第九話.首都スフェイン3
「どういうことなの? 優亜!」
「いや、だからこれから強力な魔物や魔王と戦うんだ。あんな一体の魔物をはめ技で殺したって何にもならないだろ。だから正攻法で戦おうと思ったんだけど、現に俺は二回も殺されちまったし、それに騎士隊の人たちは本当に何人も死んでる。勝利と言えないような卑怯な手でも、あいつを倒すしかないって思ったってことだよ」
そう。これから闘っていくにあたって自分の限界を確かめる必要があったのだ。
まさか、穴に落として酸素欠乏症でドラゴンを殺すなんて、早々実践でやれる機会はないだろう。それにこう言った方法は相手が生命体だから行えることであって、神クラスの相手には間違いなく効果がない。魔王がいかほどの存在かわからないがハメ手が通用する相手ではないだろう。
とはいえ、とにもかくにも優亜はドラゴンを倒したのだ。騎士隊にひかれ、街中を凱旋しているというわけである。
勇者万歳、などと言う声も聞こえてくる。そんな様子を見て馬車の隣に座る大勇者様は……。
「ふん。私のおかげで勝てたようなものを」
とかのたまっているのである。
「いや勇者様方。あなたがたのおかげで助かった。ぜひとも王に謁見してもらいたい」
というわけである。
「あのねえ。勇者様はこの私、ジェリエルなのよ。わかってんの!」
と、大勇者様は騎士隊長に食って掛かる。
「しかし、ジェリエル様はその、このたびの災厄で何の役にも」
そう言うと、ドンっとジェリエルは壁を殴りつける。
「いえ。あははは」
などと騎士隊長は笑ってごまかす。
やはり彼女はこの国では相当のつわもののようだ。ドラゴンには一撃で負けたためその実力は今のところ分からないが。とはいえ一撃でと言うことに関しては優亜も不死の神を卸してなければ二度殺されているわけで、単純戦闘では優亜より強いのかもしれない。少なくても騎士隊含めドラゴンの一撃をまともに受けて、ぴんぴんしているのは彼女だけだ。他の者たちは運よく致命傷を避けた者でも病院に運ばれている。
「それで、自己紹介と行こうじゃないか。可憐なるお嬢様」
と、イケメンバカ王子はジェリエルに手を伸ばす。
「ぼくはシーク・レザー。こう見えて皇太子を……」
「うるさいっ!」
が、一括される。
「わたしは弱い男に興味はない」
「な、が」
いいぞいいぞ。もっと言ってやれー。とは言わずにごほんっと優亜はせきを吐く。
「まあ、バカのことはほっておくとして、おれたちは異世界から召喚されてこの世界に来たんだ」
「ふーん。異世界からきた住人は女神の祝福を得るって話ね。でも女神の祝福って実際そこまで万能なものじゃない。私も祝福を受ける者だから、私と能力的には同じだと思うんだけど、でもドラゴンには勝てなかった」
「俺も卑怯な手で勝っただけだよ」
とはいえ、レベルと言う概念がこの世界にはある。今回の戦闘で優亜のレベルは78。すべてを魔力に振り、現在魔力は1000を超える。これだけあればドラゴンに、正々堂々勝てるかもしれない。
「君のレベルは一体なんなんだ?」
「あのドラゴンを倒した時に25レベル。今は78レベルになったみたいだ」
「たったの25だって? ちょ、きみのステータスを見せろ」
そう言ってジェリエルは優亜の胸に手を当てる。
「ちょ、あなた私の優亜に何やってんの!」
「なにって、ステータスを見せてもらうんだよ。胸に手を当てる以外に相手のステータスを図るすべがないだろ?」
と、どうやら胸に手を当てるとステータスが分かるらしい。
「な、驚異的な数値ではあるが、魔力以外の数値がひどいな。あえて一極に強化を集中させているのか?」
「ああ。良かったら君のステータスも見せてくれ」
そう言って優亜はジェリエルの胸に手を伸ばすが。
「だめーーーーーーーーーーっ!」
といきなり沙菜に手を掴まれる。
「な、なんだよ」
「優亜最低バカ変態エッチ!」
なんていわれようだ。
「わたしが見るから。そして優亜に教えるから。それでいいでしょ」
と言うわけで沙菜がジェリエルの胸元に手を当てる。
レベル:230
HP:2320
MP:300
力:345
魔力:243
素早さ:318
耐魔:153
対物:252
運の良さ:51
カリスマ:54
と言うことらしい。やはり圧倒的に高い。単純な数値で言えば今の優亜以上だろう。
「ちなみに、私の胸ならいつでも触っていいんだからね」
と、頬を赤らめながら沙菜が言っているが、まあどうでもいい。だいたい触るほどない。
「レベル230か……」
「驚いたかい? 通常人間のレベルの限界は100。神の祝福を受ける私のような大勇者はその限界を突破しているんだ。ちなみにレベル100の限界を突破しているのはこの国では私以外に二人だけ。世界でも10人といない。まあ、きみたち異世界の住民も女神の祝福を受けているから、100レベルの壁は存在しないと思うけどね」
ということらしい。
「君は勇者と言うことだけど、魔王を倒すつもりなのか?」
「もちろん。私はそのために産まれてきたのだ。この世界ははっきり言っていびつだ。人間は虐げられ当然の平和すら享受できない。魔王であり、エルフどももしかりだ。私はそのすべてを殺すつもりだ」
そう言って自らの拳に手を落とす。
と、そのころになると馬車は城門の前までたどり着く。町の中央。王宮である。
巨大な城の中に通されると、王の間へととおされる。
「よくいらした勇者殿」
そう言われ優亜は敬礼する。ちなみに仲間たちと言えば。
「フフ。なんて美しい、神は君と出会うために僕をここに呼んだのだろう」
「い、いけませんわ」
とかやってるし。
「うぁああ。みてみてみて高そうなシャンデリア。うあー。このカーペットもすごいいい生地。お金のにおいがするよぉおお」
というわけである。
「ふむ。そして、ジェリエルも、久しぶりだな」
「パパ、久しぶり」
「パパ!?」
「落胤だから王位継承権はないけれど」
どうやら彼女は大勇者様にして王族だったらしい。
「して、騎士隊長アルノルトから聞いたが、そなたらは異世界から来たというのはまことか?」
「ええ」
優亜がそれにうなずく。すると城内の兵士たちがざわざわと声を上げる。
「そうか」
そして王は大きくため息をつく。
「……また国に混乱が起こるのか」
とそう言ったのである。
「どういうことですか?」
「パパ。お言葉だけどこの人は今までの異世界人とは次元が違うよ」
と、王の言葉に少しいらいらしたようにジェリエルが言う。
「ジェリエルと協力してドラゴンを倒したと聞くが……」
「いや、私じゃなくて。この人が一人で倒したんだよ」
「なにっ!?」
と、その言葉で王は玉座から立ち上がる。
「まさかあのレベルの魔物を一人で、だと? 騎士団の全戦力を上げても倒せるかと言うバケモノだぞ。史上で討伐経験は一体しかおらん。ってきりわしはジェリエルがまた強くなったのかと」
「いや、私も強くなってるけどさ。私は一撃でのされちゃったよ。というわけで、この人がこの国を守ってくれた勇者ってわけ」
「そ。バカな……しかし異世界からの使者は、その。そこまで期待できない人材と言うかたしかに一般兵よりは強いが」
「今までやはり何人もの異世界人がこの世界に召喚されてきたんですね?」
「ふむ。最初は我々も期待していた。しかし確かに腕はたつし、騎士団に入隊すればそれなりの地位には至るだろうが、間違っても魔王を討伐などと」
「ですがその認識ももう終わりでしょう」
そうだった。今まではおそらく無作為に異世界から人間が選ばれていたのだ。だが、今回は違う。
地球上最強の100人が、この世界に来たのである。
「ねえねえ。あの金ぴかの像、いくらくらいかなぁ……本物の金だったりして。はあはあ」
「フフ。みたまえ優亜、この城のメイドは美人ぞろいだ」
まあ、こういうやつらもいるが……。
「今回召喚された100人は俺たちの世界で最強のメンバー」
それは間違いなく確かだ。
「俺はあっちの世界では何度か世界を救っています」
これは多少こいているが……例えばカルト教団をそのままにしておけば大量の人間が死んだことは間違いない。世界が大混乱になるような事件を未然に防いだのは事実だ。
「なるほど。たしかそなたらの世界の住民はこの世界に来た時に能力が上昇すると聞く。現世でいたときにすでに英雄だとしたなら、それがこの世界の理でさらに上昇したとするのなら、ドラゴンを一人で屠ったのも納得か」
とはいえドラゴンについては正攻法で勝ったわけではないが。
「とにかく我が国の危機は君たちによって救われた。功績をたたえなければな」
「まさかこんな旅の者たちに」
と王が立ち上がると大臣があたふたと止める。
「はっ! しゃ、れ、い!!」
といきなり沙菜が声を張り上げる。
「い、いえ。大したことなどしておりませんわ。まあ私たちがいなかったらきっとあのドラゴンに壁は壊され町は壊滅していたでしょうけど、ええ、でも大したことなんて本当してません。その功績を考えれば、ほんとう謝礼なんて些少でかまいません。ええ、もちろんわかっているとは思いますが」
「沙菜。恥ずかしいから少し黙ろうな」
「そなたら三人に勇者の称号を与えよう!」
と、王は持っていた杖を掲げてそう言ったのだ。
それで兵士たちやジェリエルはおおと驚いたように声を張り上げる。
「異世界人に『勇者』が博されるなんて異例のことだよ。おめでとう!」
とジェリエルはそう言って優亜の手を振ってくる。
「え? 終わり?」
きょとんと沙菜が首をかしげる。
終わりである。