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第八話.首都スフェイン2

「トキオカシ」

 優亜がそう言った瞬間、ドラゴンの体が硬直する。時空をつかさどる神だ。ドラゴンの時間を一時だが奪う。それは刹那に満たない時間だがそれでも良い。


 顕現した聖剣、草薙の剣を振るう。瞬間、水柱が上がりドラゴンの体を押し流す。が、滝のように襲うそれに対してドラゴンは身をよじるだけで一切行動が止まらない。


 が、全身が濡れたその体が、緑色に光る。


「木々よ」

 その瞬間、無数の草木がドラゴンの体から生えわたる。それらは伸びわたり交じり合うと大木となし、根を地面まで張り、ドラゴンの体を封じる。


 だが、ドラゴンが動こうとすると根がビキリと音を立てる。長くは持たない。

 が、違う。


 優亜は空に腕を掲げる。


「鳴り響け、雷鳴」

 天高く生えわたった大木に向かって雷が落ちる。


「ぐるおっぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 怒号。だが、崩れない。


 しかし、攻撃の手を弱めない。

 何度も何度も、世界がゆがむほどに落雷を落とし続ける。


 そのたびに木々は燃え砕けるが、その瞬間にも次の木々が生えわたっていく。


「るごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 が、その状態でドラゴンは羽ばたくと体を縛っていた木々を粉砕してその爪を優亜に向かって伸ばす。


 ま、ずい。が、優亜の行動の限界スピードを超える速度でドラゴンは襲う。


「優……」

 優亜の体を、その爪が貫通する。


「優亜?」

 ぼろ雑巾のようにその華奢な体がえぐれとぶ。


 いくら神を卸し身体能力を強化しているとはいえ、そのものは一般人以下のそれ。ドラゴンの攻撃を防ぎようもないのである。


「……が」

 むろん、その傷は致命傷だった。


「優亜あああああああああああああああああああああああああああっ!」


 だが、次の瞬間にも優亜はドラゴンの顔、目の前まで現れていた。

 そしてそのまま剣を振り下ろす。ドラゴンの右目に向かって。


「ぐるおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 叫び声と同時ドラゴンは暴れ、滞空する優亜の体も腕が当たり吹き飛ぶ。


「ぐ……」

 そのまま背中から地面に落ち地面が真っ赤に染まる。もちろんこれも、致命傷だろう。体が、動かない。


「優亜!」

 そんなに優亜にいつの間にか馬車から出てきていた沙菜が駆け寄ってくる。


「優亜、優亜!」

「大丈夫だ……」

 実際のところ大丈夫ではなかったが、一応は大丈夫。


 生きている。


 そう言いながらも優亜はゆらりと起き上がる。


 とはいえ明らかな致命傷を二度も受けてしまっている。


「ツクヨミ。不死をつかさどる神だ」

 その神の力。つまり一時的に優亜は作り出したのだ。いわゆる『賢者の石』という現象を。


 だから魔力さえあげておけば、基本的に戦闘での死の危険性は大幅に減る。だが、常に神を卸しておくわけにはいかないので平時の事故死を防ぐためにもHPを底上げしておいたのだ。常時『賢者の石』なフランチェスカと違って、優亜は隙を突かれれば一瞬で死ぬ。


「とはいえ、限界に近いな」

 6000あまりのMPがすでに半分以下に減っている。まさかこの短時間で二度も消されるとは思わなかった。しかも、スサノオで身体能力を大幅に強化しているうえで、一撃も持たない。


 結論から言おう。無謀すぎる。



「勝てないかもしれない」

 優亜の心の中に今、初めて、恐怖が芽生え始めていた。


 この世界に来て、実はどうにかなると感じていたのだ。高校一年生の時暴れまわった経験と言うのもあるが、そのころですら圧倒的な死の恐怖を感じることはそれほどなかった。

 月詠をおろしておけばいざとなれば致命傷を負っても何とかなるという状況でもあったし、それ以上に、それほどピンチになることがなかったのだ。

 死を恐怖したのは人生でただ一度サタン戦くらいか。あの時は確かにギリギリの状態だった。とはいえ、勝てた。勝てたが……。


 結論から言えば状況はその時よりも最悪。

 あの時いた頼りになる仲間が今はない。


「フフ。ずいぶんピンチの用ですが、私が来たからにはもう安心です」

 その瞬間、どこからか声が聞こえた。透き通る、少女の声。


「フ、ラン……」

 壁の上、そのヘリだった。


「大勇者ジェリエル、見参っ!」

「誰――――――――――――っ!」

 と優亜が思わず突っ込むが、虫の息だった兵士たちがワイワイと沸き立つ。


「勇者様だ」

「勇者様が現れたぞ!」

「もう安心だ!!」

 とのことである。


 と言うか自分から『大』勇者とかいうなよ。


「御苦労かけたな旅の方」

 と、壁から飛び降りた大勇者ジェリエル様が優亜にそう言う。


「あなたは?」


「神の祝福を受けし者。つまり、勇者だ。世界一の英雄、大勇者ジェリエルとはわたしのこと」

 と、白銀の鎧を身にまとい、大剣を振るう少女は言う。


 たしかに地球上で優亜やフランチェスカがいたように、この世界にも測りを超えたつわものがいてもおかしくはないが。

 なんか口数の多い奴は弱いというテンプレートが。


「フフ。なにかな? もしかして私の実力を心配しているのか? 私のレベルは230を超える。巷では世界を救う唯一の可能性などともてはやされていてね。むろん人間の現状は今劣勢に立たされている。女神つかわす異界の使者も魔王に勝てなかった今、人間に立ち向かうすべなどないのだろうと。だが、暗黒の時代は私によって終わりを告げられ……」


「いいから戦うならさっさと戦えよ!」

 そうなのである。この瞬間にも後ろでは兵士たちがドラゴンに蹂躙されているのだ。


「な、なんてこと。く。ドラゴンめ」

 さっさと向かっていれば五人は救えたぞ。


「ドラゴンよ。この攻撃を受けてみよ。絶対奥義、秘剣バーニングエクストリ……ぎゃああああああああああああああああああああああああああ」

 と、技名すら言い終わる間もなくドラゴンに薙ぎ払われた勇者様は壁にぺちっと叩きつけられ、そのまま地面に落ちたのである。


「……なんなのあの人」

 ぽかんとしながら沙菜は言う。

「さあ」


 だが、勇者と言うのはおそらく本当。相当のつわものであるというのも本当だろう。ドラゴンの一撃を受けても死んでいない。


 立ち上がることはできないようだが、ぴくぴくと上下運動をしている。


「優亜、逃げよう」

 ぐいと裾を引っ張りながら沙菜は言う。


 たしかにかなり数は減っているとはいえ騎士団の人間はまだいる。彼らが注意を引いている間に逃げ出すことできるかもしれない。

 だけど、おそらくこの都市は滅びる。


 あの大勇者が一撃でやられたことからもわかるとおり、国内にいる騎士団全員で立ち向かったところで、ドラゴンが倒せるとは思えない。だとしたら……。


「いくら知らないとはいえ国一つ滅びるのをそのまま見過ごせるほど、おれの心は頑丈にできちゃいない」

 結局、そう言うことに首を突っ込みたくなる性分なのである。


 沙菜の制止を振り切ると、優亜はまたドラゴンに向かう。


「奴には勝てない。ここで魔物一体に勝てないようじゃ先が思いやられる。勝ちたいとは思う。だけど、それはあきらめる」


 だが、それでも。手段なんて選んでいられない。このままじゃ大勢が死ぬのだ。


 だからどんな手を使っても、かりにそれが勝利と呼べるようなものでないとしても、刺し違えてでもドラゴンは、殺さなければならない。


「優亜、だめっ!」


「ごめん、沙菜。だけど、お前だけは絶対に死なせない」

 やるしかない。


「全員、どけ!」

 優亜はドラゴンに向かって走ると同時、地面に手を当てる。


「イザナギ!」

 日本を創造した神の力を使役する。その力は大地とのリンク。

 ビキビキと地面に亀裂が生じていく。


「堕ちろぉおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 優亜が怒鳴り声をあげると同時、地割れは大きく広がり、ドラゴンは地面の割れ目へと消える。


「今だ。カグチ」

 瞬間、優亜は穴に向かって右手を掲げる。その瞬間、紅蓮の業火が移出されると穴に吸い込まれたドラゴンに向かう。


「ぐるぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 地面ごと焼き尽くすほどの熱量の炎だ。


 MPが尽き果てるまで、燃やし尽くす!


「優亜、でもそいつには」


「ああ。おれの炎じゃこいつにダメージは与えられない。こんなのはただの足止めだろう。数分もせず、おれのMPはつきちまう……」

 だが、それでもやるしかないのだ。みんなを守るために。


「優亜、いったい、いったい何をするつもりなの!?」

 だが、優亜は答えない。ただまっすぐ、燃え盛る炎を見る。そして。



『レベルがあがりました。→78』


 脳内に浮かんだその言葉でどっと安どのため息をつくのだった。


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