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第二話.召喚の間2

「上や!」

 ひまりが叫ぶ。頭上だった。10歳ほどの少女が降臨する。もちろん人間じゃない。感じる圧倒的霊力がそれを如実に物語っていた。


「く。フランチェスカ、ひまり」


「わかっとる!」

「はい」


 上位の存在だ。人間以上の。あるいは奉られ、あるいは畏れられる。


 神、である。



(あま)(かみ)(くに)(かみ)八百万神等(やほよろづのかみたち)(とも)に、祓戸(はらへど)大神等(おほかみたち)、諸々禍事(もろもろまがこと)罪穢(つみけがれ)(はら)(たま)(きよ)(たま)ふ!」


行深般若波羅蜜多時(ぎょうじんはんにゃはらみつたじ) 度一切苦厄(どいっさいくやく) (しゃ)利子(りし) 色不異空(しきふいくう) 空不異色(くうふいしき) 色即是空(しきそくぜくう)


「天に召します我らが父よ。み名が尊まれますように。み国が来ますように。み心が天で行われるように、地にも行われますように。私たちの日ごとの糧を今日もお与えください」


 それぞれが詠唱する。現世、悪しき存在を浄化するための『詛』。


 神道史上最強の術者。ヤマトタケルの再来と言われし玉依優亜。

 仏教は最大宗派浄土真宗の最強術者、清月ひまり。

 教皇庁に聖人指定される、フランチェスカ・アルベルト・カッペラーニ。


 それぞれ宗派は違うが、その代表する宗派の中で最強の一人には数えられる三人だ。神秘を扱う宗教者としては、世界でも10本の指に入ろう。


 が、その存在はそこに依然として降臨していた。


 三人の行動に他の術者たちも続く。

 が、少女は、微動だにしなかった。


『こんにちは私は神様です』

 そう言ったのである。


『皆様には異世界の危機を救っていただきます』


「ほらねほらね。私の言ったとおりでしょ」


「……っく」

 祈るようにして優亜は沙菜を見つめる。頼むから黙ってくれ、と。


 状況が理解できないのかっ!


「サタンにも匹敵する」

 フランチェスカは戦々恐々とつぶやく。


 サタンの降臨。教皇庁が全精力を上げて数か月かけてそれでも高天原に還すのがやっとだったという存在。第一級、悪魔サタン。それにも匹敵すると。


 だが、優亜は肌で感じていた。史上に現れたことのある災厄の比ではない、と。サタンレベルではないっ!


 目の前の少女は児戯の範疇で自分たち全員を、いや。

 ……世界を壊せるっ!


 サタンは領域で言えばおそらく日本で言うところのアマテラスやスサノオと同等レベルだろう。だが、目の前の存在は違う。その比ではない。


 創造者に近い概念なのかもしれない。


「概念的にはあんたんとこの唯一神に近いかもしれないな」

「バ、バカなことを言わないでください」


 神にも位がある。当然自身の信じる神を卑下するのは心持面白くないが現実だ。


 地球と言う世界はヤハウェが作った。


 キリスト教やアブラハム系ではヤハウェを唯一神としているがこれは間違いでも正解でもない。事実上、ヤハウェに匹敵する神は唯一無二だ。日本やその他の地域が信仰している神は、いわゆるヤハウェよりは位が下の神になる。当然人間とはかけ離れた遥かな上位存在であることは変わりないとはいえ、ヤハウェとの間には乖離がある。まあアブラハム系ではそれらの存在はすべて「悪魔」と呼称するが概念は一緒だ。


 だが、地球を作るという概念においてヤハウェが唯一神なのであって、高天原、つまり神々の世界においてはどうなのかはわからない。神々の世界もヤハウェが作ったのかと言えば、きっとそうではないのだと思う。だとすれば、ヤハウェクラスのバケモノが上位世界にはごろごろしているのかもしれない。と、なれば自由に世界も作れるだろう。


 世界が無数に存在していたとして、何の疑問もない。


『みなさま落ち着いてください。異世界の人々は今絶滅の危機に瀕しているのです。それを皆様が救うのです。魔王を殺し世界を救ってください。そのために、地球から有能な若者100名を集めました』


「ほらほらね! ほら、優亜聞いてる? わたしの言った通り。ねえねえ。今どんな気持ち? 今どんな気持ち?」

「……」


「ちょっと、あなた、少し静かにしたらどうですか? あの存在に、優亜君が負けたら、私たちに立ち向かう手だてはないんですよ」

 と、慶子が言う。


「なに、きみ? きみも優亜の友達? でも残念でしたー。わたしは優亜の許嫁なの。婚約者なの」

「な!?」


「あれ。もしかしてショックうけてる? わかった、あなたも優亜のこと好きなんだ?」

「ななななになに言ってるんですか! 好きじゃないです! いや。あ、好きじゃなくはないけど、じゃなくて、って、だからそう言うことを言ってるんじゃなくて」


「ごめん、慶子」

 ぼそりと、優亜はつぶやく。


「え? ごめんって、そんな。じゃあ、やっぱりその人が優亜君の大切な……」

「あいつには勝てない。従うしかなさそうだ」


「あ。そっち!」

「え? そっちって?」


「なんでもないですっ!」

 そう。優亜にはもはや手立てはない。ここにいる全員が手を合わせても、あれには勝てないだろう。


「っていうかさ、これから、わたしたちは地球にいたときにはありえなかった圧倒的な力を得て異世界に召還されるんだよ! ねえ、神様」


『話がわかる方がいてよかったです。そのとおりなのです。皆様、ステータスと頭で念じてください』


 ステータス? 唱えると、頭の中に数字が浮かび上がってくる。


 名前:ユーア・タマヨリ

 歳:17歳

 職業:巫覡

 レベル:1

 HP:82/82

 MP:6882/6956

 力:11

 魔力:358

 速さ:21

 対魔:221

 対物:31

 運のよさ:29

 カリスマ:122


『それがあなたたちの地球にいたときの能力を数値化したものです』

 ということらしい。何のつもりかわからないが、とにかく今はこの神様に従うしかない。


「わー数値出てきた! えっと、


 サナ・コーヤ

 歳:17歳

 職業:学生

 レベル:1

 HP:116/116

 MP:10/10

 力:16

 魔力:4

 速さ:27

 対魔:5

 対物:15

 運のよさ:45

 カリスマ:12


 だって。なんかさ、低い気がするんだけど。普通異世界チートって力とかが百万とかいってたりさ、すんじゃないの?」


 と首をかしげている。


「ちなみに優亜はどうだった?」

 と言われるので出た数値を教えてやると……。


「はあ? MP6956って何!! 意味わかんない」


「まあ、妥当でしょう。ユウアはもとより無限の霊力などと言われていましたからね」


「フランチェスカは?」


「アタシは…


 名前:フランチェスカ・アルベルト・カッペラーニ

 歳:17歳

 職業:エクソシスト

 レベル:1

 HP:23450/23450

 MP:1482/1556

 力:10

 魔力:191

 速さ:29

 対魔:470

 対物:28

 運のよさ:23

 カリスマ:124」


「ちょっと、おっぱいちゃん、HP高すぎじゃない?」

「おっぱいちゃん!?」


「で、そっちの黒髪おっぱいは!?」

「く、黒髪おっぱいってもしかして私のことですか?」

 とか慶子に絡みに行く。一応日本の王女様なんだけどな。


 そんなわけで慶子もフランチェスカほどではないものの、常人の感覚で言えば不必要なほどに大きい胸を所有しているのだ。


「わたしは……


 名前:ケイコ・コウウノミヤ

 歳:18歳

 職業:王妃

 レベル:1

 HP:162/162

 MP:120/120

 力:29

 魔力:71

 速さ:23

 対魔:60

 対物:19

 運のよさ:33

 カリスマ:324」


「ぷふー。対して高くない」

「それでもお前よりは高いけどな」


「なんだ。おっぱいがでかいだけじゃん。うりうり」

 とか言っていきなり慶子に襲い掛かる。


「あ、やめ、やめてくださいー」

「ふふふ。弱いくせにわたしの優亜に近づいた罰だよ」


「な。やめ、やめ。やめてぇえええええええええっ!」

 と、慶子は思いっきり沙菜を蹴飛ばす。


「ぎゃあああああああああっ」

 そうするとぶっ飛んだ沙菜はごろごろと地面を転がる。


「あ。ごめんなさい。わたし、ずっと護身用に武術やってたから」


「HPが、HPが44/116になっちゃったよぉお」

 よろよろと沙菜は立ち上がりながら言う。


「これ、ゼロになったらどうなるの」

『死にます』


「ゆうああああああああっ!」

「もういいからじっとしてろよ」


 慶子の力は29。沙菜の力は16だから、10少し違うだけでこれだけ圧倒的な力の差が生まれるのか。とはいえ慶子は当然身を守るためのすべとしてずっと格闘技をやっていたのだからこのくらいになってもおかしくはないだろう。立場上武術の大会などには出ていないが出ればいい線まではいくんじゃないかと言うのをきいたこともある。


『みなさんステータスを確認できましたか? さらに私から皆様にボーナスポイントです。魔力ステータスを100プラスします』

 と、その瞬間、魔力が体を駆け巡っていくのを感じる。ステータスを確認すると確かに魔力が上昇していた。


『地球では、大体熟練の術者と言われる人たちで魔力100ですから、これで皆さんは地球に帰っても英雄ですね』


 と、100で術者として一人前らしい。まあ、優亜もフランチェスカも『熟練の』とかってレベルではないからそれも納得か。


 ちなみにひまりのステータスは、


 名前:ヒマリ・コサカ

 歳:16歳

 職業:僧

 レベル:1               

 HP:143/143

 MP:1282/1320

 力:21

 魔力:228

 速さ:24

 対魔:253

 対物:29

 運のよさ:32

 カリスマ:105


 らしい。



『さらにレベルを10プレゼントします。レベルが1上がるごとにステータスポイントが10もらえます。それぞれ各パラメーターに振り分けることができます。HPとMPは1ポイントで10ステータスが上がります。レベルはモンスターや魔人を倒すと上がりますよ!』


 と言うわけでボーナスポイントを受け取れる。もうここまで来たら認めざるを得ない。要するにこの神は遊んでいるのだ。


 地球の要人を連れてきて、異世界に連れて行って遊ぼうというのだ。


 しかし従うしかない。元より彼女に勝てるすべなど、優亜たちは持ち合わせていないのだから。


 そう言うわけでステータスを振り分ける。


 名前:ユーア・タマヨリ

 歳:17歳

 職業:巫覡

 レベル:1

 HP:1082/1082

 MP:6882/6956

 力:11

 魔力:458

 速さ:21

 対魔:221

 対物:31

 運のよさ:29

 カリスマ:122


 HPに極振りする。さきほどの慶子とのじゃれあいを見ててもわかるように、力が10違うだけであれだけのダメージを負ったのだ。HPの総量を増やさなければすぐにでも死ぬだろう。

 自信がないわけではなかったが、事故死は避けたい。


「沙菜、闘うことになっても俺やフランチェスカが前線に立つ。お前はなるべく生き残れるようにHPか対物なんかにポイントを……」

 と優亜は言う。どうせ沙菜のことだから力に振りまくって勇者様だ、とかやりそうだからだ。


「カリスマに全ふりしたけど」

 しかし返答は優亜の想像の斜め下だった。


「なんでだよっ! だいたいカリスマってなんだよ」

「ちっちっち。わかってないな。優亜は。異世界チートはね、一見使えなさそうなパラメーターにこそ鍵があるのだよ。カリスマだよ、カリスマ! 優亜ももうわたしに頭上がらないでしょ?」


「……いや、全然。つうかまだおれの方が高いし」

「~~! 優亜のバカっ!」

 と、いきなり思いっきり蹴られる、が。


「! 痛くないぞ!」

 HPに極振りしたおかげで優亜のHPは今までの100倍以上になっているのだ。どうやらこのレベルと言う概念、冗談じゃなくてまったく本気らしい。


 つまりどういうことか。


 目の前の存在は世界の物理法則に干渉しうる力を持っている、と言うことだ。



『ではみなさん、異世界に旅立ってください!』


 その瞬間、視界が真っ白におおわれる。 


 名前:ユーア・タマヨリ

 歳:17歳

 職業:巫覡

 レベル:1

 HP:1082

 MP:6956

 力:11

 魔力:458

 速さ:21

 対魔:221

 対物:31

 運のよさ:29

 カリスマ:122

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