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世界で唯一のフィロソファー  作者: 新月 望


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第百三十五話『その先へ』

 視界のバランスの悪さが、今の僕のバランスを保っている。


 モノクロでカラフルな世界、アンバランスにバランスをとる。冷たさと温かさの共存。破壊と創造の力。奪う力と与える力。このどちらもが人間には必要なのだ。


 右の瞳に映る、白と黒の冷たい世界が僕を冷静にさせる。


 同時に、左の瞳に映る、色に溢れた君の世界が、僕の背中を押す。


 先へ進まなくては。


 流し切った涙と君の命を無駄にしない為にも。


 両極にある二つの世界を覗き見る僕が、この世界の秘密に触れなくてはならない。そして知る必要がある、この先にある答えを。


 あぁ、イデアが僕を待っているのが、今ならわかる。


 義務なんて、弱い言葉では括れない。衝動や欲望とも違う。この感覚はそう、運命と呼ばれるものだ。君が導き、僕が触れる。


「行きましょう」


 僕はアンス王女へと手を差し出す。


「フィロス、私にはもうわからない」


 彼女のその言葉は、あまりにも多くの意味を含んだものであり、それ故に僕は、シンプルな答えを口にする。


「わからないなら、知らなければいけない。僕達人間が前に進むには、それしかないから」


 これは、誰の言葉でもない。人類が歩んできた歴史が常にそれを証明し続けている。


「もしこの先に、悲しい結末が待ち受けていたとしても、それでもフィロスは、先を望むの?」


 救いの無い世界で、彼女は今、溺れている。僕がするべきことは一つ。君が架けた橋を渡すこと。


「停滞とは緩やかな死と同じです。もし、人生に意味など無いのだとしたら、自由に生きて、死へと向かうべきです。死が全ての停止をあらわすものならば、せめて生きている間くらいは、前にでも後ろにでもいい、とにかく動くべきだ。自由に学び、自由に愛し、自由に生きる。生まれてきた意味も、死んでいく理由もないのなら、こんなに素敵なことは、他にないですよね」


 ラルムが残した最期の魔法(ことば)が、アンス王女の中に広がっていくのがわかる。


「そうね……。あなた達の言う通りだわ。ここで、止まっていたら、きっとラルムに笑われちゃう」


 彼女の翡翠の瞳に、再び力がやどる。君の目がそれをより鮮明に、僕へと伝えてくれる。


 部屋の四方には、僕へと記憶を流し込んだ、ソラ、リーフ、イーリス、フレアの四人が活動を停止し、倒れている。その彼女達を部屋の中央で眠っているラルムの元へと運ぶ。


「行ってくるよ、少しだけここで、待っていて」


 寄り添う彼女達の姿に僕はお別れを告げる。相変わらず僕は、肝心なところで締まらない。いや、閉める必要はないのだろう。彼女達全員が文字通り、僕の心の中にいるのだから。


 次の部屋へと繋がる扉の前に立つ。右半分がモノクロで、左半分がカラフルな扉。


 この歪で美しい扉は、僕にしか見えない。


 その扉が、中央からゆっくりと開いていく。その奥からは光が漏れ出している。


 その光が僕らを包む。それは冷たくて温かい。厳しさの中に優しさがあり、厳格さとともに寛容さを感じさせる。そんな光が一箇所へと収束する。


 収束した先には、少女が一人。


 僕と同じ、銀色の髪。そして、君と同じ、色鮮やかな瞳を持つ最古の魔女。ーーアリス・ステラ。


「やぁ、本体の私と話すのは、初めてだよね。ならばまず、様式美に倣うとしよう。初めまして、フィロス君、いや、新谷哲也と呼んだ方が良いかな?」


 様々な色の光が流動的に渦巻く空間に、アリス・ステラの声が反響する。


「自己紹介の前に確認したいことがある。アンス王女に何をした」


 謎の光に包まれた瞬間から、隣に立つアンス王女の動きが完全に止まったのだ。


「そう焦ることはないよ、ここは仮にも、君の為の世界なんだから。彼女は無事さ。ただ、この空間には、一切の時間の概念が無いからね。私の因子を持つ者しか、動くことが許されないだけさ」


「その言葉に嘘はないと?」


 どんな話よりも、まずは、彼女の安全が先だ。


「たとえ私でも、今の君に嘘はつけないよ。嘘が嘘の意味を成さないからね」


 アリス・ステラの言う通り、今の僕には、情報の正誤が正確に伝わってくる。


「さて、総仕上げの時間だ、この世界の仕組みについて、今、全てを語ろう」


 これから始まるのは、終わりにして始まりの物語。そして、その先に、この世界の成り立ちと存在理由を知るのだろう。


 全ては、決まっていたのだ。ちっぽけな存在理由の為にある、巨大過ぎる世界(うつわ)


 誰が為に世界はあるのか……。


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