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臨時教員の宿命

 新年度に入って、また勤務校が変わった。臨時採用でありながら、毎年雇ってもらえるだけでもありがたいのかもしれない。だが、毎年学校が変わるので、毎年五月ぐらいまでは慣れるのに精一杯となる。


 今年は運がいいことに竹小学校で働けることになったので、通勤が楽になった。実家から通えるので、今までよりは勉強に専念できるだろう。高校卒業から十年も鹿児島から離れていた弟に負ける訳にはいかない。


 秋人とは中学まではいつも一緒だった。双子と言うこともあり、いつも比べられるのが嫌だった。高校では秋人が甲北へ行ったため、初めて弟と離れることができてうれしかった。甲北と新鹿児島で比べられることはあったけど、僕は全く気にならなかった。


 秋人は高校時代に協力隊経験者の講演を聞いたことをきっかけに、国際協力や国際援助に興味を持つようになった。その後、現役で早稲田大学の国際教養学部へ進み、そこで小学校の教職免許も取る。


 それから、大学卒業後すぐにルルトポ王国の日本人学校小学部の現地採用教員として、三年間働いた。さらに青年海外協力隊員として、リカルア共和国の現地の小学校で二年間勤めた。そして、今に至る。


 新しい勤務校では三年生の担任になった。この五年間で最初の三年間は理科専科、その後は三年生の担任、四年生の担任とやってきた。今回は二回目の三年生の担任と言うこともあり、二年前を振り返りながら日々の仕事を進める。過去に一回でも担任した事のある学年は過去の教材研究や経験が生かせるので助かる。


 ただし、目の前の子ども達にとっては、人生で一度きりの小学三年生である。一人一人の個性が混ざり合ったクラスの色は毎年異なる。


「穂高は毎年頑張っているのにね…。今年こそ教採に受かってほしいな…」


 美弥がカフェラテを飲みながらつぶやいた。三角美弥とは大学二年の時からの付き合いである。こんな僕を見捨てることなく、ずっと見守ってくれる。美弥は僕と違って、大学四年生の時、大学現役で教員採用試験に受かり、霧島の初任校で教育に関する様々な技術を磨く。


 その後、市内の西多弐山小に転勤となり、今年は六年生を受け持っている。一時期、僕は離島、美弥は霧島と離れていたため、年に二回しか会えない時もあった。しかし、幸いなことに僕らは離れることなく、今に至っている。


「分かっているよ。今年こそ受かって、お互いの両親に結婚の挨拶をしに行こう」


「そう言って、もう何度待たされたことか…。もう私達、九年も付き合っているのに…」


「でも、やっぱり、そう言うことは教採に受かってから、きちんと正規の教諭になってからでないとダメだよ」


「だから、私はそんなこと気にしてないし…。穂高さえ、気にしないなら、もう今頃、私達、結婚しているって…。今時、臨採だから結婚したくないなんて言う人なんていないよ。臨採同士で結婚している人だって、周りにたくさんいるし…」


 いやいや、さすがに臨時採用の教員同士の結婚はあまり聞かないけどな…。同じ分野の仕事をしていても、男と女では情報源が異なるのだろうか?


 昔はこうじゃなかったのに…。いつからか、美弥は会うたびに結婚をほのめかすようになった。東日本大震災後はさらに露骨になった。別に僕は結婚するのが嫌な訳ではない。できるなら、一日でも早くしたいぐらいである。


 今は偶然、臨時採用の口があるからいいが、臨時職員なんて、いつ辞めさせられるか分からない。そんな不安定な状態で結婚などできない。


 やはり、教採にきちんと受かって、正規の教員になってから結婚すべきである。美弥にはそのことを何度も伝えてきた。しかし、彼女は


「私が正規の教員として働いているから大丈夫!」


と言って、全く取り合ってくれない。僕らは結婚を意識するほど仲がいいのに、結婚が二人の距離をどんどん遠ざけているような矛盾に陥っている。この問題を解決するためにも、何としても教員採用試験に受からなければならない。

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