逆カルチャーショック
秋人曰く、それは「逆カルチャーショック」と呼ばれる現象らしい。協力隊員はそれぞれの派遣国で最大限の力を発揮するために、現地の人々と寝食を共にする。
そのため、二年の間にそれぞれの国の生活に完全に適応するらしい。すると、二年後、日本に戻ってきた際にあらゆる違和感や不適応感を感じるらしい。例えば、自動改札口でモタモタしてしまうとか、お店でのサービスをとても過剰に感じてしまうなどである。
秋人は帰ってきてすぐの頃、赤外線通信のやり取りを見て、きょとんとしていた。それがおかしくて思わず笑ってしまった。
彼の場合、協力隊に行く前はまだ赤外線通信がなくて、番号交換の際にはお互いに番号やメアドを教え合っていた。それが突然、赤外線通信の時代へ飛んだのだから、そりゃ戸惑うに決まっている。
何も知らない人にとって、赤外線通信は携帯電話の背中同士を合わせる謎の行為にしか見えない…と秋人は反論した。
また、携帯電話がまだ普及する前に派遣された人が、二年後に帰国すると、みんなが下を向きながらメールを打っている姿を見て、気味が悪かったと話していた…と秋人がその時に教えてくれた。
そう考えると二年という期間は思った以上にいろんなことが変わるようだ。もし、秋人が協力隊に行っていなかったら、気付きもしなかった視点である。
秋人は僕にやたらとAKB48の質問をしてくる。二年前はまだメジャーでなかったAKB…。それが今ではテレビに出ない日はない。
秋人にとっては、突然現れたアイドルグループで誰が誰だか全く分からない状態である。週刊少年ジャンプや週刊少年マガジンなども二年間の間に話が進んでしまって、全く分からないらしい…。
そのため、勉強の合間にしばしばマンガ喫茶やブックオフなどで、空白の二年間を埋める作業を進めている。まあ、それは三年前にルルトポの日本人学校から帰ってきた時もやっていたことであるが…。
以前、うっかりワンピースの山場の話をしたら「まだ読んでないのにオチを言うな!」とぶん殴られそうになったこともある。海外で生活すると言うことは、その間の日本での経験が空白になると言うことでもある。これも秋人がいたからこそ、気付けたことである。