第五話
二学期終了日、全校生徒と教師に交換留学の件が告知された。内々に決められていた生徒数人と引率として中河が行くこと、代わりに姉妹校から留学生が数人と一人の外国人教師が赴任することが校長の口から知らされた。
式が終わり、中河は交換留学の件を黙っていたことを担任するクラス生徒に謝罪した。三学期は副担任が担任の代理になる。
「一年半、姉妹校で教鞭を振るうことになりました。君たちを一年間担任できなかったことを悔しく思う。そして、急なことで戸惑わせてしまって申し訳ない」
ざわめくクラス。中河は体をほぼ直角に折り曲げ、教卓につくぐらい頭を下げた。
しばらくざわめいたあと、一人の男子生徒が立ち上がった。
「先生が帰ってくるころ、俺たちは三年生ですよ!もう会えないってわけじゃないです。安心していってきてください!」
男子生徒の言葉にクラスはワッと沸き上がり、拍手が巻き起こった。
「せんせー!お土産期待してまーす!」
「中河先生!がんばって!」
「あー、先生泣いてるー!」
「鬼教師の目にも涙!」
生徒たちからの温かい声に中河は涙が止まらなかった。目頭を押さえながらすまないと言い、担任代理となる副担任へバトンタッチした。
ホームルーム終了後、中河は職員室に戻って引継ぎなどを行っていると、学級委員の男子生徒と女子生徒の二人が職員室に入ってきた。二人は、真新しいノートを中河に差し出した。
「中河先生、急ごしらえですみません」
「私たち…クラスのみんなで書いた寄せ書きです。飛行機の中で読んでください」
中河はしっかりとノートを受けとる。
「ありがとう。今までの人生の中で最高の贈り物だ」
「もう先生、大げさすぎ!」
「俺のクラスの子たちは何て優しい子たちだ。こんな幸せな気持ちになれてうれしいよ。皆にはちゃんとお土産を買ってこないとな。何が良いんだ?」
「大丈夫です、先生。ちゃんとノートの終わりに書いてありますから!」
後ろのページだけ開くと、そこにはクラスの生徒の名前とそれぞれが希望する土産物がリストになっていた。
「まったく!ちゃっかりものばかりだな」
「「へへへ」」
中河は一言若葉に挨拶しようと理科準備室を訪れたが、施錠されており、人の気配もなかった。仕方がないと校門に向かうと、若葉と三鷹小夜の姿が見えた。今日も一緒に下校するのかと中河が遠くから見る。しかし、二人は一緒に下校することなく、三鷹が残念そうな顔で一人下校していった。中河に気づいた若葉は、ポケットに片手を突っ込んだまま中河の方へ駆けよってきた。
「よ、中ちゃん!俺に何も言わずに行くなんて水臭いじゃないの」
「ひさ…若葉先生、校内だ。それにいいのか、一緒に下校するんじゃなかったのか?」
「今日は絶対に中河先生と一緒に帰ろうと思っていたから、いいの。ちょっと迷ったけどね」
今も若葉はポケットの中のオイルライターを握りしめていることを何となく中河は理解した。
「壮行会もしないなんて校長先生も冷たいよ」
「…急な発表だったからな」
「…いつから決まってた?」
「たしか、初夏だったな」
料理部の堀之内が部活を無断欠席したことについて指導した日のことを思い出す。あれから堀之内は、部活を無断欠席することは決してなかった。
「じゃあ、俺が壮行会を開くよ。何がいい?海鮮?水炊き?もつ?豆腐?」
「鍋しか選択肢ないのか!?」
「いいじゃん、人事異動の時はいつも鍋だったんだからさ」
「それもそうだったな。…材料はお前持ちだろ?なら、海鮮にしよう。カニとかいいな」
「カニ!?」
「イセエビでもいいぞ」
「そんなに懐温かくないってば!」
結局、若葉の懐と相談し、鮭とタラの海鮮鍋に落ち着いた。
翌日、中河は数人の生徒とともに海外へ旅立った。




