幼少期 第三
こんにちわ^^
タタタタと子気味の良い駆け足でゼンとテツは家まで直行した。
「ただいま~」
「こんにちわ~」
家の間取りは簡素な二部屋だけだったので余計に彼らの声は響き、そして談笑していたカレンとミチの視線にとまりやすかった。
「あ、ゼン、テツ!!」
カレンはゼンとテツを見て、驚いた表情を見せてミチの背中に隠れた。
ミチはカレンを守る守護獣のごとく彼ら二人を睨視する。
「へぇ~、謝りに来たの?」
ゼンとテツはその視線にうへ~と嫌な感じを受けてカレンの方へと向く。
「あ、うん。カレンごめんな~」
「ごめんね。」
幼馴染みの謝りに幼いカレンは嬉しそうな顔になる。
「しょうがないわね~、ゆるしてあげなくもないこともないわよ。」
「あ、そう。」
心底どうでもいいと適当な返事をするゼン。
「ありがとう、カレン。」
幼い頭の打算づくで律儀に返事をするテツ。
許されたものの各々に全くの反省が見えないんは明白だ。
この二人はどこからどう見たって悪ガキ。
姉としてそんな弟を許すわけもなく、ミチが更に勢いをつける。
「こら、ゼン!もっと男だったらもっと甲斐性見せなさい!!」
こなったらメンドクサイが、これは既に織り込み済み。
「うわ~、めんどい。」
「さて、カレンは調りゃくした、後は鬼ばばのみだね。」
コソコソと話し合っていた二人だが意を決したようでゼンがミチの前へと出る。
「まかせろ、一度いったことはさいごまでやるよ!!」
「な、なにゼン、何か文句でもあるの?」
勢い込んで前に出たゼンに少し怖気づいたようすのミチだがそれでも姉としての強者としての余裕で強めの声で壁のように彼に立ち塞がる。
「心配かけてごめんにゃさい。」
「か...!?そんなこと言っても騙されません!!」
ゼンの衝撃的なニャンニャン語で再起不能へと陥りそうになるがなんとか理性を保つ。
だが、若干ながら顔が赤く上気して、口元が緩んでしまってはもうどうしようもない。
「にゃんで?」
抱き付きたい!!
この生物に抱き付きたいという根源的な欲求を歯を食いしばってミチは耐えた。
「く~!!!?」
息切れをし顔を俯かせるミチを見て、テツはすかさずαプランをゼンに出す。
ゼンはそれを見て一瞬驚愕の表情をするが、慌てて顔を引き締め頷く。
やるなら、今!!
二人の思考はともに同じだった。
テツはミチへと敢えて近づき覗き込むように上目づかいで瞳をウルウルさせる。
「だ、め?」
パリン!!
何かが決壊した。
「騙されてもいい!!!」
ミチは目の前の可愛い生物に抱き付く。
「ありがとにゃ。」
ゼンはそれを快く受け入れ、テツへと視線を向けサムズアップ!!
計画通り!!
「でへへへへ!!」
骨なしになったミチなどただの案山子。
早くこの場を逃げることが大切だ。
それを思い、ある程度経ってからゼンはミチの背中をポンポン叩いてお願いする。
「はなしてくれにゃ。」
これで終了。
やっと解放されるぜいとニッコリとゼンはミチに微笑む。
だが、現実は甘くなかった。
「でへへ、だ~~め。」
ぬお!!
未だ抱き付く、ミチに未曾有のピンチを今更ながらに感じたゼンは必死で逃げもがく。
「...はなせ、はなすんだ!!」
「でへへへへ!!」
こやつ、なんて馬鹿力!!
ゼンは親友に助けを求めた。
「た、たすけてくれ、テツ!!」
だが、親友もミチには危機感を覚えているのか近づこうとしない。
そして、サムズアップ。
「ゼンに幸あれ!!」
「うをぉい!!!」
見捨てる気かこの野郎!!
「ゼン、きみのぶんまで僕は...がんばる!!」
背後からの禍々しいオーラをテツは敏感に感じていた。
テツはクルリと彼の方へと向かい立つ。
「で、テツ君?君は何を頑張るのかな?」
「あ、ゼンのお母さんこんにちわ~」
ゼンの母シノブ、手弱女特に美人と言うわけではないが振る舞いからくる上品さが女性としてとてもお手本になる女性だ。
そんな彼女に禍々しいという言葉は似合わないはずだが...
「こんにちわ、テツ君。全く、私の子供たちは...ちょっと待っててテツ君。」
「あ、はい。」
穏やかな笑顔を見せテツへ挨拶し終え、次の句を言わさない。
テツはクッと苦い顔をして二人を憐れむ。
「でへへへへ!!」
「ぬををををおおお!!」
「二人とも静かに。」
「「....」」
凛....、と風が凪ぐように二人がピタッと動きを止めた。
(さすがだ~)
二人はシノブにそっと何かを言われると二人仲良く正座する。
「で、テツ君?私の夫から剣術を受けるって聞いたけど大丈夫なの?」
幼いテツには最早目の前の怪物をゼンの母親だとは思えなかった。
ここで彼女にとって気に食わない回答をすれば殺される。
テツの直感がそう告げる。
「はい~!!ぜんぜんダイジョウブです、むしろサイコウです!!」
テツは元気よく答えて、相手の反応を窺う。
シノブは呆れた表情で殊更心配げになりながらテツと同じ目線まで腰を下して話す。
「はぁ~、まぁいいわ。体には気を付けてね、テツ君?分かった?」
「はい!!」
テツはピョンと背筋を伸ばして声を震わす。
「ゼン。」
「うひょ!?」
彼の荒神から声がかかりゼンはビクッとのけぞりながら気の抜けた声を出す。
だが、ゼンの反骨精神としては自身のその弱気さは腹立たしかった。
「貴方が気を付けてやりなさい。」
強者であるから戦うんじゃない、弱者・挑戦者であるから戦うんだ!!
「分かってるよ、ババア!!」
テツは要らんこと言いやがったと怒り、そして憧憬する。
ボクではできないことをやってのける、その強さに少々憧れた。
だが、今はヤバイ。コイツマジヤバイ。
ゼン自身が禁句としていってはいけない、と言ったワースト3の一つを言ってしまった。
「なんですって!」
シノブの背中から先程より凶悪な荒神が現れる。
ドドドドッドッドッドドドドッドドドドド!!
圧倒的な・・・チカラ!!
逆らう者は皆平等に塵に等しく消えて逝く・・・・
そんな恐れを抱いてゼンはテツの手を引いてこの場から離脱する。
「にげるぞ、テツ!!」
「う、うん!!!!」
子供にしては素早い動きで風のように玄関まで猛ダッシュする。
幸いにして近い位置にいた為逃げられる!!そう確信した。
あと少し、少しだ!!
だが、忽然として希望の光は大きな影に遮られる。
「ただいま~、うおっと!!」
ゼンとテツにぶつかる形で、ゼンの父親たるカクマルが呑気な様子で帰ってきた。
だが、二人はまだ諦めていない、即座にカクマルを通り抜けて外へと出ていく!
呆然とするカクマルにシノブは叱咤する。
「カク!!その子たちを捕まえなさい!!」
「りょ、了解です!!」
尻に敷かれる亭主は従順に子供たちを追いつめる。
流石は、武士の一員と呼ばれるほどだ、だがそれは二人にとって絶望だった。
「「うわあああ!!」」
いとも容易く捕まった二人は必死にカクマルの腕から逃れようとするがカクマルの鍛え抜かれた両腕はがっしりとしておりビクともしなかった。
「観念せい......」
家に近づくごとに強まってくる鬼神の気配にさしものカクマルも二人に同情の念を抱いたのかブルってる二人に諭すようにそう声を掛けるが、聞こえていないようだった。
そして、鬼神がいた。
腕を組みながら微笑みながら鬼神様は、簀巻きにされた二人に判決を下そうとする。
「さて、覚悟は」
プルプル・・・・