出前講座の準備(1)
「多良木先生、双子の弟さんの出前講座を三年部で頼もうと考えているんだけど…。総合的な学習の一環で…」
「ほう、それはいいですね。荒尾先生、今進めている『世界の国々を知ろう』のテーマに実にふさわしい。多良木君、よろしく頼みますよ」
浦川先生が荒尾先生の提案に賛同した。浦川先生は五十過ぎの男性教員だ。校長や教頭などの管理職になるよりも現場が楽しいと公言する現場一筋の先生である。
そのような教員にありがちな怠慢傾向もなく、研修なども熱心にこなされるので頭が下がる。
「弟に聞いてみないと分かりませんが、多分引き受けてくれると思います」
「それはよかった。じゃあ、総合の件は解決ですね。他に何もなければ、今週の学年会は終わりにしますけど…」
学年主任の荒尾先生がそう言うと、浦川先生と僕は頷いた。それが合図となって、主任の「お疲れ様でした」のかけ声と共に解散となった。毎週水曜日の放課後はそれぞれの担任が学年ごとに集まって、学年会が行われる。
毎週月曜日は職員会議と職員研修が交互に入る。毎月第二・四金曜は指導部会と学習部会の会議が入る。指導部会とは学年主任会、生徒指導部会、保健指導部会のことで各学年の教員が一人ずつ割り振られる。
三年部はそれぞれ、主任会が荒尾先生、生徒指導が浦川先生、保健が僕となっている。学習部会も体育部会、総合・学芸部会、教科部会に分かれている。これもさっきと同じように上から順に荒尾先生、浦川先生、僕がそれぞれ受け持つ。
もちろん、この公務分掌は全学年3クラスの竹小学校の場合であり、学校によって公務分掌のあり方は全く異なる。だが、学校組織を維持するために、いくつもの会議や研修をしなければならないのは共通している。
話が少しそれてしまったが、先生の仕事は子ども達に勉強を教えるだけではないのである。子どもに関する事務や会計はもちろんのこと、学校の施設管理や組織管理、校外学習や外部講師を呼ぶ手続きなど、…実に様々なことをさばかないといけない。
世の中でイメージされている先生像は、教員の仕事のほんの一部分に過ぎないのである。