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双子のさし飲み(3)

「確かに大きかった。それまで、もうしばらく海外でやりたいと思っていたのに、それが全く無くなったもん」


「……」


 僕は何も言えない。ただ頷きながら、嫌な沈黙を埋める。それを見て、秋人は遠慮がちに話を続ける。


「やっぱり、死に目に立ち会えなかったからね…。うまく言えないけど、一番大切なモノをずいぶんないがしろにしてしまったな…と考えるようになってさ…」


「そんなことないって…。ばあちゃんだって、それぐらい分かっているから…」


 僕は秋人を慰めるように言葉をかける。こんなことを言っても、秋人には気休めにならないと分かっていながら…。他に適切な言葉が見つからないから仕方ない。


「それに、もう五年も海外でやってきて、上には上がいるんだな…と痛感させられたりしたし…。案外、海外の第一線でやるよりも、これまでの経験を教育現場で生かす方が向いているかも…なんて考えたりもしたな…」


「そうか…」


 急に秋人が話題を変える。僕は変なことを言わなければよかったと思った。しかし、話の流れ自体は自然だったので、秋人の話したいように話してもらおう。


「自分一人が海外に行くより、学校で国際援助の現場へ行く人を一人でも多く育てた方が、貢献できると確信したら、もう鹿児島に戻るしかないでしょう!」


 ここでようやく全てがつながった。なるほど、やっぱりそうだったか…。一方でなんて奴だと思った。上には上がいるだって? そんなのどこの世界も同じだ。大物に出会って、おめおめと泣いて戻って来たとも受け取れる。


 一方で、日本にいたら想像できないような苦労や苦痛も味わって来たことだろう。肉親の死に立ち会えない苦痛は僕には考えることもできない。


 そう考えれば、鹿児島から一度も出たこともない僕があれこれ言えるはずもない。やはり、余計なことを言わなければよかった。


 また、秋人も日本を離れた五年間や、鹿児島を離れた十年間をあれこれ言ってはならないだろう。そもそも、秋人はその辺の分別はしっかりしているので、僕にそのようなことを言ったことは一度もない。


 それにしてもこんな素敵な話を肴にお酒が飲めるとは…。実に幸せなことであった。それぞれが毎日を一生懸命生きているからこそ、語れる言葉がある。僕はそう思わずにはいられなかった。

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