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分身の術

 六月十七日の土曜参観にはいつになく多くの保護者がいらしていた。一時間目、我がクラスでは算数を行った。その後、場所を体育館に移して、秋人のプレゼンが行われた。


 僕は秋人の誘導を担当していたため、児童の整列をさっさと済ませた。静かに待つように伝えてから、急いで職員室に向かった。すると、そこにはリカルアの白い民族衣装でばっちり決めている秋人の姿があった。


「それでつかみはOKだね。間違いなく子ども達の注目の的じゃないけ?」


「一応、穂高の分もあるけど、お前もこれを着たら?」


「そりゃ、面白いだろうけど、そんなことしたら、どっちがどっちだか分からなくなるから…」


「確かにそうだな…」


 双子の兄弟が二人して白い民族衣装で突然現れたら、周りの人はどっちが秋人で、どっちが僕なのかきっと分からなくなる。この前の打ち合わせのときだって、「顔と声だけでは本当に見分けがつかない…」と言われたほどである。変なことをやって、後から学年主任から注意されるのだけは避けたい。


 僕の誘導でやってくる秋人を見て、それだけで子ども達は笑っていた。口々に「多良木先生が二人いる」とか「うわっ、分身でもしたんじゃないの?」などと言っているのが聞こえる。


 スーツを着ている人と民族衣装を着ている人の顔が同じことがよほど衝撃的なのかもしれない。保護者席からも失笑が少し漏れるほどだ。そのせいで荒尾先生と浦川先生は児童を注意するタイミングを逃してしまった。


 僕が弟について、簡単な紹介をした後、秋人が前に出て「こんにちは」と挨拶した。すると、開口一番で


「多良木先生の分身です。時々、先生の代わりに学校に来ていたことを知っていましたか?」


…なんて言うものだから、しばらく子ども達は真に受けていた。大人は思わず吹き出している。


「…と言うのは冗談です。さっき、説明があったように、私は多良木先生の双子の弟の秋人です。双子だから、顔や声が似ていると言うよりも同じなんですね。でも、それ以外は全く違いますよ。今から、私がリカルア共和国で体験したことや学んだことを皆さんに分かりやすくお話ししたいと思います。それではよろしくお願いします」


 体育館の端から子ども達を見る。ほぼ全員が秋人にキラキラした視線を送っている。こんなに上手に子ども達の心をつかむなんて本当にすごい。


 大人達もさっきまで隣の人とひそひそ話をしていたと言うのに…。ほとんどの人が黙って聞いている。荒尾先生も浦川先生も口々に


「話し上手だな…。それで特上のネタを持っている。もう、商売上がったりだな…」

なんて呟くほどだ。


 これまで何度も秋人と協力隊の話をしてきたが、写真や資料を見ながら話を聞くのは初めてだったのでとても新鮮だった。秋人はパソコンのパワーポイントを使いながら、臨場感あふれるプレゼンをしていた。


 まるで体育館ごとリカルアに連れて行かれたような気分…。この説得力こそ、秋人の周りの人を引きつけ、秋人の強固な人脈を築き上げる源泉になっていることにようやく気付かされた。この説得力をどうにかして身につけたいな…。

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