異変に気付くかめ
かめが異変に気付いたのは、二年生ももう終わりというような、二月の下旬のことであった。その日はよおく晴れた火曜日のことで、かめは鮮明に覚えていた。
「おい、かめ!」
給食時間、好きな人(名を福光龍紀という)はかめをお呼びになられた。
「なっ、なに? ってゆうか、かめって呼ばないでよ」
かめにとってその名前は先輩からいただいた大切なものであった。
「だってかめじゃん」
「あっ、牛乳! 福光、私の牛乳だけない!」
福光は給食当番で、牛乳を配る係だったので、明らかに彼のミスであった。
「えー、そのことでここきたのに。牛乳ちょうだい」
「そーゆーことだったのかっ! 私の牛乳返してよっ」
福光は右手に持っていた牛乳を、ひょいと自分自身背中にやった。次は頭の上、右上、左上、背中の方……。かめは必死であった。と、そこへ、
「何イチャイチャしてんだよー」
と、見ていた隣の女子たちが口笛を吹き、やっと福光はかめに牛乳を手渡し、してやった、というような顔をしながら去って行った。
「結さん福光のことが好きなんでしょ?」
「イチャイチャすんなよー」
「照れんなって」
という女子の声に、かめは真っ赤になってこう答えた。
「照れてねーし」
そう言いながらも、少し楽しんでいた自分に気付いたかめであった。