双子のさし飲み(2)
「いやいや、秋人だって、ルルトポとかリカルアとか、海外に五年も行っていたから、海外に知り合いがいるだろう? また、そこで出会った人が日本各地にいて、この前も協力隊の同期が鹿児島に遊びに来ていただろう。それこそ、俺にはないものだぞ…」
穂高にはよく分からない世界だが、協力隊から戻ってくると積立金とやらがあるらしい。それで帰って来てから、慌てて就職活動せずにしばらくはのんびりと旅行をしながら人生の夏休みとやらを謳歌する人もいるとのこと。
「まあ、分かってはいるんだけどね…。海外に出れば、海外にいる間の日本のことが空白になる。ずっと、地元にいれば、外の世界は見ることはできない。両方を手には入れられないから、常にどっちを選ぶかの選択をしないといけない。たまたま、穂高はずっと地元にいることを、俺は外に出ることを選んだだけのことなんだけどね…」
秋人がビールを飲みながら、しみじみと語る。僕はそんなことを考えたこともなかった。ほとんどの人は常に選択を迫られていることに気付きもしていないだろう。
秋人のように海外に出るなど、凡人が経験しないようなことを経験した人のみが、気付くことなのかもしれない。
しばらく、僕らはこの手の話で盛り上がった。先輩が作る料理はどれもおいしくて、お酒も進んだ。いつしか、ビールから焼酎のお湯割に飲み物が変わっていた。
「今だから言えることだけど、実は学生時代に付き合っていた人がいてさ、智子って言うんだけど…。大学を卒業して、すぐにルルトポの日本人学校で働くことになって、別れてしまったんだよね…。どうにかして、続けたかったけど、無理だった。ヨーロッパと日本はあまりにも遠すぎた…。それに新しい環境でやっていくために、それどころじゃなかったし…」
「じゃあ、もし行かなかったら、今さら結婚していたかもね…」
言った後、しまったと思った。結婚が決まっている人がそんなことを言ったら、ただの嫌味にしか聞こえない。酒のせいで自制心が効かなくなっている。気をつけないと…。
「いや、無理だったと思う。智子は東京の人だったし、いつも東京から離れたくないと言っていたから、俺があっちで就職しない限りはダメだったはず…。それにこう見えても、いつかは鹿児島に戻りたいと思っていたからね…」
またしても、驚かされた。高校卒業してすぐ鹿児島を離れた秋人にも、そのような地元志向があったとは…。
まあ、帰って来てすぐに教採合格を決められると、なかなか説得力ある。ある意味、さっきの意向返しとも受けとれた。これでおあいこか?
「そうは言うけど、今までそんなこと、一言も言わなかったじゃない? やっぱり、ばあちゃんの死の影響が大きかったんじゃないの?」




