自分の気持ちに気付くかめ
実際に気付いたのはその日の夜であったが、その夜の話をするためには、今度は集会の最中の話をしなくてはならない。
たまたまその時、男子の一人が休んで、順番がずれて、福光はかめの隣になったのであった。体育館へ椅子を運び終わって座るなり福光はかめに小声で言った。
「俺が寝てたら起こして」
うんー、わかったー、と返事をしつつもかめはかなり感心していた。集会中にくかーっ、と寝てるやつは何人も見てきたし、わき腹を小突いてやったこともあるが、自ら頼んでくる奴はこいつが初めてだ……。
福光は何度か寝そうになり、そのたびにかめによってつつき起こされた。
「昨日ちょっと夜遅くに寝てしまったから」
と言い訳する福光に、かめの口角は思わずゆるんでいた。意外とかわいいとこあるんだなあ、と思っていたのだ。短気だし、強気っぽいし、強引なやつだと思っていたが、意外と。
しばらくして、集会も終わりに近づきこそこそ話をする人が増え始めた頃、どういう話の流れだったか、かめと福光は恋愛の話をしていた。
「いやあ、なんかね、素敵なラブストーリー見ると、いいなあ、幸せだなあ、って思っちゃうのよ」
事件は、かめがそんなことを話しているときに起こった。
「それじゃ、俺がお前にロマンチックな夢を見せてやるよ……」
きた……。大抵の人なら、ドン引きする台詞であろう。しかしかめの顔は完全に真っ赤になっていた。
「……なんていう、少女漫画みたいな台詞を言ってみる。これは、人を選ばないとね」
福光はそう言ってにやっとした。
「福光でもじゅうぶん似合うよ」
かめは意味不明の言葉を口走りながら、ぼーっとしていた。そして正気を取り戻した頃にはもう、話はタルトの話になっていた。かめにとって、どうやって自分がそこまで受け答えできたのか、不思議でしょうがなかった。
問題はその夜であった。風呂に入っても、勉強の最中も、布団に入っても、福光が頭から消えなかった。
「いいから、出て、行って、よっ!」
まわりから見たらこの夜のかめはどんな風にうつっていたかは容易に想像できる。かめはその時、枕に顔をうずめ、じたばたしていたのだから。しかしかめにとって、そんなことはどうでもよかった。第一ここは自分の部屋であったし、まずは頭の中から福光 龍紀を追い払うことが優先であった。かめは薄々自分の気持ちに気付いていたが、怖かったし、認めたくなかった。福光のことは嫌いではなかったが、こんな気持ちになるはずない、ない、と自分に言い聞かせていた。が、ふとかめはじたばたするのをやめ、静かになった。そして、たいそう落ち着いた様子でつぶやいた。
「ああ、そうか。好きなんだね。福光 龍紀のことが」
その途端、再び顔が燃えるように熱くなり、枕に勢いよく顔をうずめた。