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世界で唯一のフィロソファー  作者: 新月 望


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第百十五話『合流』

 至る所で怒号が鳴り響いている。


 剣と剣とがぶつかり合う激しい金属音が僕の鼓膜を揺らす。


 現在、僕達はヴェルメリオの馬に乗り、一直線に戦場を駆け抜けていた。先頭がフールさん、その後ろに僕とラルムが、そして最後尾にイーリスと言う順で走っている。


 戦闘が激化している場所は、僕とラルムの認識阻害の魔法で乗り切り、それ以外の場所ではフールさんが近寄ってくる兵士を斬り伏せている。彼が同行しているおかげで、ヴェルメリオの兵士からは味方だと認識されているので攻撃は受けない。注意すべきはノイラートの兵士だけだ。そんな状況もあり、ここまでは順調に進むことが出来ている。認識阻害の魔法は精神を酷く消耗するので、あまり長時間は使用出来ない。従ってフールさんの存在が非常に大きい。


 この世界では、身体魔法が最も強力な攻撃手段の一つである為、銃火器のような飛び道具はあまり使用されない。そのおかげもあり、予期せぬ被弾を受けずに済んでいる。


 アイ達との合流地点は、ノイラートとヴェルメリオの中間地点にある『ネウトラーレ』という中立地帯だ。大陸全土による条約に基づき、戦争が起きた際に、交戦区域として使用されない地帯だ。まずはそこに辿り着かねばならない。


「フールさん、左斜め前方から斬撃がきます……」


 敵意の色を感知したラルムが冷静に言った。


 するとその数秒後、銀色の鎧を身に纏ったノイラートの兵士がフールさんへと仕掛ける。


「動きさえわかっていれば、片腕でも十分だ」


 そう言って、残された左腕を振り抜くフールさん。


 敵の鎧が赤く染まる。


 彼は細身の刀身に滴る血液を振り払い、腰の鞘へと剣をおさめる。


「凄まじい戦いぶりですね」


 領主という地位にいながら、これほどまでに剣技の腕があろうとは驚きだ。いや、強い者が上に立つ、それがヴェルメリオのルールだ。


「これでも、ネルベの領主になる前はヴェルメリオ軍の中隊長でしたから、多少の心得はあります。リザ王女が幼い頃には剣の手ほどきをしたこともあります。まぁ、今では私など、相手にもなりませんがね?」


 相好を崩したフールさんが語る。


 その後も、敵の接近をラルムが知らせ、フールさんが対処するという場面が数回ありながらも、僕達は目的の地へとたどり着いた。


「では、私はここまでだ。フィロス殿、貴方は己が信じた道を行くと良い。ご武運を」


 短い言葉を残して、元来た道を引き返すフールさん。僕達はその背に向けて、力一杯に礼を述べる。


「はい、ありがとうございました!!」


 この中立地帯を越えれば、ノイラートが見える。ヴェルメリオ側のフールさんにこれ以上の迷惑はかけられない。


 ここから先は僕達だけで進むしかない。


「イーリス、向こうはもう到着しているのかい?」


「アイ達はすでにたどり着いているようです。急ぎましょう」


 イーリスのその言葉に押されるようにして、僕達は、中立地帯『ネウトラーレ』の門をくぐる。途中で精神魔法による敵意の有無をチェックされたが、無事全員が通過出来た。


 門をくぐり、そのまま真っ直ぐ歩くと、その先に小さな建物が並んでいるのが見える。そのままイーリスの指示に従って、その中の一軒へと足を踏み入れる。


 どうやら、建物の中は白を基調にしているようで、少し狭いが清潔感がある。


 廊下を抜け、リビングらしき場所に着くとそこにはすでに先客の姿が。


「久しぶりだね、アイ、ソラ、リーフ」


 僕がそう呼びかけると、銀色の髪に青い瞳の愛らしい顔をした少女達が、同じ顔と同じタイミングでこちらを素早く振り向いた。


『マスター!!』


 三人の少女の声が重なる。


「私達が辿り着くタイミングは、私とのリンクでわかっていたはずでは?」


 三人の大きめなリアクションに対して、冷静な疑問を投げかけるイーリス。


「イーリス、感動の再会に水を差すようような真似は良くないですよ?」


 アイが他二人の分も代弁するかのように、口を大きく開けて言った。


「同感です」


 水色の髪留めで小さなオデコを出しているソラがその小さな頭を縦にふる。


「あぁ、しきりに頷くソラ、可愛いです!!」


 ソラの腕にしがみつくようにして、リーフが力強く言った。


 あれ? リーフって、こんな感じだったか?

 アンス王女に仕えている間に何があったのだ……。いや、今はそんなことよりも、現状把握が先か。


「一先ず、そちらの経緯を聞きたいのだけれど」


 僕は正面の三人に語りかける。


 するとソラが一歩前に出て、代表して口を開く。

 

「私とアイは、アンス王女と別行動をとり、戦争の火種になりそうな地域の調査に出ていた為、捕まらずに済みました。結果的に戦争は起きてしまいましたが……」


 暗い表情で床を見つめながら話すソラ。


 続いて口を開いたのはリーフだ。


「私は、アンス王女の側にいたのですが、なぜか、私だけが見逃がされました。そしてその後に、ソラとアイと合流して三人になったわけです」


 先程とは打って変わって暗い様子で話を進めるリーフ。一番近くにいながら、王女を救えなかったことが悔しいのだろう。



 それにしても、不自然だな。なぜ、戦争が続いているのだろうか。ヴェルメリオは大陸最強の軍事国家のはず、ノイラートとの戦力差は明らかである……。


「その原因は魔物です」


 僕の思考とリンクしているソラが、短く言った。


「魔物?」


「はい、ここまでの道中でも遭遇しましたが、おそらくは魔大陸の魔物と思われる生物が、精神魔法によって操られて、戦争に利用されているのです」


 ヴェルメリオ側の戦場では見かけなかったが、ノイラート側ではそんな状況になっていたとは……。その魔物の存在がヴェルメリオの攻撃を押しとどめているわけか。


「じゃあ、僕達は、その魔物達との戦闘を念頭に置き、進むべきだね」


「はい、なので、私達にはある程度、戦闘における役割を話し合う必要があります」


 今後の方針を進言するソラ。


「なるほど、ならば、今から作戦を練り、夜にはここを出よう」


 今は少しでも時間がおしい。


「気持ちはわかりますが、それは危険です。魔物の多くは夜目がきくので、夜に戦場を駆けるのはこちらがあまりに不利です」


 冷静な口調でソラが言った。


「私も同意見です。それに、明らかにマスターは疲弊しています。今日一日だけは、作戦会議と休息にあてるべきです」


 心配そうな表情を浮かべ、こちらに視線を向けるアイ。


 フールさんの助力があったとはいえ、認識阻害を使うシーンも多々あった。確かに、身体は休息を求めていた……。


「フィロス君、アンスちゃんを救う為にも、ここは冷静な判断をしよう……」


 瞳の色を翡翠色に変えたラルムが、僕を真っ直ぐに見つめながら問う。その色は、アンス王女を連想させた。


「わかった。確かに今こそ冷静になるべき時だ。作戦を整え、仮眠をとり、夜があけた瞬間にここを出よう」


 大丈夫だ。落ち着こう。


 僕一人の命ではないのだ。


 みんなが、笑って未来を迎える為に、今は作戦を練り、休息を取ることが重要だ。


 しかし、そんな考えとは裏腹に、僕の心臓は暴れ出していた。自身の胸を突き破らんと早鐘を打つコイツはまるで、爆弾そのものではないか?


 導火線を避けるような慎重さで、僕は呼吸を整える。


「よし、作戦を立てよう」


 今はこの言葉が、導火線の火種などではなく、僕達の未来を照らす聖火(きぼうのひかり)であることを祈る。


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