出前講座の準備(2)
帰りの車の中で、ぼんやりと教職教養のおさらいをする。二週間前と違って、勉強が再びはかどるようになった。立野香と大畑正元の問題がようやく落ち着いて、学級も落ち着いてきた。
三角美弥は毎年のことながら、この時期は静かになる。彼女なりの「教採頑張れ!」と言う無言のメッセージだ。秋人は協力隊から帰ってきた直後からずっと
「機会があれば、ぜひ出前講座がやりたい」
と言っていた。家に着いたら、秋人に学年会での決定事項をすぐに伝えよう。
家に着くと、一気に二回へ駆け上がり、自分の部屋を通り過ぎた。そして、奥の突き当たりにある秋人の部屋のドアを何度か叩いて、返事を待たずにドアを開けた。
「秋人、勉強はかどっているか?」
「穂高、ノックぐらいしろよ…」
「ノックならちゃんとやったぜ。お前がヘッドホンをつけているから、聞こえなかっただけだろう?」
僕がそう言うと彼はヘッドホンを取った。秋人は中学校の頃から家で勉強をするときは、ヘッドホンをつけてから勉強する癖がある。僕にはよく分からないが、そうしないと自分の世界に入り込んで、勉強ができないらしい。
「帰ってくるなり、俺の部屋にやってくるなんて、どんな風の吹き回しだよ?」
そこで僕はこの日の学年会での決定事項を手短に伝えた。秋人の表情が明らかに明るくなるのが分かった。
「穂高、それ、マジかよ。実にありがたい話だ。早速、推進員の唐辰さんに連絡しておかないと…。で、具体的な日程とかは?」
「それはこれから秋人の都合を聞いた上で決めると、学年主任の荒尾先生がおっしゃっていたよ」
「穂高、帰ってるの? 二人ともご飯よ。降りていらっしゃい」
一階のリビングから母の声が聞こえてきた。珍しく夕食ができる前に帰って来られたので、それもまたうれしかった。
普段はよく遅くなるので、冷めたご飯を暖め直して一人で食べることが多い。それでもご飯が出るだけでもありがたい。三年間、実家を離れたたことで、改めて実家のありがたみを感じる。
毎日、何も言わずにご飯を作ってくれる母には本当に感謝するようになった。それは大学からずっと親元を離れていた秋人はさらに強く感じているようだ。
さらに協力隊から帰ってきてからしばらくは母の手料理を食べただけで、感動のあまり涙をポロポロと流していたほどである。それを見て、思わず海外ではよほどまずいものを食わされてきたんだろうな…と、思わず同情したほどである。