あの一言が言えない…
「あのさ…」
「なあに?」
「久しぶりにアミュランに乗らない? 仲直りもしたことだし…」
「それ、いいね。アミュランなんて、オープンした時に乗ったきりだ。たまにはいいかもね」
よし、行ける! この勢いのまま、中央駅横にあるアミュプラザの駐車場に車を泊めて、美弥と手をつないで、アミュプラザに入った。もう、夜の九時を過ぎている。
一階の入り口横のエレベーターから真っすぐ六階へ向かう。エレベーター越しの夜景もきれいだ。左側には鹿児島中心部の街の活気ある明かりが、右側には住宅街の優しい明かりが見える。そして、正面には桜島が雄大に構える。
六回に着いてから、係員からチケットを買って、勢いよくアミュランに飛び乗った。アミュランには驚くほど人がいなくて、がらんとしていた。まあ、平日の夜だからな…。
「うわっ、懐かしい…」
美弥がうれしそうに呟く。アミュランとは中央駅横にあるアミュプラザの屋上にある観覧車のことである。アミュプラザは新幹線が部分開業した年の秋にオープンした。
あれは大学三年の時の出来事である。確か、教育実習が終わった後に行った。早いもので、あれから八年が経つのか…。あの頃、付き合い出して一年の記念にアミュランに乗った。
あの時はこんなに長い間続くとは思ってもいなかった。あの時、観覧車に乗りながら、「いつまでも続きますように…」と二人で願った。そして、今夜、あの夜に思いを重ねる。
「ねえ、美弥、覚えてる? 前、観覧車に乗った時、二人で『いつまでも続きますように…』って願ったこと…」
「だったねぇ。もちろん、覚えているよ。一年記念け? アミュができてすぐだったから、ここもわっぜ混んでたよね。懐かしい…」
「おかげで、いろいろあったけど、僕ら九年も付き合って来れたよね」
「そうだね。付き合う相手が穂高で本当によかった…」
「僕もそう思う。美弥と出会えて本当によかった…」
そう言うと、もう何も言葉はいらない…。本当はここでバシッと決めるべきだったけど、ムードを壊す訳にもいかない。それからしばらく、僕らは唇を重ねる。気付いた時には観覧車は一番上まで来ていた。
「あのさ、今日、どうしても言いたいことがあるんだ…。聞いてくれるかな?」
「どうしたの? やっぱり、今日の穂高はなんか変…。ま、まさか…」
「安物でごめんけど…、け…、け…」
緊張のあまり、先に指輪ケースを見せてしまった。もう、美弥に見えてしまったけど、あわてて隠した。ようやく、全てを悟った彼女は何事もなかったかのように、ただ僕を見つめている。




