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第二章 1

 水上都市水月。

 それは日本海に浮かぶ、人工の島である。

 外観は真上から見ると、完全な円形状。中央ブロックを中心に八のブロックが時計回りに並ぶ。

 その面積は東京都とほぼ同じ。人工物としては規格外の巨大さだ。

 さてこの水月、表向きは政府直轄とされているが、真相は別である。この島を造り出し、支配しているのは、何を隠そうフリークスだ。

 そもそも、かの裏組織が持つ科学力でなければ、こんな大規模な島など造ることは不可能である。

 といっても、政府とフリークスが癒着しているわけではない。むしろその逆といってもいいだろう。

 このような誤解を招きかねない管理体制となった理由は、能力者である。

 能力者には人権がない。されど、罪を犯せば即死刑というわけにもいかない。各団体の抗議もあるし、法務大臣の思想などもある。

 では死を免れた者達は、どこへ送ればいいのだろうか。

 水月ができるまでは、普通に刑務所へと入れていた。が、これはなんら意味をなさない行為だ。力を使われれば簡単に脱獄されてしまうし、その際の犠牲者も少なくない。だからといって、なんの罰もなしに社会へ解き放つのは論外。

 奴等は、隔離する必要がある。そう考えたのが、一五年前の政府高官達だ。

 では、どういった場所に連中を集めればいいのか。そこが問題だった。

 国内の土地を使うとする場合、結構な面積を使うことになる。そうなると、そこに元々住んでいた人間達には退去してもらわなければならない。

 そのようなことをすると、世間からの批判を浴びてしまう。ただでさえ能力者への対処が遅いと叫ばれている状況である。火に油を注ぐことは避けたい。

 さてどうしたものか、と政府の者達が悩んでいるところに擦り寄ってきたのが、フリークスだった。

 曰く、我々が能力者の隔離場所を提供する。代わりに、その場所が存在することを永久に認めて欲しい。

 どうにも怪しさを感じる要求だったが、他に術はない。政府高官達はそれに応じた。

 それから七年後、彼等は己の選択を後悔することとなった。

 フリークスの目的は、能力者の勧誘。国内に散らばる力ある者達をわざわざ探すよりも、一点に集めてしまったほうが楽だというのが、彼等の狙いだった。

 結果として、それは大成功。フリークスの戦力はさらに強大となり、支配者としての立場はより強固となった。

 水月とは能力者の隔離場所であり、フリークスの宝箱なのである。

 

 そんな場所の第二ブロック。

 

 ここには大規模な繁華街が広がっており、その活気は全八ブロックの中でも一、二を争う。

 立ち並ぶ店舗は非常に多種多様。その景観は渋谷や池袋と比較しても遜色ないどころか、それ以上の発展具合だ。

 午後一時二〇分。人々の喧騒を煩わしく思いながら、加賀美俊彦は歩道を進んでいた。

 周囲の者達は、意図的に彼を避けている。それは一九〇センチの長身や威圧感なども原因だが、それ以上に顔面が問題であった。

 彼の右半分には、痛々しい火傷の痕がある。それがいかつい外見と相まって、人々を怯えさせているのだ。

 ――今こうやって生きてることは、奇跡としか言い様がないな。あんな所から海に落ちた時点で死は確定したものと思っていたが……。やはり、俺の運はまだまだ衰えていないらしい。

 海中への突入によって、身を焼いていた炎はどうにか消すことができた。けれども、さすがに四二メートルもの高さから落下して平気なわけもない。海面へ衝突したことで、加賀美は全身に大ダメージを負った。

 落下によっての死は回避できたが、こんな状態では寿命を僅かに伸ばしただけに過ぎない。

 諦めが心を支配しそうになった時、二度目の僥倖が起きた。

 なんと、すぐ近くに船舶がやってきたのだ。加賀美は痛みに耐えながら必死に助けを求め、命を拾う。

 その後病院へ運ばれたが、彼は入院を断り、知人の治癒系能力者に傷を治してもらった。

 それによって、全治半年のダメージが僅か三日で完治。

 ただし、顔面の火傷だけは、痕が残るようにしてもらった。

“誓いの証”が、欲しかったのだ。

 加賀美は火傷の痕を摩りながら、心中で呪詛を吐く。

 ――必ずこの借りは返す。裏切りには死をもって償わせる。

 殺すのは和哉だけではない。静香も、だ。

 傷を癒していた三日間、加賀美の目と耳にも、当然ながら情報が入ってくる。自分が何十人もの命を奪った殺戮者だと報道されている、という情報が。

 これは、普通ならありえぬことだ。仕事を行った者の情報は、フリークスの権力によって表に出ない。罪を揉み消されるのである。

 それがなかったということはつまり、和哉の凶行は、静香の指示であるということ。

 最初は信じられなかった。親友と思い人、同じ釜の飯を食い苦難を共に乗り越えた仲間、それが自分を裏切るなどとは、思いたくもなかった。

 けれど、あの二人が自分をハメたことは厳然たる事実。それを受け入れるごとに、憎悪の炎は燃え盛り――結果、加賀美は命を賭しての報復を誓った。

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