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タイムリープも楽じゃない!  作者: らつもふ
3/6

怒涛の生徒会長選挙!

 新学期──。

 俺のアルバイト生活は終わりを告げ、再び高校生活が始まる。

 クラスメイトは夏休み中のエピソードで盛り上がっている中、俺は一人窓の外を眺めていた。

 すると、そこに大西さんがやってきて俺に声をかけてきた。

 「おはよう桜田」

 「お、おはよう」

 今までに経験のない事だったので、少し動揺する俺。

 大西さんは微笑みながら更に続ける。

 「夏休みはどこかに行ったりした?」

 「いや、俺はバイトに明け暮れてた」

 「そか。夏休み中も頑張ってたんだね。まぁ、私も夏期講習を受けたりして勉強漬けだったから全然遊べなかったんだけどね」

 後ろで両手を組みながら俺の机の横に立って話す大西さん。完全なる天使。

 でも大西さんほどの人がそんなに勉強していたとはちょっと意外かも。

 「そうなんだ。大西さん、お疲れ様ー」

 「お互いにねっ!」

 そう言うと、首を少し傾げてニコリと笑うと自分の席に戻る大西さん。

 何コレ?新学期早々、何のご褒美タイム!?

 今日は何だかいい日になりそうだな………。

 

 

 ──というのは、やはり完全にフラグでした!

 放課後の生徒会室には福島先輩と俺の二人だけ。

 それなのに、部費の追加申請や他部活への苦情、新たな同好会の立ち上げ申請等、何故か生徒会室は新学期から良く言えば賑わっていた。

 何度も言うが、申請や苦情は生徒会で受け付けるが、実際に判断するのは教師とPTA役員だ。生徒会には何の力も無い。

 それなのにこいつらときたら、俺達に延々と文句を言い続けやがる。

 基本的には福島先輩がカウンターで生徒の対応し、俺がPCに入力するという作業分担だ。

 時刻はあっという間に19時を過ぎ、やっと今日の受付作業が完了した。

 「ご苦労様でしたー」

 福島先輩がコーヒーカップを俺に手渡してきた。

 俺は会議スペースで最後の要望書をPCに入力しており、モニターから目を離さずにカップを受け取った。

 外は太陽が沈み、夕焼けと夜の帳が混ざり合った幻想的な空の色が見えた。

 福島先輩は俺の作業が終るまで、黙ってコーヒーカップを両手で持ちながら窓の外を眺めていた。

 「やっと終わりました!」

 俺はファイルを保存するとPCをシャットダウンする。

 「グッジョブ!」

 福島先輩は右手の親指を立ててニコリと笑う。

 俺も親指を立ててそれに応える。

 「新学期の初日って、いつもこんなに忙しいんですか?」

 「いやー、今日は特別忙しかった。けど、桜田が手際よく受付票を処理してくれたから、混乱もなく捌けたと思います」

 「そうですか……でも、やはり人手不足は否めないですね」

 「確かに。このままでは毎日私たちが生徒会室にいなければなりませんからね。せめて日替わりで交代出来るくらいの人がいればいいのですが」

 「うーむ……」

 コーヒーを飲みながら今後の事を考える。

 「……そもそも受付に人は必要でしょうか?」

 「え!?」

 福島が驚いた表情でこちらを見るが、俺は更に話を続ける。

 「いえ、本来、生徒の要望や苦情は、受付用紙に書いて受付BOXに提出するだけのはずです。けど、カウンターに人がいれば口頭でも言いたくなるのが人の常というもの。だったら、人がいなければ文句も言われないと思います」

 「つまり、受付の無人化ですか?」

 「はい」

 俺が返事をすると、福島先輩が少し考えてから話始めた。

 「実は山口会長が書記だった頃は、受付BOXは廊下においてあり、いつでも提出することができたようです。でも、山口さんが無人化を廃止して今の形にしたと聞きました」

 「へえ。興味深い話ですね」

 「無人の受付BOXは選挙の投票箱のような形状で、中身を取り出すには鍵が必要でした。これは他人に情報が見れないようにするために必要です」

 「まあ、そうでしょうね」

 「すると、受付BOXはイタズラの標的となり、いたずら書きをした用紙やゴミくずが投かんされるようになり、酷い時は墨汁を流し込まれることもあったそうです。これではせっかくの生徒の意見をちゃんと反映することができなくなります。要望や苦情をする側は常に真剣なはず……だったら受け取る側も真剣に対応しよう、というのが山口会長の考えだったみたいです」

 「なるほど。だから対面で受け付ける仕組みにしたんですね……」

 俺は山口会長の真摯で人間味がある対応に心を打たれた。そして、単純に楽な選択をしようとした自分が恥ずかしかった。

 つまり生徒会長とはそういう事なのだ。

 常に校内生活をより快適に過ごせるように改善し続ける。例えそれが効率化という考えから逆行することであっても、やるべき事はあるのだ。

 確かに日本は何でもスピードを重視し、効率的なシステムこそが、お客様への最善のサービスだと思い込んでいる風潮がある。

 だが、本来サービスとは、そんな無機質で効率だけを追求したものではなく、人との繋がりや対話を重視し、お客様の要望に親身になって対応する事こそが本当のサービスのはずだ。

 大きな会社になると受付は無人で、タッチパネルに訪問先の一覧があり客に選択してもらうようになっている。そして、何か問い合せがある場合は呼出しボタンを押すようになっている。これではサービスとは言えないだろう。

 銀行だってそうだ。窓口でお金を引き出そうとすると、銀行員はATMを勧めてくる。

 これでは、引き出し程度ではいちいち対面で対応するのを拒否しているのと同じではないか。

 そう考えると、俺ってやつは何て小さな人間なんだろうと改めて気づかされた。

 そして、無策で何もしてこなかったと思っていた山口会長への考えを改める必要があると感じた

 「先輩が山口会長の事を好きになったのもわかる気がします」

 俺がそう言うと、福島先輩は飲んでいたコーヒーを吹き出し、顔を真っ赤にして狼狽えた。

 「ちょ、なっ、ととととつぜん何を言い出すのかなー?ちょっと布巾持ってきますっ!」

 先輩はガタンと慌ただしく席を立つ。

 俺は笑いながら外の景色を眺めようとするが、窓には反射した俺の苦笑いの顔が映るだけだった。

 

 

 翌日。

 俺は真剣に生徒会の人員補充を考えていた。

 多分、単純に募集をしても過去の経緯から集まらないのは目に見えている。そこで少し強引な手を使うしかないのである。

 方法は2つ。

 一つは、部費が多くかかっている部活の上位4つの中から、それぞれ1名ずつ生徒会へ選出する方法。

 これで自動的に4名は確保可能である。

 しかし、これは各部活からクレームが出るとの理由で却下された。

 先輩曰く、自分が好きで入った部活なのに、何故か生徒会へ生贄として出されてはたまらないという事らしい。

 個人的には、レギュラーにもなれずくすぶっているくらいなら、生徒会で自分の部活のために一肌脱ごう、という気概のある者が現れる事を期待していたのだが、生贄に出される者の気持ちは、そんな単純に割り切れないのだった。

 

 そこでもう一つの案を採用することにした。

 それは、学級委員の中から生徒会役員を選出する方法だ。

 先ずは1年から2年の全学級委員、1学年5クラスの10名を生徒会室に集め、その中から1学年2名の計4名を選出する。

 ……のだが、やはり予想通り難航した。

 だが、生徒会は部活とは違って、毎日仕事がある訳では無い。

 基本的には、生徒会の活動は校内行事とリンクする。従って、忙しくなるのがいつなのか事前にわかるため、予定を立てやすいのも特徴の一つだ。

 「むしろ、人を多めに入れる事で、一人あたりの負担の軽減が可能であるため、気兼ねなく参加して欲しいです。ちなみに会長には俺が立候補する予定で、副会長には福島先輩を予定しています」

 と、次期会長になる予定である、現第2書記の俺が熱弁する。

 そこで福島先輩が俺の話を引き継いで話を続ける。

 「選出する役員は、書記2名、会計2名の計4名です。書記の仕事は主に総会等があった場合に記録する係りで、会計の仕事は部費や学祭の費用管理です。ですが、それぞれを助け合いながら進めたいと思いますので『それだけをやればいい』という事ではありません」

 「生徒会の仕事をやってもいいという人はいませんか?」

 俺の問いに全員が無言のままであった。

 まぁ、普通そうだよな。学級委員だってやりたくないのに、生徒会なんて死んでも嫌だろう。

 そう諦めかけたその時、一人の手が上がった。

 生徒会室の会議スペースには夕日のオレンジの光が窓から差し込んでいる。その遠慮気味に上げられた手もオレンジに照らされていた。

 「私、生徒会のお手伝いがしたいです」

 セミロングの黒髪が夕日で黄金に光り、キラキラと反射している。

 彼女の大きな瞳は、真っ直ぐに俺を見ていた。

 「お、大西さん……」

 俺はそれ以上、言葉が出なかった。

 すると、「じゃあ俺も」「私も」と、次々に手が上がり、予定していた人数以上の5名を確保することが出来た。

 一人の勇気のおかげで、他の人の勇気も湧いてくる。

 まさに大西さんのおかげだ。

 「では、役職を決めたいと思います」

 福島先輩が話を進める。

 すると、大西さんが再び手を上げて口を開く。

 「私は、福島先輩と一緒に会長を支えたいと思いますので、副会長を希望します」

 ええ!?マジでマジでマジで!?

 「ほ、本当にいいの!?大西さん?」

 俺は信じられない気持ち、というか天にも昇る気持ちで聞き返した。

 すると大西さんはニコリと微笑みながら答えた。

 「もちろん!」

 その笑顔があまりにも可愛くて、俺はそれ以降の記憶がほとんど無かった。

 高校生活でこれほど嬉しい出来事があるだろうか!?

 俺はここで宣言しよう!間違いなく皆勤賞を取るであろうと!


 この日生徒会役員となった者は下記の通り。

 ちなみにコメントは俺の勝手な印象だ。

 ・副会長:大西由香里(1年)俺の嫁

 ・書記1:山形雪乃(2年)おっとりしたマイペース風

 ・書記2:岡山一也(1年)茶髪でちょいワルを気取ってる

 ・会計1:佐賀順平(2年)銀縁メガネで痩せ型のオタク風

 ・会計2:宮崎咲来(1年)赤いセルフレームメガネ。真面目風

 

 来週、生徒会役員全員が集まり、今後のスケジュールを打ち合わせすることになって解散となった。

 俺は早速、大西さんにお礼を言おうとすると、同じ1年の岡山が大西さんに馴れ馴れしく話しかけていた。

 ちょっとムッとしたが、別に大西さんと付き合っている訳でもないし、普通に話すくらいで怒るのもおかしな話なのでグッと耐える。

 「桜田」

 俺を呼ぶ声がしたので振り返ると、1年の宮崎が直立していた。

 「な、なに?」

 独特な威圧感がある宮崎に、少し動揺する俺。

 そんな俺には構わずに話を続ける宮崎。

 「今日の生徒会で話し合われた内容ですが、後日議事録として別途展開されると考えて良いですか?」

 赤いセルフレームのメガネに、前髪ぱっつんのおかっぱ頭の宮崎が聞いてくる。

 何だか、超面倒な人っぽい気がする。

 「改まって議事録は展開しないけど、定期的にクラスで配布している『学校便り』のプリントで、生徒会の新体制を校内外へ報告する予定です」

 「なるほど。わかりました」

 ふぅ。

 あっさり納得してくれてほっとする俺。

 だが、それを聞いていた2年の山形が話に入ってくる。

 「わたしはぁ、今日から書記になったじゃないですかぁ?じゃあ、今日の打ち合わせした内容をぉ、議事録として残す必要がぁ、あるんじゃないですかぁ?」

 ちょ……!なにこのゆるふわイライラ系のキャラは!?

 「い、いえ、今回は福島先輩がメモっているので大丈夫のはず………です!」

 そう言いながら横目で福島を見ると、OKサインが出たのでほっとする。

 すると、今度は2年の佐賀が、仲間になりたそうにこちらを見ている。

 あんたはどこぞのRPGのモンスターか!?と、突っ込みを入れることなく、かと言って相手にもせず、簡単に言えばシカトする俺。

 「何か質問等がありましたら、来週の集まりの時にお願いします。次回は現会長と副会長も出席しますので。それではお疲れ様でした!」

 俺は少し強引に話を終わらせると、学級委員や新役員を帰宅させた。

 そこへ福島先輩がコーヒーカップを差し出してきた。

 「いただきます」

 というと、コーヒーを一口啜って大きく息を吐く。

 「お疲れ様でした。桜田」

 そう言いながら福島先輩は俺の隣りに座ると、コーヒーをゆっくり飲む。

 「福島先輩もお疲れ様でした」

 「はい。でも、本番はこれからですよ」

 「ですよねー」

 夕焼けを見ながら、未来に想いを馳せる。

 これもまたおつなものだ。

 俺はこの時、大西さんのことをすっかり忘れていたのであった……。

 

 

 さて、この時期、我が校では3日間に渡って学力テストがあり、テスト期間中は午前中で学校は終わり、生徒会や部活動もないのだ。

 クラスの奴らは必至にノートを見たり、友達と問題を出し合ったりと、テスト用紙が配られる直前まで悪あがきをしていた。

 俺はというと、ぶっちゃけ答えを知っているので、問題を読まなくても答えを書けるレベルだった。

 昔から天才とか、神童とか言われてきたが、蓋を開けてみれば絶対にバレないチート使いだった、というオチだ。

 じゃあ、本当は馬鹿なのか?

 と、聞かれると、自分から「そうです」とは認めたくはない。

 マガイなりにも俺は何百年も生きてきたんだ。その辺の人よりも知識と経験がある。

 だから、たとえテストの答えを知らなかったとしても、俺は満点を取れる自信はあるのだ。

 ちなみに我が校は、総合得点の上位20名が職員室の前に貼り出される。

 俺は自分がトップであることを確認すると、すぐに教室に引き返す。

 別にわざわざ確認に来なくても、俺がトップである事は揺るぎないのだが、まぁ折角貼り出されるのだから、見ておいても損は無いだろう。

 「ちょっと待って下さい」

 という声と共に、俺は右腕を強く掴まれた。

 なんだ!?と思いながら振り返ると、そこには座敷童が赤いメガネをかけたような女子が立っていた。

 「……あ、あんたは………」

 言葉に詰まったまま固まる俺。

 少しの沈黙の後、彼女の方から切り出した。

 「宮崎です……この前、生徒会の会計に任命されました」

 「ああ、そうそう!みやざき?さん?」

 「どうして疑問形なのか問い詰めたい所ですが、それよりも今は学力テストの結果についてです」

 「は、はぁ……」

 俺は宮崎が何者なのか知らないし、もっと言うなら、この前生徒会室で会ったのが初めてだ。面識も何もない俺に、何の話があると言うのだろう?

 そんな俺の思惑をよそに、宮崎は俺を指差して言った。

 「あなたは毎回テストでトップの成績を収めています。2位とは圧倒的な差をつけての勝利です!」

 それがどうした?俺の中では当然の結果だ。

 「でも、普段のあなたの授業態度や生活態度を見ても、真面目に勉強をしているようには見えません」

 「へ!?」

 何だか今、とても恐ろしいことを言われたような気がするぞ……。ちょっと確認しておこう。

 「ところで宮崎? あんたって何組だっけ?」

 「2組よ」

 うん。俺は1組だから違うクラスだな。

 「………」

 ちょ!……おま!……やっぱりこの女、超怖いヤツなんですけどー!?

 違うクラスなのに、普段から俺を監視してるストーカーみたいなヤツなんですけどー!?

 俺は1メートルほど後ろに飛び退くと、警戒レベルを最大に引き上げて身構える。

 そんな俺の姿をみて、宮崎がつぶやくように口を開く。

 「あなたは、私を何だと思ってるの?」

 「見知らぬ人です……」

 「……」

 宮崎は少し考えこむと「なるほどね……」と呟きながら、おかっぱ頭を掻き上げる。

 「あなたは、毎回2位に甘んじてる私のことなんて眼中に無い!……と言いたい訳ね!?」

 「はぃいい!?」

 うっかり、どこぞの特命課の人みたいな口調で返答する俺。

 確かに2位のやつが誰かなんて、何の興味もなかったのは事実だし、これからも興味は沸かないだろう。

 って言うか、徐々に俺たちの周囲には野次馬が出来始めているんですけど!?

 宮崎は腕組みをすると語り始めた。

 「私が生徒会に入った本当の理由をお教えしましょうか!?」

 「結構です」

 そう言うと、俺はくるりと反転して歩き出す。

 「ちょ……ちょっと待って下さい!お願いです!話を聞いて下さい!」

 俺に引きずられながらお願いしてくる宮崎。最初からそう言えばいいんだ。

 「……で?何ですか?」

 俺はため息交じりに聞いてみる。

 「はい。実は、私はこう見えて今まで勉強ばかりしていました」

 「だろうね」

 見るからにそんなタイプだ。むしろ『こう見えて』とは、彼女は自分自身がどう見えているのかが気になる。いや、気にならない。

 「……中学まではいつも学年トップを取り続け、全国模試でも常にトップ3に入っていました。それなのに、この高校に入ってからは、いわゆる無名の学生に後塵を拝しています」

 ああ、そういう事か……。

 でも、そんなエリート志向の考えだったら、有名付属中学からエスカレーター式に進学できたんじゃないか?

 だが俺は、そんな疑問を口にしようとして直前で止める事にした。

 どんなに勉強が出来たって、学生は『家庭の事情』ってものに少なからず人生を左右される。俺が有名な進学校ではなく、普通の公立高校に入学したのと一緒だ──俺達は無力なのだ。

 『親に金があれば何とでもなるのに………』

 確かにそうだろう。しかし、それは言っても仕方がない事だ。子は親を選べないのだ。

 俺達は、それを理解した上で、自分ができることを一生懸命やるしかないのだ。

 そう言った意味では、この宮崎は自分なりに足掻き、努力してきたんだと思う。

 そして、その前に立ちはだかったのがチート使いの俺だったという───何たる幸薄き女だろうか!?

 もう一度宮崎の顔をよく見ると、唇が薄く、髪を掻き上げた時に見えた耳たぶもほとんど無かった。

 俺は妙に納得すると何度も頷くのだった。

 「……そこで!」

 突然声のボリュームを上げる宮崎。

 なんだよ。ビックリするだろ。まだなんか話していたのか。

 「私はひらめきました。私も生徒会に入って桜田をつけ回し、どうすれば学年トップになれるのか、その秘密を暴こうと考えたのです」

 またもやサラリと恐ろしい事を言ってのけた気がするぞ?

 「いや、別に俺は特別なことはしちゃいない。生徒会に入ってくれるのは有難いが、俺に付きまとうのだけは勘弁してくれ」

 「わかりました。まだこの作戦は始まったばかりなので、先ずは様子見というところで手を打ちましょう」

 「そうか。どうもありがとう」

 「どういたしまして」

 何故か俺は礼を言うと、何故か宮崎もそれを受け入れた。

 とりあえず俺はこの場から解放されると、理由はわからないが、全力疾走で自分の教室に戻るのだった。

 

 

 生徒会役員会議。

 議題は次期生徒会長を決める選挙の話し。

 「いやー俺は本当に嬉しいよ。こんなにも生徒会室が賑わう日が来ようとは……みなさん、本当にありがとう」

 山口会長は会議の冒頭に感謝の気持ちを述べると、早速本題に入る。

 「俺の任期もあと残り僅か。それまでに次の会長を決めなくてはなりません。そこで来週末には、次期会長の自薦他薦を問わず候補者の募集を行います。募集期間は告知から二週間とし、募集締切後の一週間を選挙活動期間とします。最終日には体育館にて全校生徒の前で選挙演説してもらい、その後、投票という流れになります」

 山口は全員を見渡して質問が無い事を確認すると更に続ける。

 「えーと、本来、選挙の時には選挙管理委員会が設置され、そこが選挙の全てを取り仕切るのが一般的です。しかし、うちの高校は伝統的に現職の会長と副会長が、引退前の最後の仕事として選挙管理委員長と副委員長に就任し、自分達の手で新しい会長へバトンタッチするという習わしがあります。ただし、俺達二人だけで選挙を運営することは出来ないため、選挙管理委員のメンバーを別途選出する必要があります。でも、せっかく生徒会にこれだけの人が集まったんだから、生徒会の最初の仕事を選挙運営としてもいいのかなって俺は思うけど、どうですか?」

 つまり、山口さんは、実質的には選挙管理委員会は設置せず、生徒会内で吸収しようって言ってるのか?

 俺が考えていると、座敷童……ゲフンゲフン!……宮崎さんが手を上げて話し始める。

 「本来、選挙期間中に臨時的に組織される選挙管理委員会を、我々生徒会が兼任するのは、選挙管理委員会を設置する本来の目的や校則等に反する事になりませんか?」

 「うーん。難しいことは今の段階ではわからないけど、先生に聞いてOKが出れば問題無いはずだけど?」

 「まぁ、それはそうでしょうけど……」

 宮崎は腑に落ちない様子だ。

 どちらにしても、俺は候補者となる予定なので、選挙期間中は選挙管理委員会の仕事は出来ない。

 山口は笑いながら続ける。

 「まぁ、安心してくれて構わない。今の時代は高校生にも選挙権がある。ひと昔前は20歳以上しか選挙権は無かったので、高校生の時に選挙の疑似体験をさせる、という意味合いもあって選挙管理委員等を設置してどうこうやっていたけど、今は基本的には教職員とPTAがメインで動いている。そもそも選挙管理委員会の設置なんて、何十年も前に制定されたもので、少子化が進んでいる今とは学生一人に対する学業外負担が昔と違いすぎるからね」

 ほう。さすがは生徒会長。まともな事を言う。

 でも、それが頭の固い大人たちに通用するかどうかは別の話しなんだよね。まぁ、候補者の俺には関係ないのだが。

 「……ところで桜田」

 「ん?あ、はい!」

 突然山口会長に話を振られて焦る俺。

 「お前がもし選挙に立候補するのであれば、俺達生徒会兼、選挙管理委員会は、誰一人としてお前のために支援してやれる者はいないからな?」

 「え!?それはどういう……」

 俺は事態を飲み込めない。

 そんな俺を見て秋田副会長が助け舟を出す。

 「あのねぇ。選挙管理委員会は立場上、候補者の支援も出来ないし投票権も無いの。だって、あたし達が一人の候補者だけを特別扱いする訳にはいかないからね。しかも公正を期すために、今から桜田は選挙が終わるまでは生徒会室への立ち入りも禁止することになるから、そこんとこよろー!」

 俺は副委員長の顔を真正面から見て再度訊く。

 「マジっすか?」

 「マジっす」

 秋田副会長も俺の目を見て答えた。

 それを見て山口会長は立ち上がると「では、桜田君。さようなら~!」と手を振りながら退室を促す。

 するとそこにいる全員で「さようなら~桜田君」の大合唱となった。

 ふと見ると、あの大西さんまで楽しそうに合唱に参加していた。

 俺は予期せぬ展開に肩を落としながら、一人寂しく生徒会室を出るのだった……。

 

 俺は駅前の書店で読みたかった雑誌を立ち読みをして、心を落ち着かせてから帰りの電車に乗った。

 すでに陽は落ちて辺りは暗くなっており、吊革につかまりながら窓に反射する自分をぼんやり見ていた。

 やはり違う。

 これまでの高校生活では、選挙を行わずに現会長の指名という形で俺は会長に就任していた。でも、今回は普通に選挙をやるみたいだ。

 正直、初めての生徒会長の選挙なので勝手がわからない。でも、普通の人はそうやって普段から生活しているのだ。

 そろそろ俺も腹をくくって、この状況に立ち向かう必要がある。

 ひとり車窓を流れる景色をぼーっと眺めながら、密かに決意する俺だった。


 その時───。


 「だぁれだぁ!?」

 突然目の前が真っ暗になる。

 それと同時に背中にはやけにボリューム感があり、ほどよい弾力性があるものが押しつけられる。

 こ、このゆるふわ系の口調……そして、この背中の感触……ま、まさか!?

 「やまが………た!!」

 そう言いながら、俺はバッ!と勢いよく振り向くと、そこには銀縁メガネの冴えない男の顔があった。

 「……さ……ん………って、あんた何してんの!?」

 そこには2年の佐賀が、クレーンゲームの景品とおぼしきキャラクター物のビーズクッションを胸の前で抱きかかえて立っていた。

 一応先輩である佐賀に対して『あんた』呼ばわりするのも失礼だったと思うが、その時はマジでイラっとしたのだ。

 「いやぁ、ちょっと近くのゲーセンでクレーンゲームをやってみたら、この『夢幻少女キララン★』のキラランピンクが一発で取れちゃってね……って、ちょっと、桜田くん、どこへ行くんだい?」

 俺は佐賀が何やら話し始めたので、隣りの車輌に移動しようと歩き出したのだ。

 佐賀がピンクのビーズクッションを抱き、変なアクセントと独自のテンポで俺に話しかけながらついてくる。

 「さっくらだくーん、さっくらだくーん、どっこいっくのー!?どっこいっくのー!?さっくら……!」

 「ちょ!佐賀さん!」

 俺は耐えきれずに振り向くと、佐賀を指差して怒鳴った。

 「どうしてついてくるんですか!?何か俺に用事でもあるんですか!?」

 「い、いや……別に、用事は……ないけど……」

 「だったらついてこないで下さい!」

 俺はそう言うと、踵を返して歩き出す。

 その時、ちらっと佐賀を見ると、車輌の連結部分で寂しそうにうつむいていた。

 チッ!

 俺は舌打ちしてそのまま佐賀のもとを離れる。

 どんなに寂しそうにしてても、俺にはどうすることも出来ない。キラランピンクとか生理的に無理だ。それが同じ生徒会の仲間だとしても……!

 そこで俺はハッとして立ち止まる。

 仲間……。

 そうだ。同じ生徒会の仲間だ。俺の呼びかけに応えてくれた数少ない仲間の一人だ。

 俺は小さくため息とつくと振り返る。

 「さっくらだくーん」

 「ヒィ!?」

 そこには銀ぶちメガネの佐賀の顔があり、俺は思わず悲鳴を上げる。

 「お、驚かせないで下さい!佐賀さん!」

 「いや、僕はそんなつもりは無かったんだが……」

 困惑してモジモジする佐賀の姿が、更に不気味さを増幅していた。

 「佐賀さん、先ほどは失礼な態度を取ってすみませんでした」

 俺は頭を下げて謝った。

 「ああ、桜田君。いいんだ!僕は別に!本当に!」

 慌ててキラランピンクを抱えている手を振る佐賀。

 「……ただ、一人寂しく生徒会室を出ていく桜田君を見て、元気を出して欲しいと思って声を掛けたんだけど……ちょっとマズかったみたいだね……」

 そう言うと、頭を掻く佐賀。

 「佐賀さん……」

 俺はこの人なりの優しさに気づいて、自分の心の狭さを痛感した。

 人を見かけで判断して遠ざけようとしていた。

 これから生徒会長に立候補しようとしている者が、こんなことをしてどうするんだ!?

 「佐賀さん、お心遣いありがとうございます。俺はもう大丈夫です!」

 「桜田君……」

 キラランピンクをぎゅっと抱きしめ俺を見つめる佐賀。

 俺は、軽く頭を下げると、そそくさとこの場を離れた。

 早足で別の車輌に移動しながら俺は思った。

 「やっぱ無理なものは無理www!」

 

 

 翌週の金曜日。

 全校生徒に向けて、生徒会長の候補者募集の告知がされた。

 募集期間は今日から二週間後の金曜日。

 ……だが、俺は悩んでいた。

 もちろん会長にはなろうと思う。だが、他に立候補する人がいるのかを見極めたいのだ。

 もしも、候補者がいないのであれば、現会長の推薦で選挙をせずとも俺は会長になれるだろう。しかしその場合、俺が立候補をしていると、募集期間終了後に選挙投票ではなく、信任投票が行われることになる。

 万が一にも、そこで俺が不信任となった場合は、また選挙をやり直すことになる。

 現会長の推薦が取れるのは、あくまでも候補者が誰もいない場合のみなのだ。

 つまり、下手に立候補すると、墓穴を掘る可能性があるということだ。

 しかし、誰かが締切直前に立候補し、俺が立候補するタイミングを逃したら……。

 今日から2週間は油断できない日々が続くだろう。

 

 ……という事で、昼休みと放課後は生徒会室を張り込む生活が始まった。

 来る日も来る日も張り込みをしていた。

 生徒会のやつらはそんな俺の姿を見て笑っていた。

 よくよく考えてみれば、まだ実際には立候補してないのだから、生徒会の活動に参加してもいい気がしてきた。

 だが、こんな生活も明日で終わる。そうだ。明日が募集締め切りの日なのだ。

 俺はもう心身ともに疲れていた。

 まぁ、勝手に張り込みをして勝手に疲れているんだから、誰のせいでもないのだが。

 そこで、俺は大事な事を思い出した。

 「申し込み用紙をもらってない!」

 そうだった。肝心なものをまだ貰ってなかったし、書いてもいなかった。

 提出するのはギリギリでいいとしても、予めこういう物は書いておくべきだった。

 こんなイージーミスをするなんて、いつもの俺らしくない。

 俺は生徒会室へ入ると、カウンターに置いてある申込用紙を持ってくる。

 記入は明日の授業中でいいか。

 ついでにカウンターにいた2年の佐賀に話しかける。

 「佐賀さん。立候補者ですが、まだ誰もいませんよね?」

 すると、銀縁メガネに手を掛けながらこちらを見る佐賀。

 「まあね。立場上詳しい事は言えないが、申込用紙は何枚か持ち出されているから、立候補を考えている人はいるようだね」

 「そうですか……」

 考え込みながらふと会議スペースの方へ目を移すと、そこには岡山と楽しそうに話をしている大西さんの姿があった。

 あの茶髪野郎・・・まだ大西さんに付きまとっていたのか!?

 だが、あの楽しそうに話している姿を見ると、俺が生徒会にいなかった約3週間で、二人の関係は急接近したのだろうか?

 その時、俺は肝心な事に気づいた。

 「高校生活の最優先事項……」

 俺は無意識の内につぶやいていた。

 それを聞いていた佐賀は「僕の最優先事項かい?そうだな……」と、一人で話し始めた。

 俺はそんな佐賀を置き去りにして生徒会室を出ると、再び考え始める。

 そうだ。俺の最優先事項は大西さんの攻略だ。

 大西さんなくして、俺の未来なしだ。

 今までもそうしてきたはずじゃないか。それなのに……いつもと少し状況が違うだけで本質を見失うとは……。

 どれほど長い年月を生きようが、俺は機械じゃない。だからミスもする。所詮、人間なんてそんなものだ。

 明日からはしっかり大西さん攻略に神経を使おう。

 

 翌日、午前中の授業を受けながら、俺は申込用紙を見て驚いた。

 なんと会長に立候補するには、推薦責任者が必要なのだ。

 俺のためにそんな事をしてくれる人なんて、この世にはいない。あまりにも悲しい事実ではあるが、親友と呼べる友達なんていないのだ。

 マズイ! マズすぎる! このままでは立候補することも出来ない。

 俺は一人、授業中に汗だくとなりながらオロオロしていた。

 ダメ元で俺は昼休みに大西さんを捕まえると、聞いてみた。

 「大西さん!俺の推薦責任者になって欲しいんだけど……」

 すると、大西さんは目を伏せて言った。

 「ゴメンなさい。選挙管理委員は協力できないの……桜田も知ってるでしょう?」

 そうだった。切羽詰っていて忘れてた。

 そこへ岡山が姿を現した。

 「大西さん!迎えに来たよ!一緒に生徒会室へ行こうぜ!……って、どうしたの?」

 「ううん。何でもない……行きましょう!」

 大西さんは一瞬、横目で俺をチラ見すると、岡山と一緒に教室を出て行った。

 俺はしばらくの間呆然とその場に立ち尽くした。

 大事なものを失いつつあることを実感し確信したのだ。だが、会長が決まるのはまだ一週間先で、それまでは現状を打破することは難しい。

 そんな抜け殻状態の俺の目の前で、テニスラケットを振りかぶりながら、テニスボールを天井近くまでトスする女の姿が見えた。

 俺は事態を飲み込めずに、ただぼーっとそれを見つめていた。

 白いリストバンドをしたその女生徒は、綺麗なフォームで硬式のテニスボールを打ち抜くと、見事に俺の額に直撃した。

 跳ね返ったボールはバウンドしながら、その女生徒の手前まで戻ってくる。女生徒はそれをひょいとラケットですくい上げる。

 俺はおでこを押さえながら女生徒の前までダッシュする。

 「何すんじゃい!!牡丹!怪我したらどうすんだよっ!?」

 牡丹はラケットでボールをポンポン弾ませながら言う。

 「大丈夫。ちゃんと狙って打ったから」

 「そういう問題じゃないだろっ!?」

 「あんた意外に大きい声出るんじゃない。何か辛気臭かったから元気づけようと思ってさ……」

 「だったらこれからは別の方法で頼むっ!」

 俺はくるりと背を向けると、自分の席へ向かう。

 ───いや、ちょっと待てよ。

 俺は再びダッシュで牡丹の目の前まで行くと、申込用紙を目の前でヒラヒラさせながら言った。

 「頼む。俺の推薦責任者になってくれ!」

 「あん?」

 きょとんとする牡丹を尻目に、一方的にこれまでの事情をマシンガンのように説明する俺。

 その間、牡丹は魂が抜かれたような表情でそれを聞いていた……いや、聞き流していた。

 「……そーゆー訳で、この欄に署名をお願い!」

 俺は用紙を牡丹の目の前でヒラヒラさせたまま頭を下げる。

 牡丹は深く息を吐くと「仕方ないなー」と言いながら用紙を俺から取り上げる。

 「名前を書くだけでいいの?他にやらなきゃいけない事は無いよね?」

 「た、たぶん……」

 あまり自信は無かったが、とりあえず名前を書いてくれない事には始まらない。

 「はい」

 そう言いながら牡丹は自分の名前を書いて俺に用紙を差し出して来た。

 一応、確認してみると、めちゃくちゃ字が綺麗で少し驚いた。

 人は見た目ではわからんものだな。

 顔を上げると、牡丹は右手のラケットは後ろに回し、左手でくせ毛のショートカットの髪を人差し指でくるくるさせながらこちらを見ていた。

 何だよその仕草。可愛いじゃねーか。

 「ああ、問題無い。本当に助かったよ」

 それを聞くと牡丹は後ろを向き「そか。そんじゃね」と言いながら、教室を出て行った。

 俺はフラフラと自分の席に座ると、安堵の息を吐きながら机に伏した。

 後は、19時までに状況を確認しながら提出するだけだ。

 

 放課後、俺はすぐに生徒会室へ向かった。

 カウンターには福島先輩がおり、俺を見て「お疲れさまー」と声をかけてくる。

 俺も「お疲れ様です」と答えると、申込用紙をポケットから取り出す。

 それを見て、福島先輩は黒縁メガネをかけ直しながら聞いてきた。

 「お!?いよいよ候補者として名乗りを上げのですか?」

 「完全に面白がってますね?」

 「そりゃあね。こっちは桜田が2週間も張り込みしていたのを実際に見ていたわけだし」

 「そーですか。それよりも他の候補者ってどうですか?」

 「それはさすがに言えないよ?だって私は副会長ですから」

 無い胸を張る福島先輩。何を威張ってるんだろう?

 だけど、どちらにしても情報は聞き出せないようだ。

 仕方ない。ここは提出しておく方が無難だろう。

 「じゃあ、これお願いします」

 そう言いながら用紙を差し出す俺。

 だが、先輩はきょとんとした顔のまま用紙を受け取ろうとしない。

 「?」

 お互いに見つめ合ったまま、謎の時間が過ぎた。

 福島が首を傾げながら口を開く。

 「推薦責任者は?」

 「え!?」

 俺は焦って用紙を確認するが、ちゃんと牡丹の名前は書いてある。

 福島は呆れ顔で続けた。

 「いやいや、そうじゃなくて。申し込みは推薦責任者が行うんですよ?」

 な、な、なんですとぉおおおーーー!?

 俺は力なく崩れ落ちると片膝をついた。

 「い、意味が分からない。何なんだ?このシステムは?」

 カウンターの陰で見えなくなった俺を、立ち上がって覗き込む福島先輩。

 「だって、推薦責任者ですから。ここに名前がある人は、自分が責任を持って推薦したい、という人のはずです。よってその責任者が申込みをするルールになっています」

 「つ、つまり……」

 福島先輩はカウンターから顔を覗かせながら言った。

 「そうです。桜田本人は申込みが出来ないのです!」

 「はうっ!」

 俺は全身の力が抜けて、床のタイルの隙間に浸透していく気分だった。

 「でも、今日中に推薦責任者が提出できれば問題無いですよ?……この人はテニス部ですよね?だったらすぐに連れてこれるはず……」

 福島先輩が話している途中だったが、俺はすぐに起き上がると全力で外のテニスコートに向った。

 どうも最近、足に筋肉がついてきた気がするのは気のせいだろうか?

 俺はダッシュで女子テニス部が集まるテニスコートに駆け込んだ。

 息をきらせながら牡丹を呼び出す。

 「またあんた?扇谷だったら今日は部活休みだけど?」

 「……」

 そうだった。今日は金曜日、牡丹は部活に出れない日だった。

 このままでは立候補できない。

 とにかく今の俺には、できることをやるしかない。

 俺は教室にカバンを取りに戻り、更にもう一度生徒会室に顔を出す。

 「先輩!必ず戻りますから、それまではここにいて下さい!」

 「ちょ、ちょっと!桜田──」

 福島先輩の返事を聞かずに生徒会室を飛び出すと、急いで靴を履きかえて駅に向かう。

 さすがに普段は運動なんてしていないので、走る事が出来なくなり途中で歩き出す。

 もうかなり日は傾いており、俺の影が細長く伸びている。

 たぶん、今から牡丹を連れて行ったって間に合わないだろう。だが、簡単に諦める訳にはいかない。

 俺は急いで電車に飛び乗ると、牡丹の家を目指した。




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