第四章 11
センタービル地下、モニタールーム。
「アハハハハハハハハハハ! 用意したのが一体だけだと思ったら大間違いよ!」
大音量の笑声を発する静香。彼女は決定づけられた勝利に酔いしれていた。
刀子がロボットを破壊することなど、彼女からしてみれば計画の内。何せあちら側には道無がいる。少し交戦しただけで、戦闘データをもとに行動プログラムを組んでいることなど見透かされてしまうだろう。
それはそれで問題ない。むしろ好都合だ。苦労して一体を倒した後、大量のロボットが出現。その際に生まれる絶望は、いかほどのものだろう。
それを味わわせてやれるのだから、道無が一体目を倒すことは逆に喜ばしいことだ。
「そして、今奴等の心には恐怖と絶望が訪れている。表情は変わらないけれど、私にはわかるわ。このどうしようもない状況に、道無と刀子は少なからず怯えを感じてる。あぁ、本当にいい気味だわ。計画は大成功よ!」
喜悦に満ち満ちた声を放ち続ける。
当然ながら、彼女とKRSの計画に隙はない。この圧倒的優勢すらも覆してきた時のために、機械人形達には漏れなく自爆装置を搭載してある。
もし万一不利となったなら、それを発動させれば良い。そうすれば、道無はもちろん刀子に至っても抹殺できるだろう。
奴等があの場所へ来た時点で、もはや勝負は決まっていたのだ。
「あとは戦闘プログラムを発動させるだけ。さぁ、無様に死になさい外山道無! ついでに斬崎刀子!」
静香は左手を振りかぶって人差し指で天を指し――パソコンのキーボード、エンターキーを勢いよく叩いた。
これでロボット達の攻勢が始まる。彼女の悦楽が爆発する瞬間が訪れる。
はずだった。
「…………ん?」
モニターを凝視する静香。画面に映る機械人形達に動く気配はない。
「……タイムラグでも発生してるのかしら?」
言いながら、もう一度エンターキーを押す。それでも反応はない。
再び押す。ダメ。四度目のチャレンジ。ダメ。
ロボットの群れは、一ミリも動かない。
「どうなってるの、これ?」
困惑した様子で呟く。それに応えるかのように、着信音が鳴り響いた。
携帯に表示された名は、KRS。ちょうど静香の方からかけようとした直前の出来事だった。
この状況について問い詰めるべく、彼女は通話を開始した。
「ちょっと、これは一体どうなって――」
「ごめんなさぁい。ハッキングさせてもらいましたぁ。だからロボットさん達は一切動けませぇん。あのぅ、なんといいますか……本当にごめんなさぁい」
「……あんた誰?」
思わず質問してしまった。
声はKRSのもので間違いない。しかし、喋り方があまりにも違いすぎる。これでは別人だ。
KRSは電話越しに謝るのみで、何も答えようとしない。
埒の明かぬ状態。されど、静香の心に一つの言葉が反響する。
早く逃げろ。
その声が聞こえた途端、彼女は通話を切って立ち上がり、室内を出た。
エレベーター内へ移動し、ボタンを押す。目指す場所は屋上。そこには自動操縦ヘリを配置してある。こんなこともあろうかと、前もって用意しておいたのだ。
屋上へ到着するまでの時間中、静香の脳は驚くべき速度で回転。現状把握はすぐに終わった。
「私は、KRSに裏切られた。いや、これはそんな程度じゃない。……あぁそうか、そういうことだったのね。最初からこうなることは決まっていたんだわ。私は“あいつ等”に操作されて……!」
結論を弾き出すと共に、静香は壁を殴りつけた。
ジンジンと痛む拳などお構いなしに、二発三発と打ち続ける。
「今回も、私の負け……しかも、とんでもなく屈辱的な……! けど、私はまだ死んでないし、これからも死なない。生き延びて、いつか必ず復讐してやる!」
六発目を壁に打ち付けたところで、最上階へと到着。
エレベーターから降りて、屋上への移動ルートを進む。
道中、誰とも会うことはなかった。道無達は、まだあの部屋にいるはずだ。
ロボットが動かないことで、戦いが終わったことは容易に判断できる。となると、刀子は道無に襲い掛かるだろう。彼女が逃亡の手伝いをしてくれているというわけだ。
そして、静香は障害に遭うことなく屋上へ。中央に用意しておいた移動手段があることを確認して、ホッと一息ついた。
そのままヘリに乗り込んで、持っていた装置の発進ボタンを押す。
プロペラが回転を始め、浮き上がる。上昇の後、移動を開始した。
これで、生き残りは確定だ。あとは目的地である第二アジトまで待てば良い。
脱力し、椅子に全体重を預ける。
このヘリは静香の移動専用に作られたオーダーメイド品だ。大型の体躯なだけに内部はかなり広く、窮屈な思いをすることはない。
設備もある程度整っており、移動までの時間を退屈に過ごさずに済む。
搭乗してから一〇分は、思考を巡らせながら過ごした。が、それに飽きが生じたため、彼女はテレビでも見ようと電源ボタンを押そうとする。
そこで、静香は気づく。ヘリが、停止していることに。
窓から外を確認。現在位置は第五ブロックの中心辺りだろうか。
そこで、ヘリが完全に止まっているのだ。
「ど、どうして――」
言葉の途中で、ドアの開く音が聞こえてきた。




