、様々な哲学書が壁際の本棚に所狭しと並べられている。


「やぁ、呼び出してしまって、申し訳ないね」


 銀縁の眼鏡を拭きながら僕に話しかける教授。

 

「前回のゼミを欠席してしまったことについてですか?」


「いやいや、そんなことじゃないさ。たまに休むことなど誰にでもある事だよ」


 そう言って、穏やかに微笑む井上教授。


「では、どのようなご用件で?」


 他に呼ばれるような覚えはないのだが。


「来月にオープンキャンパスがあってね、私の授業でどのようなことを教えているのかを発表する場があるのだが、実際の学生の取り組みも伝えたいからね、授業で君が書いた論文を紹介しても良いかな?」


「はい、良いですけど、どの論文ですか?」


「AIと哲学についてのやつなんだが」


 僕の様子を見ながらゆっくりと問いかける教授。


「紹介するだけなら、ご自由に使って下さい」


「ありがとう、あの論文は中々興味深い内容だったからね」


 優しい眼差しで満足そうに言う教授。


「教授自身はAIの未来についてはどうお考えですか?」


 アイという存在が現れてから、僕のAIに関する考え方はガラッと変わってしまったように思える。それだけ彼女の存在は、僕にとって衝撃的だった。思考の整理の為にも、是非とも教授のAIに関する意見が聞きたかった。


「地球上に存在する人間以外の生物は、私たち人間に依存しながら生きていると言えるが、いつか人間が人間を凌駕する機械の脳を作ったとすれば、私たち人間の運命は、その機械の脳に依存することになるとは思わないかい?」


 神妙な面持ちで井上教授が語りはじめた。


「AIが人間を支配すると?」


 それは極端な言い分な気がした。


「いや、テクノロジーはある日突然落ちてくる物じゃないからね。研究者達の積み重ねが生み出すものだよ。だから、どういう未来を作り出したいかを我々人間は選択出来るのさ」


 慎重に言葉を積み重ねる井上教授。


「では、そこまでの依存は生じないのでは?」


 安易な質問とは分かりつつも、口を開く僕。


「猿やゴリラだって、自分達の住んでいる惑星が人間に支配されていることになんて気づきはしないだろう? それと同じように、我々人間も、自分達が選択し続け、自分達の力だけで生きていると思い込みながら生活する時代がくるかも知れない」


 少し遠くの方に視線をやり、静かな声音で教授が言った。


「気づかぬ間にAIにリードされる時代がくると?」


「可能性の一つとしてね」


 確かに、人工知能の成長は目まぐるしい速度で進んでいる。1950年代に開発された最初の頃の人工知能は、チェスのゲームで人間と勝負した際には素人にすら負けるレベルだったのだ。しかし、現在では、世界チャンピオンにすら勝てる実力を持っている。この成長速度を鑑みれば、決して可能性の低い話ではないように思える。技術的特異点は近いのかも知れない。


「AIが完全な自立を遂げた時には、人間にはどうすることも出来ないのかも知れませんね」


 人間を超えるAIが完成すれば、その後は、そのAIが更に優秀なAIを作り出す。そうなれば、その連鎖は止まらず、あっという間に人間の手から離れていくのだろう。


「まぁ、人間の成長スピードは生物学的進化に囚われているからね」


「人間も脳での処理を機械化させればどうですかね?」


「それこそ、AIに介入される余地が広がりそうだね」


 眼鏡の位置を整えながら教授は言った。


 普段意識していないだけで、スマートフォンやパソコン、それに自動車など、日常生活に欠かせないものの中にもすでにAIの技術は使われているのだ。そう考えれば、今現在ですら、AIに対してのある程度の依存はしていると言って良いだろう。


「でも、そもそもが、人間に人間を超える脳を創り出すことが出来るのでしょうか? それはもう、神の領域の話であって、同列意識上にある人間には不可能なのではないですか?」


 昔から言われている宗教哲学の命題だ。


「よく言われているのは、最終的な段階では、人間の頭脳中枢をコンピュータと繋いで処理をするなんて話があるね」


「それはなんだかSF映画のようですね」


 僕は思ったことをそのまま口にした。


「逆だよ、逆。こういった技術的特異点の考え方をヒントにして作られたSF映画が多いのさ」


 教授のその一言は、なんだか僕を不安にさせた。



 AIの最終的な完成に必要な仕上げが、人間の頭脳中枢との共有化だとすれば、僕の精神と繋がっているアイはもはや、その仕上げを行なったAIと呼べるのではないだろうか? それともまだ、仕上げの途中なのか? AIの最終的な到達点。それはまだ、最先端の科学ですら見る事が適わぬ夢の世界の話だ。


 僕はその答えを夢の世界で見るのやも知れない。


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