かめ、告白する
かめはとうとう告白を決意した。予定日は、修了式の日だ。クラス替えでクラスが離れたら嫌だし、チャンスと言ったらここくらいしかないだろう。それ以上は延ばしたくない、という考えのもと、かめは計画した。
言わずに後悔するのと、言って振られるのなら、言って振られるほうがいいだろう。うん、その方が白黒はっきりしていい。かめは日本人的なロマンチックなあいまいさは好きであったが、どちらかといえば、白黒はっきりつけたいと思うタイプであった。
修了式は全ての部活がなくて福光もそのまま帰るはずだ。あっ、でも福光はその日は日直になるらしいから、放課後は教室に残るのか。なおさらいいぞ。担任も何か仕事があるらしいし……。
かめは心の中でブツブツ呟きながら、家路を急いだ。もう明日が修了式なのだ。いつも以上にお風呂を長めに入って、それから、告白の言葉も考えなくちゃ。
修了式当日になってしまった。かめはうろたえた。どうしよう。本当に告白するのか? 正気か? 心に問いかけながら登校した。
そしてなんだかんだ修了式も終わり、通知表も配られ、終学活も終わってしまった。みんなが教室から出て行き、いつも一緒に帰る美香にも、用事があるから先帰って、とお願いしておいた。そして、とうとう福光とかめはふたりきりになった。
「お前、帰らないの?」
「うーん、福光の日直の仕事、手伝おうかと思って」
そう言いながら机を直していると、福光がスタスタとこちらにあるいてくるではないか! かめは内心、ひえーっ、お助けぇーっ、となっていた。
すると、
「かめ、お前、絶対好きな人このクラスだろ」
と真剣な目付きで言われた。
「えっ、あっ、はい! そーです!」
かめは開き直った。
「頭文字は?」
「Hさんです……」
かめがドギマギしていると、福光は、ははっ、と笑い、言った。
「このクラスの男子で、Hって俺しかいねえよ」
笑う福光に、かめは真剣に言った。
「そーだよっ。福光しかいないよ。福光が好きです」
かめはほとんど勢いに任せて言った。顔が熱くなるのを感じた。みんなが帰って行く足音だけ聞いていた。
「やっぱりね……」
福光は少しにやにやしたあと、恥ずかしそうに頭をかきむしった。福光は恥ずかしいときこうするのだ。
「でも俺……」
かめは身構えた。
「誰のモノにもなる気ないんだよなあ……って言ったら、どうする?」
福光の問いかけに、かめは何も考えず、気が付いたら口が勝手に動いていた。
「はっ? 何言ってんの」
かめの言葉に、福光は思わずかめの目を見た。
「誰があんたを自分のモノにしたいと思う訳?」
「はっ? なんだそりゃ? おまえ……」
かめは福光の怒りを無視して続けた。
「むしろ逆だよ。あんたのものになりたいんだよ」
そういうと、福光はふっと怒りが消えて。思わず笑顔になっていた。
「なんだそれ……かめってやっぱりすごいね」
勝手なことを口走った自分に気が付いたかめは、ひどく赤面し、うつむいた。
「かめの言葉、かなりよかった。ありがとな。これからも俺のことそんな風に思い続けて。マジでうれしいから。じゃ、がんばれよ」
福光はそう言って、めずらしく顔を赤くしながら、かばんをもってすたこらさっさと逃げたとさ。
その後かめは、なんだよあいつ、結局日直の仕事も返事もしないまま逃げやがったぜ、と思いながら教室を見渡すと、いつの間にか日直の仕事も終わっていたし、かめの机の上に紙が無造作に置かれていた。かめは、あれは告白の返事ではなかろうかと、即座に紙を開いた。そこには、
「いろいろありがとう。気を付けて帰ってね。福光より」
と書いてあるだけだった。
「なんだよそれ!」
かめは憤慨しながらも、なぜか顔には満面の笑みをたたえていた。
結局福光はなんとも言えないような言葉を残して、かめの心をさらにわしづかみにしてしまったのである。
「どうすればいんだろ……」
かめの苦労はこれからも続きそうであります。わはは……