ご両家への挨拶
九月に入り、二学期が始まった。夏休みに七回目の教採一次試験の不合格があったり、変な勢いで美弥にプロポーズしたり、秋人が一発で教採一次合格を決めたり、…といろいろあったのが遠い昔のように思える。
それにしても、九月も半ばを過ぎたと言うのに、残暑が厳しい…。朝晩は大分過ごしやすくやすくなったが、昼間はまだまだ真夏日が続く。こんな中で、運動会の練習をするものだから、子ども達にはこまめに水分を取るように口酸っぱく言う。
地球温暖化の影響か…。年々、秋が短くなっていく。夏から急に冬へ突入するような年が増えている。ただでさえ、南九州の秋は短いと言うのに…。
学校では毎日、子ども達に追われる日々が続く。その上、二学期は運動会や学習発表会などの大きな行事が続く。
その合間をぬって、三角美弥と自分の両親にそれぞれ挨拶した。どちらの両親も急なことで、すごいびっくりしていた。美弥のご両親とはすでに何度か会ったことがあったけど、それでも緊張する…。
三角家に行った際、美弥の父親と母親が玄関で出迎えてくれた。父親が異常なほどピリピリしていて、初めの言葉を交わすまでずっと僕をにらんでいた。その後、床の間で開口一番…。
「まさか、できたのか? それだけは許さんぞ!」
とおっしゃったほどである。美弥はでき婚ではないし、入籍をするのは僕が教採に合格してからにすると決めてあると伝えた。すると、父親に二人の誠意が伝わったらしい…。一転して、結婚を許してくれた。
ただし、翌年の教員採用試験にきちんと合格して、翌年の秋には式を上げられるようにしてくれ…と注文を付けられた。
それは多良木家でも同じだった。うちの親も美弥を見るのは初めてではないはずなのに…。挨拶の席ではぎこちなかった。そして、やっぱり美弥の父親のような反応をしたし、必ず教採に受かってから、式を上げるように注文を付けてきた。父から、
「男の責任をきちんと果たさないと、相手方に申し訳が立たない…」
と言われた。これで来年の教採でこけたら大変だな…。
「来年がラストチャンスだよ。もう、これは穂高一人の問題ではなくて、私達二人の問題だからね…。もし、できることがあれば、私も何でも手伝うから…」
これはかつてないほどの重圧がかかる。美弥の言う通り、これまでのように自分だけの問題ではない。失敗すれば、僕らの結婚どころか、多良木家と三角家の関係まで悪くなりそうだ。
ああ、考えただけで胃が痛くなる…。まだ、十月だと言うのに、いつになく勉強がはかどった。やはり、別のプレッシャーを背負い込んだからだろう。所帯を持つと言うのは夢絵事でだけでなく、現実も重くのしかかるのであった…。




