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第二章 任務

どうも、お馴染みの森川三日改め林晶です。

最近年の離れた妹を持つ兄や娘を持つ父親の気持ちが分かってくるようになりました。

ちょっとしたことですぐ怒り出す、一体なにが気に入らないのか全然分かりません。

構ってあげるとわがまま放題で、取り付く島もありません。

だからといって放って置くともっと酷い、駄々をこねてしつこく絡んできます。

はぁー、これがまた可愛いんですけど、ええもちろんうちの子は世界一かわいいに決まってますけど。

もう少しこう、お兄ちゃん、いやお父さんも捨てがたいですね、とにかく保護者の自分に対してもう少し従順になれませんかね?

同じ悩みを持つ父兄方になにかいいちょ……教育法がないか、聞いてみたいです。

異世界でも知恵袋を導入できればいいのに。



「ふん、知りません、もうあなたのことなんて知りません!」

とことこっと早足で前を歩く少女。

綺麗な色艶をした真っ白な髪を風になびかせ、長い袖もそれに同調してひらひらしている。

そのひらひらが少しばかり激しいのは頂けないね、女の子はもっとお淑やかじゃないと。


「おい鈴、なんでそんなに怒るのよ、ちゃんと遅れるって念話で連絡したんだろ?」

その少女の後ろで放り出される俺。

声が少し遠く感じたせいか、早足だった彼女のスピードが下がった。

「知りません、わたしは了承してません! どうせあなたにとってわたしなんてガラクタ以下、一生ガラクタいじりしてればいいんです! ガラクタと添い遂げればいいんです!」

しかしその歩みは頑として止めない。

追いかけてほしいのか、仕方ないやつだな。


「わかったわかった、俺が悪かったよ、なんでもするから許してよ」

こうなったらもう俺が降りるしかない、いつものことだけど。

しかし少女はその足を止めない。

「その言葉にはもう聞き飽きたのです! 今日だって埋め合わせにわたしの任務を手伝ってくれると言いましたのに、またこんなっ……この嘘吐き! 変態!」

えー。

どうやら伝家の宝刀も、使えすぎると鈍るらしい。

「嘘じゃないって、ちょっとトラブルがあって少し遅れただけじゃないか。今でも全然間に合うよ、ってか変態関係ないから」

「少しじゃないです! わたし二刻も待ちました! あなたなんてもうどうだっていいんです、わたし一人で行ってきます、付いて来ないでください!」


二刻って、俺かなり早い段階で連絡したよな? 一刻ほど遅れるって言ったよな?

それでわざわざ時間前に来て、勝手に待って勝手に怒るとか、意味わかんない。

そして付いて来ないでとか言って、本当に行かないとまた駄々こねるよね、ワカリマス。

「はぁー、なんでこんなんに育っちゃったんだ」

溜息を吐いて、大人しく後ろを付いて行く。


「これは、胡鈴師妹こりんしまいに林晶師弟ではないか、どうしたんだ?」

また面倒なやつに出くわした。

「知りません、あなたのかわいい師弟に聞いてください!」

梁師兄が絡んできたせいで、少女もさすがに足を止めた。

ぷすっと頬を膨らませて顔を横に向く。

か、かわいい!


胡鈴。

もう分かったと思うが、こいつがあの生意気な子狐だ。

修為が上がって化形できるようになって、人形に化けた。

人として生きるとなると、名前がただの鈴のままじゃ少し変だ。

読みは狐と同じという繋がりで、胡という姓を付けてやった。

見た目は期待していた通りの可愛い娘なったが、性格の方はお察しのとおり。

我が玉霊門はもともと女の子が少ないから、全員に可愛がられてる。

だからか、前にも増して我がままになってしまった。


「また師妹を怒らせたのか、君も懲りないね」

梁師兄は苦笑いを浮かべて俺の方に寄ってくる。

「俺だって怒らせたくないよ、でもあいつわがままだから……」

「何を言う、僕は君に対して以外で師妹が怒ってるところ見たことないよ、逆にどうしたらあんないい子を怒らせるのか聞きたいくらい」

「え?」

「ん?」

なんか話が噛み合わないな。

その師妹ってどこのどいつだ? 絶対俺の知ってる鈴じゃない。

え、なに、あの態度って俺にだけか? 俺にだけなのか?

なにその特別扱い? やだちょっと嬉しいかも。


「とにかくしっかり謝るんだぞ、でないとさすがの僕でも君を許せないよ」

梁師兄はわざとらしく表情を硬くして、厳しさを作り出す。

ガラじゃないから無理すんなこの優男。

「分かってるってば」

優男を適当にあしらって、鈴の傍に行く。

「もういいだろ、さっさと任務に向かおうよ、こんなところで時間を無駄にしたらそれこそ本末転倒よ」

そして鈴の手を取り、任務の目的地へ向かう。

「ふん!」

お姫様はまだ怒りが収まらないようだが、しっかりと手を握り返してる。

本当あまのじゃくなんだから。



「ここでいいのか?」

神行しんこうを解除して、鈴に尋ねる。

「はい、金香草きんこうそう堕竜山だりゅうざんの麓に分布していますから、このあたりで採れるはずです」

鈴も俺の隣に止まり、周りの植物の見分けをしている。

機嫌は途中で直ったっぽいけど、手は放してくれない。

ここまでくる間に出くわした妖獣も全部俺まかせで、しかも手は放してくれない。

今じゃもう鈴の方が修為高いのに、なんで俺ばかりにやらせるのよ。

いや、なんでもするって言ったのは俺だけどよ。

それで機嫌直してくれたから、まあ、いいけどさ。


「ってお前まさか手を繋いだまま採取する気じゃないよな?」

見分けが付けたのか歩き出そうとする鈴に引っ張られる、マジで手放す気ないのかこいつ。

「ん???」

頭を傾げてはてなを浮かばせる鈴。

「ん?、じゃねーよ。さすがに不便だろ、放してくれよ」

「なんでもするって言いました」

言ったけどよ、むしろこんなんでいいのか?

まだ子供だからそんなもんか、年齢謎だけど。

……中身の俺より年上なんてことはないよな?


結局手を繋いだまま二人で採取した。

「これだけあればもう十分だろう、早く戻ろうぜ」

金香草を乾坤袋けんこんぶくろの中に納める。

便利だけど、この手の「空間」に関わる霊器れいきはとにかく値が張る。

この乾坤袋はモノの収納しかできないのでまだ安い方だ。

それでも一番小さいサイズで俺のほぼ全財産を搾り取った。

俺煉気修士にしては結構な金持ちだけどな、またなにか金になるモノを考えないと。


「そうですね、暗くなってきましたし、妖獣が活発に……」

「バカおまっ! 言うな、それは言っちゃだめなやつだ!」

「え?」


ゴッゴゴゴオオオオ――

「ほら見ろ! さっそくフラグ回収来たぞ!」

何かがまっすぐこちらの方に向かってくる声が聞こえた。

「ふらぐかいしゅう? なんですかそれ? 林晶あなた時々変なこと言い出しますっ、いえ、時々じゃなくていつもでしたね」

慌てる俺と違って、鈴はまだ散歩気分だ。

「暢気にしてる場合じゃねーよ、さっさと逃げるわよ」

「なんで?」

「なんでってお前、ってうおおおおおお」


バン――

「い、いきなり撃ってきやがった! 避けなかったら死んでたぞ俺」

さっきいた場所がすでに黒こげになった、残り火がまだバチバチしてる。

現れたのは大きいトカゲ、口から火花が漏れ出している。

「火蜥蜴ですか、大きさからしてまだ成年してないようですが、もう火玉を吐けるなんて珍しいですね」

こっ、こいつ! 自分が強いだからって涼しい顔しやがって!

しかも俺にやらせる気満々じゃねーか!

「おい、これはさすがに俺一人じゃ手に負えないぞ、手伝えよ」

「えー、今日は誰かさんのおかげで気分悪いですから動きたくありません」

ふふふっと鈴のような声で笑い出す。

お前、可愛いからって何でも許されると思ってんのか?


「シューーッ」

デコピンしてやるかと思った矢先に、どうやら火蜥蜴の方はもう待ちきれないらしい。

太い舌を弾丸のように伸ばしてくる。

「神行」

ドブッ――

やべぇ、地面を豆腐のように突っ込んだぞおい。

神行術で逃げなかったら俺の方がぺちゃんこだ。


「くそ、文字通り舐めてかかるんじゃねーよこのトカゲ野郎!」

霊力を金気きんきに煉化して、空いた手で印を結ぶ。

「疾っ!」

指先から金色の剣気けんきを撃ち出す。

煉気期で使える術は五行ごぎょうの基本ばかりで、この気剣術は俺が使える術の中で一番殺傷力高い術だ。


ピキンッッ!

剣気はトカゲの背に当たり、外皮で弾かれた。

「無傷かよ、俺お手上げだぞ」

「シューッ!」

即座に反撃してくるトカゲの舌を避ける。

舌での攻撃が無駄だと分かったか、トカゲは大きく息を吸って--

「プハッ!」

大きい火玉を噴いた。


「バカの一つ覚えもしないな、不意打ちでも当たんないのに真正面で当たっ、るわけないだろ」

ひょいと難なくそれを避ける。

とは言え有効打を持たない以上、ジリ貧だ。

「今日はいつもみたいに変なガラクタを持ってないんですか?」

鈴が不思議そうに聞いてくる。

「誰かさんがへそ曲げちゃったから慌てて出てきたんだよ、準備する暇なんてないぞ」

「ふー、そうですか、仕方ありませんね」

なんで嬉しそうなのよ、難しいのかちょろいのかどっちにしろよ。

けどやる気になったみたいだから余計なことは言わないでおこう。


鈴の目が紅く光る。

また大きく息を吸っているトカゲはぴたりと動きを止め、そのまま倒れた。

「ったく、俺みたいな煉気雑魚をいじめて楽しいかよ、最初からこうすればいいのに」

一瞬で決着が付いた。

「たまたま相性がよかっただけです、火蜥蜴の外皮は硬いんですけど、霊識の方はほぼ無防備ですから」

俺があんなに苦労しても傷一つ負わせないのに、こいつはいけしゃあしゃあと。


霊魅術れいまいじゅつ

霊狐の一族に伝わる妖法で、霊識に直接攻撃する幻術の一種だ。

妖霊は人間と違って、血脈より受け継ぐ妖法を使う。

その血でないと使えない術がほとんどだから、修練法も親から子に伝わる。

鈴の血脈はかなり強いらしく、霊魅以外にも狐火こびの術を使う。

妖霊は自然との親和性が高く、人間よりずっと霊識が大きい。

だから修練法も霊識を主軸とする。

系統が違うから修為の分け方も違う、今の鈴は人間の築基の相当する第二段階の散魂さんこん


「これくらい、あなたも頑張って築基に……あっ」

「へいへい、俺だってできればすぐにでも突破したいよ、こればかりはなぁ」

溜息しか出ない。

全身の霊脈はとっくの昔に開通済みで、煉気期の修練は終えた。

でも次の段階である築基に至るためには体内で霊気を蓄積できないといけない。

段階の間に壁があるのは割りと普通の話だ。

修士の大よそ八割は金丹の壁を越えないまま一生を終える。

だが煉気期で壁にぶつかる話はあまり聞かない。

まったくないわけじゃないけどな。

その一人が俺だとは思わなかった。


「ごめんなさい、出過ぎた真似でした」

地雷を踏んだと思った鈴は手に力を入れて、心配そうな目をする。

「いや、いいんだ、もう焦る時期も過ぎたし、修真の道は所詮運が一番、なるようにしかならないさ」

煉気の修行はとても順調だった。

一番上の梁師兄を除き、四十七代弟子の中で二番目に全身の霊脈を開通したのは俺だった。

資質はいい方だと思った、転生モノにはよくあることだから。

だがそこで壁にぶつかり、停滞している間にどんどん周りに追い越されて、最初はすごく焦った。

自分を追い込んで、無理やり霊力を取り込み、暴走して怪我を負った。

周りの人をたくさん悲しませた。

鈴を、泣かせた。

鈴を怒らせるのはしょっちゅうだけど、泣いてるのを見たのは十年前の夜以来だった。


「まあ、別に修為が低くてもいいさ、今は錬器れんきが楽しくてね」

鈴を慰めるためじゃなくて本当の話だ。

修練を諦めた俺は他の道を模索し、錬器に行き着いた。

それまでにも簡単なものをいろいろ作ってみたが、あれから本格的に習い始めた。


錬器。

つまり霊器を錬成することだ。

霊識は妖霊に劣り、肉体も魔族に遠く及ばない人間が先の大戦を勝てた一番の要因、それは霊器だった。

優れた霊器は修士の力を大きく増幅させ、戦闘力は爆発的に跳ね上がる。

品質は下から上の順に九品から一品、そして一品の枠を越える物は仙品とされる。

品質の高い霊器は素材自体貴重だし処理も難しいから、煉気期の俺じゃとても扱えないけど。

でも質の低い素材だって使い方次第でいい物が作れる。


俺の唯一の、転生者としてのアドバンテージ、それは記憶だ。

もちろん、無職ニートだった俺は製造に関する知識など皆無に等しい。

だが実物を知ってるだけでも大違いだ。

発明の一番難しいところは発想。

それまでには全然なかったものを思い付くことなんて、俺にはとてもできない。

だがそんなものがあると知っていれば、再現の可能性が出てくる。

もちろん簡単ではない。

世界自体が違うから、素材や技術もまったく違う。

発想をどうやってこっちの世界で実現させるか、思い付くことをひたすら試す毎日だった。

ほとんど失敗で終わったが、一応成果も出した。

これこそが転生者の俺が歩むべき道かもしれない。


「そうですね、また無理して怪我をするくらいでしたら、変なガラクタいじりをしてた方がずっといいです」

鈴はわざとぶっきらぼうな言い方をしてるけど。

固く握り締めてた手から少し力を緩めた。

「でも次わたしとの約束を反故にしたら、そのガラクタを全部燃やしますから」

「えっ?」

そう言ってにっこりと笑う鈴を見て、俺は冷や汗をそっと拭いた。

というわけで十年飛ばして、十五歳の主人公になりました。

前回子狐だった鈴も美少女になりました、いえい~!

ちなみに妖法の第一段階は前回爺さんが言ってた開霊です。

話にちょこっと出てたけど、天華に存在する知性種は全部で三つ、既出の人間と妖霊、あと魔族です。

正式登場はまだまだ先だけど。

これから玉霊門という門派やそこでの弟子生活書いていきます、新キャラも次回で出てきます。

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