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第三話.サタザ村1

「っ!」

 優亜が目を覚ますと、そこは森の中だった。体にあたる風が心地よい。それ以外には一切喧騒が存在していない。大自然の中にあった。


「な……」

 つまり、誰もいないのである。


「くそ。全員同じ場所に移動するんじゃないのか?」

 ということは全員ばらばらの場所に飛ばされて?

 しかも神の言うことにはこの世界には魔物だのがいるらしい。と、なると。


「慶子が危ない!」

「なんでわたしじゃないのっ!!」

 と、いきなりドンっと抱きつかれる。


「って、うわ。沙菜!」


「起きたら誰もいなくなってて、優亜が一緒でよかった!」

 ……そう言えば運の良さのパラメータが他のメンツよりも良かったっけ。だから再会できたのかもしれない。


「そうだな。よかった。沙菜のこと心配してなかったわけじゃないんだ。幼馴染だしな」

 そう。実際、慶子は皇室の血を引くこともあり、術者としてある程度の力を持っている。ある程度この世界でも生き残りの可能性は高いだろう。対して沙菜は全く一般人だ。


 巻き込まれ系と言っていたが、優亜の近くにいたから一緒に巻き込まれて召喚、された、とか?

 とにかく彼女はなんの力も持たない。


 色々と鬱陶しいし財産目当てとは言え、彼女は優亜にとって大切な幼馴染なのだ。


 金に目がくらんでいたということを差し引いても、優亜に救いの手を差し伸べてくれたこともある。

 ……いや、あったか?


「もう。まあ、わたしは寛大だから少しくらい他の女の子に目がいっても起こらないけどさ。婚約者なんだから大切にしてよ」


「……いつ婚約したよ」

「4歳の時!」


 どうやら優亜の人生は四歳の時にすでに積んでいたようである。


 そういえば彼女の家に遊びに行った時のご両親の視線とかに何となく違和感をずっと覚えていたのだっけ。最初に感じたのは7歳くらいの時。と、なればすべてが仕組まれていたのかもしれない。遊びに行くたびにトイレやお風呂のニアミスだったりハプニングで密着とかが多かったのは偶然ではないのだろう。


「まあ。それよりほかにも周りに誰かいるかもしれない。探そう」

 そう優亜が言って森に入ろうとすると、ぐいと手を引かれる。


「どうした?」


「探すって誰を?」

「誰って……だからみんなを」


「慶子って女を?」

「いや。まあ、慶子のことは探さないとだろ、どう考えても」


 優亜の家系はいわゆる神社神道で、国家神道に代表される天皇を奉る系統の宗派ではない。とはいえ、まあ皇家の人間は死なせないようにしようとするのは当然だろう。

 圧倒的に殺してはいけない人間の筆頭。国民なら多少はそう思ってしかるべき。もちろん自分の知り合いや友人たちを差し置いて救いたいかと言えばそういうわけではないが、それでも知らない他人よりは皇族を選ぶ。それは沙菜も同じだと思うのだが。


 まあそれでいて、優亜にとっては慶子は幼少の時からの付き合いだし、大切な友達だ。最近はいろいろと公務とかが忙しいようでやり取りしてないが、誕生日にラインを送りあう程度の仲ではある。

 優先順位的には一層高い。何にもまして、彼女だけは絶対に日本に還さなければならない。


「わたしよりあのおっぱいのほうが好きなんだね」

「好きとか嫌いとかじゃなくてさ。彼女は皇族で」


「もういいよ。じゃあ一人で勝手に探せば」

 そう言ってプイっとそっぽを向いた沙菜は一人で森の中に入っていく。


「おい。バカ、一人で行動するな。危ないぞ。何が起こるか……」

 と、その時である。遠くから地響きのような音がしたのである。


「なん、だ?」

 と、同じく、悲鳴のようなものも聞こえる。


 近づいてくる。


「沙菜、おれの後ろに」

「守ってくれるの? うれしい」


「……お前っていつでも緊張感ないよな。実際一歩間違えれば死ぬと思うんだけど。いや、取り乱したりしないのはありがたいんだけどさ」

「だって優亜も落ち着いてるし」


「それは……まあ、おれの場合いろいろありすぎて」

 実は優亜は高校一年生の時、いろいろとやらかした。


 フランチェスカとともに、サタンの再召喚を狙う悪魔主義者たちを撃退したり、皇族の殲滅を計画していた左系魔術組織を慶子とともにぶっつぶしたり、世界中の人間を強制下落させようとたくらむカルト的仏教集団をひまりと一緒にやっつけたりなど、まあいろいろ大冒険を繰り広げてきたのだ。


 まあ、世界を救うなんて大それたことではないかもしれないけれど、それでも多くの命を救うような功績を優亜は地球でのこしてきた。


 そんなわけで超常的な状況にはある程度耐性があるのだ。さすがに異世界に召喚されたのは初めてだったけれど。


 とはいえ、だ。とはいえ、優亜はあっちの世界でいわゆる超常能力者と戦うに当たって、史上最強の術者などと言われて久しい。正直言って、あっちの世界で敵と言えば現教皇クラスくらいしかいないのではないだろうか。名ばかりの王家などにはおそらく苦戦すらしないだろう。


 そういうわけで、実は少しわくわくしていた。あの神、まったく太刀打ちができなかった。やはり神々の世界は全く常軌を逸している。あの神が言う魔王とやらがどれほどの存在なのかわからないが、試したいという気持ちがあるのも事実なのだ。


「た、助けてくれーーーーーーーーーーーっ」

 現れたのは見覚えのある少年だった。


「って、よりによってこいつか」

 バカ王子レザー様である。

 

 その後ろである。木々を薙ぎ払いながら現れたのは体長5メートルは超えようという巨大なイノシシだった。


「き、きみは日本の玉依だったか? 魔物が現れた! あいつ、化け物じみて強い」


 そう言ってレザーは息を切らしながら叫ぶ。レザーと言えば世界のプリンスたちの中でも飛びぬけてプレイボーイでなおかつバカとして有名だ。


 彼の国は、一夫多妻制で兄弟が大量にいて、彼は継承権7位。と言うわけで国家の重要な案件を担うでもなく適当にいろんな国に留学してぶらぶらと女の子と遊んで暮らしている王子様なのだ。

 とはいえ、それでも腐っても王子様だ。


 慶子のステータスを思い出してもらえばわかると思うが、沙菜よりもある程度高かっただろう。王と言うのはそれだけで特別な才能も必要なく霊的な力が備わるものなのだ。だからレザーも適当な異能者なんかよりは全然強いはずなのだ。


 それが手も足も出ないという状況。あのイノシシは相当に強いということ。


「ああ、そしてきみはぼくのアルテミス。この世界の中で君にまた会えて僕はなんて幸運なんだろう」

 という危機的状況にもかかわらずこのバカ王子はこれである。


「黙れ。いけにえに差し出すぞ」

 と、ふざけている場合ではない。


 とにかく目の前のバケモノを殺さなきゃならない。


「あいつ、でかい図体のくせにめちゃくちゃ速いぞ」


「だろうな」

 とにかくやるしかない。


 優亜は軽く息を吐くと、イノシシに向かって走る。


 イノシシは叫び声をあげながら優亜に向かって突進する。

 速い。優亜の認識できるスピードの限界に近い速度。こんなのがごろごろいる世界、か。


 だが、思い出せっ!


「……っ!」

 地面を蹴り跳躍、イノシシの頭上を遥かに飛び越す。


 ある。この手に宿る力はこの世界でも健在。


 日本史上最強の術者と呼ばれた力が。


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